提督「放置してみる」艦娘「放置された」前編
榛名とバレンタイン
榛名「もうすっかり夜になってしまいましたね」
提督「遅くまでごめんな」
榛名「いえ!榛名、久しぶりの秘書の仕事、楽しかったです」
朝から榛名が秘書として手伝ってくれた今日も、気づけば完全に夜。古参である彼女の手際はかなりいいのだが、今日は雑談を多く交えたために遅くなってしまったのだ。
提督「今日はありがとう。戻ってゆっくり休んでくれ」
榛名「…………もう少しだけよろしいでしょうか?」
提督「いいけど、どうかした?」
榛名「い、いえ!榛名、提督の執務室からの夜景が大好きなんです。だからもう少しだけ眺めていたいなーって……」
提督「ああ、そういうことか。なら別に構わないさ」
榛名「…………はい!」
執務室からの夜景と言っても、見えるものはドックの微かな光と海。街の明かりのような豪華さはないが、このような落ち着いた夜景はこちらとしても大好きだった。
窓から乗り出すように外を見つめている榛名は、手で何かを必死で隠しているようにも見える。
榛名「──────提督!」
提督「ん、どうした」
榛名「あの……えっと…………」
何かを決心したように振り向いた榛名の手には、ピンクでハート形をした小さな箱。小さいながらも丁寧にリボンで結ばれている。
榛名「もしよかったら…………」
榛名「この榛名のチョコレート、貰っていただけますか?」
提督「チョコレート……え、もしかして手作り?」
榛名「はい!榛名、提督のためにちょっと頑張りました」
提督「榛名…………。わざわざありがとう」
手渡された小さな箱を開けてみると、チョコにしては大きめの、箱と同じくハート形のチョコレートがひとつ入っていた。
まだ口にしてはいないが、チョコレート独特の香りで「美味しい」ということは明確である。
提督「もう食べてみてもいいかな?」
榛名「あ……少し榛名に貸していただけますか?」
提督「ん、おう」
チョコを口に運ぶ前にストップをかける榛名。意図がよくわからない。
言われたとおりに渡すとそれを片手に目を瞑っている。
そうしてひとつ、大きく息を吐いた。
榛名「提督、口を開けてください」
提督「…………えっ」
榛名「……………………」
提督「……………………」
戸惑いつつも口を開いてしまうあたり、きっと榛名の思う壺なのだろう。開くと同時に手に持たれている甘いものが入れられるのだった。遠回りであるが食べさせてもらった形だ。
甘い味が口に広がり、甘い香りが鼻腔をくすぐってくる甘さしか感じないようなチョコレートだった。
提督「甘い。そして美味い」
榛名「ほ、本当ですか!?嬉しいです!」
榛名「もっとたくさん作ってくれば良かったでしょうか……?」
提督「いや、まあ食べすぎも良くないって言うしな。一つでも十分だ」
榛名「来年はもっとたくさん作りますね」
なぜ一つで十分なのか?止まらなくなりそうだからだ。
これを二つも食べたら間違いなく追加で要求したくなるだろう。むしろ一つだけの今ですらだいぶ危ない。
榛名「そういえば、榛名は味見をしてませんでした…………」
提督「そうなのか?美味かったし大丈夫だけど」
榛名「で、でもその……味見してみたいじゃないですか」
提督「でももうチョコは残ってないはずだが」
榛名「一つだけ、残っている場所があるんですよ?」
提督「…………場所?」
榛名「ちょっとだけ、提督に残ってます」
提督「…………それって──────」
榛名「ん──────────」
提督「!?──────────」
榛名「んっ………………ふふっ♪」
榛名「大成功です♪」
敷波を放置
敷波「──────司令官も忙しいんだね」
提督「そりゃまあ、それなりに」
敷波「ふーん…………」
暇だから遊びに来たという敷波は少し離れた場所で壁に寄りかかっている。
特にアクションを起こすような様子もない彼女を横目に、いつも通り報告書を持ってくる艦娘や任務書類の整理に追われていた。
提督「えーっと、次は……………………」
提督「ん、ここ少し違うか。まずはこっちを直して…………」
敷波「…………ふんっ、敷波のことなんか、どうせ忘れてるよね」
後ろで腕を組んで目を逸らす敷波。俺が紙の山ばかりに向き合っていたので不貞腐れてしまったようだった。
壁に寄りかかって後ろで腕を組み、つま先を立てて足首を回している。
彼女がこんな仕草をした場合、思いとは裏腹の言葉を発するのが常である。しかしそれをわかっていても、仕草が可愛くてつい便乗してしまうのだ。
敷波「ま、いいけどさ…………」
提督「忙しいからなー仕方ないな」
敷波「……………………よくない」
提督「ん、なんか言ったか?」
敷波「っ!は、早く仕事終わらせなよ」
提督「終わらせたいんだけどな、少し量が多くて」
敷波「…………………………」
それを聞いた彼女は少し考えている。
やがて背中を反らせて戻す反動で壁から離れると、仕方なさそうにこちらへ歩み寄ってきた。依然として腕は組まれたままである。
提督「お、手伝ってくれるのか?」
敷波「べっ、べつに……。遊びに来ただけなんだし、手伝うとかサービスなんだからね」
敷波「だからその…………あとで何か奢ってくれたりしてもいいし、さ…………」
敷波「な、何もないってならそれでもいいけど…………」
提督「はは、何か考えておくよ」
敷波「……………………ん」
小さく呟いた短い音だが心なしか嬉しそうに聞こえる。
そうして一度髪を結び直し手伝ってくれる敷波のすぐ横で、今度は二人で書類に向き合うのだった。
提督「そんな近くに居て、作業しにくいんじゃないか?」
敷波「いいんだよー、ここが字とか見やすいんだしさ」
敷波「ここなら忘れられないし…………」
提督「え?」
敷波「な、なんでもないっ!あたしを巻き込んだんだから、あんま長引かせないでよね」
夕張を放置
夕張「────────平賀さんの才能って、ほんと素敵よね……」
惚れ惚れとした口調でそう発しながら自らの艤装を撫でている、緑色のリボンを付けた艦娘が一人。用があって部屋の前まで来たわけだが偶然ドアが開いていたのだった。
彼女の言う平賀さんとは平賀譲氏のこと。
古鷹型・妙高型重巡、川内型軽巡や夕張などを設計した人物だ。小柄な夕張の船体に5500トン級と同じような武装を施した張本人でもある。
提督「何かと警戒されたしな」
夕張「ほんとほんと…………」
夕張「……って、あ、あれ?提督いたの!?」
提督「このくらいの時間に来るからって伝えただろ」
夕張「時間って…………あ、もうこんな時間なんですね」
思い出したように時計を見上げ、ようやく時間に気づいた様子の夕張。わかってはいるが、彼女は一度自分の世界に入ると自力ではなかなか抜け出すことができない性格なのだ。
提督「少しは時間も気にしなさい」
夕張「はーい」
適当に返事を済ませると徐に立ち上がり、またも艤装に触れ始めてチェックをしているようだった。
さすがは兵装フェチ、抜かりない。各部を呟きながら指差し確認をする程度には凝っている。
また始まった……そう思いながらしばらく眺めていると、それが伝わったのか思い出したようにこちらへ振り向いた。
夕張「あ、それで提督、なんのご用ですか?」
提督「秘書やってみたいとか言ってたからお願いしようと思ったんだが」
夕張「え、いいんですか!?」
提督「お前がいいって言うなら大歓迎だ」
夕張「行きます行きます!」
ここに来た理由は数日前、夕張が秘書をやりたいと言っていたからに他ならない。
なぜ突然言い出したのかはわからないが、考えてみると彼女にお願いしたことはなかったかもしれない。自然と言えば自然なのだろう。
提督「ところで、なんで急に秘書やりたいとか思ったんだ?」
夕張「この前執務室から駆逐艦の子が出てきたときに、なんかすごく楽しそうな顔してて……」
夕張「だから楽しいのかなーって」
提督「…………それたぶんやたらと甘えてくる子たち」
夕張「あ、秘書ってそういうことできるんですか?」
提督「いや、ちゃんと仕事しような?」
夕張「仕事終わればいいんですね!」
一度入ったスイッチは長い間切れることはない。集中してるときは大いに結構ではあるが、このような時も同じのようである。こちらとしてもまだ夕張のことをわかっていない節もあるのだろう。
言葉を借りるなら、秘書をお願いしている間に『データをとる』ことを決意するのだった。
しかしそれは、どうやら彼女も同じ考えだったようである。
武蔵を放置
夜。
カタカタとキーボードを叩く無機質な音が部屋いっぱいに広がる中、大和型二番艦の武蔵は艤装を付けたまま、穏やかな表情でこちらを向いている。
武蔵「提督よ」
相変わらず左手の指に徹甲弾を挟みながら歩み寄ると、机を挟んだすぐ向こうで立ち止まった。
武蔵「忙しいなら、ブラウザを閉じるのもまた……提督のあり方だ」
提督「残念ながらブラウザは開いていない。明石と夕張が取ってくれたデータで戦略を立ててるだけだ」
武蔵「なに?次の戦略を考えているだと?」
提督「まあそういうこと」
それを聞くと感心したような様子で「それはすまなかった」と告げ、ゆっくりと歩き椅子に近づく。
腰を下ろそうとしたらしいが、すぐに艤装を付けたままのことに気づき外しにかかっている。
慣れた手つきでそれを外し床に置くと、漸く彼女は椅子に腰を下ろすことができた。
武蔵「しかし、秘書であるこの武蔵に頼らぬとはどういう了見だ提督よ?」
提督「お前がパソコンいじれるなら頼んでるよ」
武蔵「…………書類くらいは片付けてやってもいいぞ」
提督「この間自分で書いた字を読めなくなって大和に聞いてたのは誰だ?」
武蔵「…………達筆すぎるから仕方ない、と大和に言われたな」
提督「間違っちゃいないけどなぁ…………」
提督「で、大和は読めたのか?」
武蔵「解読不能と言っていた」
提督「………………ふふっ」
武蔵「………………笑うな」
そうして実に下らないやり取りをしているうちに、ついには日付が変わるような時間になっていた。
それに気づいた武蔵は静かに立ち上がると、今度は机近くの椅子に腰を下ろす。
武蔵「この武蔵が深夜零時をお知らせする」
提督「遅くまで付き合わせて悪いな。もう戻ってもいいぞ」
武蔵「まだ仕事は残っているのだろう?秘書として居残るのは当然だ」
提督「でも頼むようなことはもう残ってないが……」
武蔵「では話し相手になってやる。退屈だろう?」
すぐ隣に椅子を移動させる武蔵は不敵な笑みでニヤッと笑う。対する俺は本心を言い当てられて動きが止まる。
どうやら全てを見透かされているようなそんな錯覚に陥ったとき、無意識にも彼女が入れるようなスペースを作るために椅子を寄せてしまう自分がいた。
提督「物好きな奴だ」
武蔵「…………ああそうだ、私は物好きだな」
武蔵「しかし、今の言葉をそっくりそのまま返そうか。ふふっ…………」
提督「………………笑うな」
以上で4艦隊分のリク消化終了しました。ここまで見ていただいた方、ありがとうございます!
予告通り追加でリクエストを取ります。あまり多すぎても書ききれるかわからないので、とりあえず一艦隊分の6人
一度書いた艦娘でも構いませんが、その場合は糖度たっぷりの続きを書きます。R-18描写は書きません、書けません
今回イベントの実装艦も大歓迎です!
21時直近の3名、同じく直後の3名となりますのでご了承ください。一人1つまでで連投は禁止です。どうぞよろしくお願い致します
それではまた後ほど
望月を放置
望月「んー、たまには縁側で日向ぼっこもいいねぇ」
提督「ほう?連れてきたときはあんなかったるい感じだったのに凄い変わりようだな」
望月「…………司令官に付き合ったげてるだけってのは変わんないって」
部屋に籠って出ようとしない望月を半ば強引に引っ張り出してきてから、早くも休憩時間が終わる時間になろうとしていた。
相変わらず気怠そうにしてはいるものの、どこか楽しそう……に見える気がする。
提督「じゃ、付き合わせても悪いし戻るかな。そろそろ休憩も終わりだ」
望月「………………ん」
そうして立ち上がろうとしたとき、軽く服の裾を引っ張られるような感覚のせいで立ち止まった。引っ張るというよりは立ち上がるのを拒むといった感じだろうか?
この場所には今二人だけ──────
もちろん犯人は一人だけ。
提督「……望月」
望月「まだ早いって。焦らない焦らない」
そう言って成り行きで元の場所へ座らされてしまった。
誰も仕事を好き好んでしたいわけではない。仕方のないことだろう。結局のとこ、もっと休憩したいと思っていたわけである。
望月「まぁいいんだよ、動くとしんどいから」
提督「戻るのが面倒なだけだろうが」
望月「そんなこと言って、司令官も残るってことは同じっしょ」
提督「…………なんでそういう時は勘が冴えてるんだよ」
望月「いいじゃんいいじゃん。ぼーっとしてよ?」
提督「はぁ…………お前ってやつは……」
いつの間にか裸足になっては両足を前後に振っている。その彼女が作り出す振動が縁側を通して伝わってくる。
いつも気怠そうにしている望月と同じ人物とは思えないくらいにご機嫌な様子で、呑気な鼻歌まで聞こえてくる有様だ。
そうしてしばらく、言うとおりにぼーっとしている時間が過ぎ去っていく。不意に例の振動が途切れたかと思うと、すかさず肩にふわりとした重みを受けた。
望月「いい枕があるじゃん。少し寝ちゃうかねー」
提督「本格的に戻れなくなるから……」
望月「んー、いいって。平気平気、なんとかなるって」
提督「…………ほどほどにしろよ?」
望月「はい、オッケーもらいましたー」
すぐさま目を閉じて睡眠姿勢に入っている。さすがは望月、休むことに関しては手慣れているようだった。この調子では『ほどほど』では済まず、それなりに長い時間寝ているのだろう。
まあいっか……────────
そんな思考が脳裏を掠めた。
春のような陽気な日差しの下。寄りかかる望月と過ごすうちに、想像以上に感化されてしまったようである。
山城を放置
山城「なに……?姉さまと山城が出る海域は、もう無いというの……!?」
震えたような声に振り向くと、椅子に座る山城。先ほどまでは机に伏せて寝ていたと思うのだが起きたようだった。姉と比べて短めの黒髪が若干乱れているのは、恐らく寝起き特有のものだろう。
提督「山城?」
山城「どういうことなの……?不幸だわ…………そもそも……!」
提督「…………山城、大丈夫か?」
こちらの声はまったく聞こえていないという風に言葉を続けるが、その全ての音が震えている。普通に聞けば恐怖すら覚えそうな雰囲気を醸し出していた。
彼女に限らず、艦娘というのは艦艇だったときの記憶が時折頭を過ることがあるという。
それはもはや提督という立場ではどうしようもないことではあるが、落ち着くまでの手助けくらいはできる。その方法は千差万別であり、文字通り人それぞれであった。
山城「…………すみません。少し夢見が悪かったので」
提督「あるある」
山城「扶桑姉さまはどこですか?」
提督「扶桑?たしか今は入渠中だが、少し長くなるとか言ってたな」
山城「そう、ですか…………」
諦めた様子で椅子に座り直し下を向き、まだ収まることのない動揺を必死で抑えようとしているように見える。
が、間もなくしてそれも諦めたらしく大きく溜め息を吐くと、不意に立ち上がってこちらへと歩み寄ってきた。
山城「どうしてもダメなので姉さまの代わりをお願いしたいんですけど」
提督「扶桑の代わり?務まるかなぁ……」
山城「いいんです。提督ならきっと大丈夫ですから」
提督「ところで何をすればいいんだ?」
山城「それは……その────────」
提督「落ち着いたか?」
山城「……………………意外と」
提督「扶桑にはいつもこうしてもらってるのか」
山城「これが落ち着くので」
今でこそぶっきらぼうに答えているが、扶桑の代わりを頼み込んできた山城の口から出てきた言葉は『抱きしめてほしい』
思わず聞き返してしまった。何しろ近づくだけで扶桑と勘違いされ、俺だとわかるとあからさまに肩を落とすあの山城だ。
麗しい黒色をした短めの髪からの仄かな甘い香りが鼻腔をくすぐり、それを感じる度にこちらの庇護欲をそそる。そのあまり締め方が強すぎないか……それだけが心配だった。
当初は衣服を挟んでも伝わって来た彼女の鼓動は、今やだいぶ落ち着いている。
山城「…………ありがとうございました。もう落ち着きましたよ」
提督「ん、良かった」
そうして離れようと試みたとき、強めに抱き寄せられることによって行動を阻まれた。
山城「でもまだですよ提督」
山城「まだ、余韻に浸ってませんから」
提督「余韻って……」
山城「嫌、ですか?」
提督「…………そうは言ってない」
一度は離れて様子を窺っていたが、返答を聞くなり今度は胸に顔を埋めてくる。それによって目の前へとやって来た例の黒髪に、思わず手を伸ばさずにはいられなかった。
山城「んっ……………………」
提督「あ、ごめん」
山城「少し驚いただけです……。続けてもらっていいですよ」
提督「え、怒らないのか?」
山城「…………姉さまと提督限定ですからね?」
いつの間に扶桑と並んで追加されたのか……。
そんなことも考えてはみたものの心当たりはなく、結局はわからず終いのまま再び手を伸ばしていた。
軽くクセのある山城の髪が指の間を流れていく。梳くごとに心地良さそうな、しかしどこか艶やかな声が漏れてくる。その反応が面白くて何度も繰り返してしまう。
極めつけには先程と立場が逆転し、抱きつかれているようなこの状況。鼓動が早くなっていることは間違いなく彼女にも伝わてしまっているだろう。
山城「提督」
提督「ん」
山城「また姉さまが入渠中の時にこうなったときは…………」
山城「お願いしてもいいですか」
提督「…………ご自由に」
山城「…………わかりました」
山城「『自由に』させてもらいます」
山城「ふふ…………♪」
蒼龍とほのぼの
蒼龍「──────♪」
提督「………………蒼龍」
蒼龍「はい、なんですか?」
提督「ちょっと狭い、いやだいぶ狭い」
蒼龍「いいじゃないですか、減るもんじゃなし」
減るものじゃないとは言うものの、こちらのスペースが明らかに減っていることには気づいていない。
冬の昼間、外は雪。
蒼龍と二人で炬燵に並んで腰掛けていた。『暖かくなるから』と言ってはぴったりと密着してくるために、本来確保されたであろうスペースは半分程度に減っているのだった。
蒼龍「得たものも大きいんじゃないですか?例えば暖かさとか!」
提督「さっきからそれしか聞いてないが暑いくらいだよ」
蒼龍「あ、酷いなぁもう」
少し不服そうな顔をして不貞腐れたかと思うと、どうやら見当違いもいいところだったらしい。
下から覗き込むようにニヤリと笑うと同時に、今度は足を絡ませて来たのだ。足の自由が利くので気に入っていた掘り炬燵という素晴らしい発明も、今回ばかりは憎く感じる。
提督「実はお前も暑いんじゃないか?」
蒼龍「え?私は平気ですよ。自分で絡めておいてそんなはずないじゃないですか」
提督「…………随分と顔がのぼせてるようだが」
蒼龍「う…………………」
結局のとこ暑かったのか、顔を紅潮させる蒼龍。はしゃいで密着していた先ほどまでとは打って変わり、バツが悪そうに目を伏せて下を向いている。
そうしてじりじりと離れていき、やがて絡まっていた足も解かれた。にもかかわらず、彼女の顔は相変わらず真っ赤にのぼせあがっている。
提督「…………まさかとは思うが、自分で絡ませてきて照れてんのか?」
蒼龍「…………そのまさかだったらどうするんですか」
提督「…………おい図星かよ」
蒼龍「わっ、笑わないでくださいよ!」
突然背中側から反転して後ろを向いたかと思うと、次の瞬間にはうつ伏せに倒れこみ、座っていた座布団に顔を埋めてしまった。
最初からやらなければ済む話だが、よほど恥ずかしかったのだろう。
提督「可愛い奴め」
蒼龍「うぅ………………」
昼下がり。足元に違和感を覚えたあたりから蒼龍の姿が見当たらない。
提督「潜ると本当に暑いだろ……」
蒼龍「もう、知りませんっ!」
磯風を放置
出撃を終え、旗艦である私は一番活躍した──MVPというやつを獲得した──浜風と共に、執務室へと続く廊下を歩いていた。他でもなく報告をするためである。
結果は完全勝利。十七駆で出撃したがこちらの損害は皆無だ。非常に誇らしい。
しかし浜風はというと、MVPを獲ったにも関わらずいつも通り冷静でいる。もう少し喜んでもいいものだろうとは思うが、そこが浜風らしいと言えよう。
磯風「司令、磯風だ。報告に来た」
提督「ん、帰ったか。お疲れさん、入っていいぞ」
返事を聞いてから浜風と並んで部屋へと入る。浜風は相変わらず引き締まった顔をしていた。
磯風「第十七駆逐隊、近海の敵に対し完全勝利だ。こちらの損傷はない」
提督「それは素晴らしい。よくやってくれたな」
磯風「いや……。この程度の働きではなんの意味もない。今日の立役者は浜風だからな」
提督「ほう、浜風がMVPか」
その場で姿勢を正し、敬礼して報告をする浜風。我ながら本当にできた妹を持ったものである。
消耗もなし、疲労もなし。疲労に至ってはむしろ戦意が高揚しているくらいだった。これならまた、いつでも皆で海へ出られるだろう。
磯風「ふふっ……。司令、第十七駆逐隊、いつでも出撃可能だ。疲労も損傷もしていない」
磯風「可能だぞ。なぁ浜風──────浜風?」
ふと隣にいるはずの浜風へ目をやると、どういうわけか姿がない。まさか部屋に戻ったなんてことはあり得ないだろう。が、ほんの少し見渡すと彼女はすぐに見つかった。
提督「浜風、よく頑張ったな」
浜風「ん…………ふふっ……♪ありがとうございます」
提督「あれ、勝利に浮かれるほど素人ではないとか言ってなかったか?」
浜風「……浮かれてません」
提督「顔が浮かれてる。完全に」
浜風「……じゃあそれはこの状況に──────」
いつの間にか司令の傍へ行っていた浜風は、さっきまでは想像もできないような満面の笑みで、ほんの少し頬を紅潮させていた。
いつも手入れは欠かすことのない綺麗なねずみ色をした髪は、いまや司令の大きな手のひらへと完全に預けている。
提督「お前はMVP持ってくるといつもこれだよな」
浜風「いけませんか?」
提督「いや、このくらいなら安いもんだけど」
浜風「…………これがないとMVPなんて獲りませんから」
提督「はは、そいつは大変だ」
どうやら活躍した後の褒美を受けているらしい。私はここに来て日も浅く、MVPというものを獲った経験がないのだ。
浜風はとても気持ちよさそうに頭を預けている。そんなに良いものなのだろうか?ひたすらに想像してみるが、どうにも上手くいかない。その時はただ、二人の様子を眺めることしかできなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
磯風「司令、磯風だ」
提督「おう、入っていいぞ」
声に反応すると、ドアからは磯風が一人。出撃から帰投の報告だろう。
提督「旗艦の磯風だけか。てことはMVPも……」
磯風「そうだ、この磯風だ」
提督「おお!初めてじゃないか?」
磯風「なに、容易いことだ」
前へと歩いてきては机の前で立ち止まり、的確に報告をする磯風。駆逐艦娘とは思えないような風格がある。風格だけなら戦艦を彷彿とさせかねない勢いだった。
磯風「──────報告は以上だ」
提督「ん、ありがとう。それでだ」
提督「ここではMVPを獲ると、軽い要望なら俺が聞くことになってるんだ。何かあるか?」
磯風「要望、か…………そうだな」
提督「あ、高いものは勘弁な」
磯風「安心してくれ、何も奢らせるつもりはない」
少し考え込んでから下を向くが、やがて決心がついたようで顔を上げる。そうかと思うとカツカツと靴を鳴らし、すぐ傍へと移動してきた。
べつにその場で言ってくれてもいいのだが彼女なりの考えもあるのだろう。
磯風「ではお願いしよう」
提督「そんな硬くなるなって。言いにくいことじゃないだろ?」
磯風「…………浜風と同じで頼む」
提督「…………えっ」
磯風「どうした、浜風にはできて私にはできぬと言うのか」
提督「いや、そうじゃないけど……意外だなぁって」
浜風と同じ……。つまりそれは、ただ単に褒めながら頭を撫でてあげること。いたって単純であった。しかし磯風がそれを頼んでくるのが頭にないと言うのは、当たり前の感情だと思いたい。
磯風「ではその……よろしく頼む」
提督「身構えるようなことじゃないだろ」
磯風「…………うるさい」
少し無愛想な、突き放したような言い方だが、頭だけはちゃっかりこちらへ持ってきている。ほんのりと赤くした顔だけ横を向いて目を伏せた彼女は、その時を待ちわびている様子だ。
浜風とはまるで違う黒髪に手を置くと、開けていた目が閉じられる。くすぐったいというような態度だった。
提督「磯風、今日はよく頑張ってくれてありがとうな」
磯風「この程度の働きではなんの意味もない」
提督「でも今日はお前の活躍で勝ったようなもんだぞ?意味あるだろ」
磯風「…………まあ、そう思うならそれでもいい」
素直じゃない。そう思ったが、戦歴を考えれば妥当なのかもしれない。
そうしてゆっくりと手を動かそうとしたとき、小さく華奢な手によって待ったをかけられた。白い手袋を越して温かめの体温が伝わってくる。
提督「嫌だったか?」
磯風「…………少し恥ずかしい」
提督「そうか。まあ今日はこの辺にしておくかね。とにかくMVPおめでとう」
磯風「…………お安い御用だ」
綺麗な髪を傷めないようそっと手を退かすと、どこか名残惜しそうにその場に居残る磯風。「戻っていいぞ」と声をかけた途端、いま気づいたようにハッとしてドアの前まで早足で歩いた。
回れ右でこちらへ向き直り一言挨拶をしてから、また反転しノブを回しにかかる。浜風のことを礼儀正しいと言っていたが、それはきっと磯風の影響も大きいだろう。
磯風「──────司令」
提督「ん、どうした?」
磯風「私は次もきっと、一番戦果を挙げてみせる」
提督「おう、期待して待ってるぞ」
磯風「だからその……なんだ…………」
磯風「次は途中で止めなくてもいいようにしようと思う」
提督「……それも期待してるかな。無理して沈むようなことはするなよ?」
磯風「当たり前だ。褒美も受けられなくなる」
短い会話を交わすと、彼女は「失礼した」と言って部屋へと戻っていった。褒美を気にするような余裕が出たというのはある意味で喜ばしい。
帰り際、終始硬かった彼女の表情が少し緩んでいた気がする。それを見られただけでもこちらとしては大きな収穫だった。手にはまだ、彼女の体温が淡く残っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
秋月を放置(続き)
提督「…………わざとやってないか?」
秋月「ま、まさか!」
提督「……………………」
秋月「……………………」
提督「………………まあいっか」
少しばかり疑いの意味を込めて秋月の目を見ていると、やがて彼女はバツの悪そうな引きつった苦笑いを浮かべた。間違いなくわざとやっている。
しかしそれはそれで可愛らしいものである。
提督「さすがに太ももの砲身を直すのは色々とアウトだろ……。自分でできるか?」
秋月「え、あ、その…………」
秋月「…………い、いつもの位置ってどこらへんでしたっけ?」
提督「真面目だから無理に嘘をつくとすぐバレるのな」
秋月「────────!?」
ぎこちなく聞いてくるが彼女が忘れるはずもない。大方のところ甘えてきていると言ったところだろうか?顔から火が出そうなほどに赤面しながらも、恥ずかしげに「お願いします」と言ってくるあたり秋月らしい。
肌には触れてしまわぬように砲身へ手を伸ばし、見慣れた位置に戻すだけの簡単な作業。ほんの数秒で終わるはずだが、どういうわけか遥かに長く感じられた。
そうしてなんとか戻した後、気を抜いてしまったところで指先に柔らかく、そしてスベスベとした感触が走る。
秋月「ひゃっ!?」
提督「あ、ごめん」
秋月「も、もう!びっくりするじゃないですか」
提督「偶然だ、ごめんな。わざとじゃないから…………」
秋月「あ……いえ!こちらからお願いしましたから…………」
咄嗟に手を退けて立ち尽くす俺。
触れてしまったところに軽く手を当て、目を伏せて立ち尽くす秋月。
何か言い出さないといけない。でも何も言い出せない。お互いに沈黙している時間が流れ、しばらくしてから秋月が口を開いた。
秋月「あ、あの…………整備ありがとうございました」
提督「お、おう。気を付けろよ?」
秋月「はい、すみません……」
目は伏せたまま素早く振り返って瞬く間にドアの前まで戻り、勢いよく開け放つ。いつもは欠かすことのない挨拶がないあたり、相当に焦っているのを物語っている。
秋月「司令」
秋月「──────また不備があったら……整備、お願いします」
提督「………………えっ」
それだけ言い残すと、まともな返事をする暇も与えずに彼女はそそくさと戻って行った。不備があっては困るが、それを整備しないのはもっと困る。意図せず触れてしまって不満だろうに、なぜ頼んできたのだろう?
それよりここに呼んだ目的を果たせずに帰られてしまったというほうが大きい。もう一度呼び出すにも、この状況では少し気が引ける。
どうしたものか……。
触れてしまった指先と見比べ、頭を抱えてしまうのだった。
春雨を放置(続きの続き)
提督「───────なんか起きてしまった」
3時間近く寝てしまっただろうか?不意に目が覚めると、未だにアンバランスな視界が捉えたものは天井。当たり前の光景だろう。
右腕ではまだ春雨が静かに寝息を立てている。
提督「そろそろ始めないと任務が終わらないなぁ……」
提督「これは仕方ない、うん」
まだ寝かせてあげたい。でもそれだと任務が終わらない。少しばかり心を鬼にして起き上がろう────
そもそも3時間も寝ているのだ、もし起こしてしまっても十分に寝たはず。
そう言い聞かせ、なるべくなら起こさないようにそっと肘を抜きにかかる。
春雨「………………んん……」
提督(起こしちゃったか?)
春雨「しれー、かん…………?」
提督「お、おう?」
春雨「ふふっ…………♪」
提督「……………………」
起こしてしまったかと思えば寝言。どんな夢を見ているのだろうか……。
気づくと笑い声とほぼ同時に小さな手によって腕は固定され、いつの間にか退けることさえままならない状況になっていた。無意識ではあろうが、まるで猫のように頬を擦り付けてくる。
提督「春雨ー?はるさめー?」
春雨「────────♪」
提督「…………ダメだこりゃ」
やがて気に入ったらしい位置で止まると、再び夢の中へと落ちていく春雨。先ほどより若干こちらへ寄って来たような位置だ。
そこで心地良さげな顔をされてはもはやなす術がない。
退かしかけた肘を戻し「はぁ……」とため息を吐く。
まだ当分は寝ているであろう彼女の目が覚めるまで、天井を見上げながら枕として過ごすのだった。
春雨「しれーかんっ♪」
提督「ん、起きたかな?」
春雨「…………すぅ…………すぅ………………」
提督「………………まあいっか」
金剛を放置
金剛「……んん…………」
静かな室内。聞こえてくるのは自らが発している紙の擦れる音と、微かではあるが金剛の寝息。どうも昨日は寝られなかったらしく暫定的にここで寝かせているのだ。
「目を離しちゃNO、デスヨ?」とは言われたものの寝てしまっては見えないはず。そっと抜け出して任務書類に目を通していた。
金剛「……………………あ!」
提督「あ、起こしちゃったか」
金剛「目を離さないでって言ったのにー!提督、何してるデース!?」
提督「いや、寝ちゃったから作業の続きをやろうかなーと……」
金剛「だからって私を放置するなんて酷いネー!」
提督「寝てたんだから大目に見てくれよ」
金剛「………………起きてたんですヨ?」
提督「………………えっ」
一瞬狼狽えた隙に、ここぞとばかりに攻めてくるのは戦場と変わらないようだ。言葉に押され結局のところ書類を持って元居た場所へ戻るのだった。
金剛「これなら作業もできて、顔も見れて、一石二鳥ってやつネ」
提督「はぁ……。まあいいけど。ちゃんと寝ろよ?」
金剛「もちろんデース!」
先ほど寝付いた時のようなトロンとした目で再び眠りに就こうとする金剛。閉じかけた目は真っ直ぐとこちらへ向いている。若干不満気だろうか?
提督「……どうした、不満そうな目をして」
金剛「紙を顔の前で読まれるとよく見えないネー……」
提督「仕方ないだろ、読みやすいんだから」
金剛「────────ちょっと貸して!」
かなり強引に書類を奪うと、それを手に取って捲りだす。同じように一枚、また一枚と指を進めるごとに音が響いた。
しかし視線は明らかに書類ではなくなぜだかこちらへと送られている。眠気はどこかへ飛んだのか、今度ははっきりとした目である。
提督「代わりにやってくれるのは非常にありがたいんだが…………お前それ見てないよな?」
金剛「NO!右目は提督を見てるケド、左目はちゃんと書類を見てマース!」
提督「んなわけあるか!正直に言いなさい」
金剛「……しっかりと両目で見てますヨ?──────」
金剛「──────提督を」
提督「ダメじゃねーか」
もはや取り返す気すら起きない。眠気とともに、「ちゃんと寝る」という約束すらもどこかへ行ってしまったようだ。そしてこの部屋の静粛も、転げ回って面白がる金剛の笑い声によって完全にどこかへ行ってしまった。
そんな中でも書類だけは綺麗に保っているあたり金剛らしい。長女なだけあって意外としっかりしているのだから侮れない。
金剛「Oh no!こんなことして転げてる場合じゃないネ!」
提督「だろうな。早く戻りなさい」
金剛「もちろん!転げてたら、提督がよく見えないデース♪」
朝潮を放置(続き)
朝潮「────────司令官!」
だいぶ遅刻をして部屋へと入ると、寂しそうな面持ちをした黒髪の少女が椅子に腰かけている。彼女はこちらに気づくと一瞬で顔を明るくし、勢いよく飛びついて来た。
提督「ごめんな、結局遅くなって……。しっかり休んだか?」
朝潮「えっと…………」
提督「………………朝潮?」
朝潮「す、すみません!命令だったのについ……」
口ごもる朝潮の後ろには、几帳面に整理された部屋の光景が広がっている。きっと休むことなく片付けてくれていたのだろう。
命令とあらば守るのが朝潮という子ではあるが、何かしら動いていないと気が済まないのもまた、朝潮という子の特徴だ。
提督「朝潮」
朝潮「…………はい」
提督「…………ありがとう」
怯えたような、申し訳なさそうな目をして身構える姿は無視して艶のある黒髪に手を置くと、予想通りの驚いたような反応をする朝潮。「休め」という言い付けに違反はしたが、さすがに怒る気にはなれなかった。
それを知るはずもない小さな頭の上で前後に手を動かすと、動きに合わせて身体を揺らしている。
やがてこちらに叱る気がないと分かったようで、抱きついたまま心地良さげに顔を擦り付ける。しっかり者の長女であるが、姉妹もいない二人の時は兜の緒を緩めるようだ。
提督「そろそろいいかな」
朝潮「も、もう少しだけ……」
提督「妹が来ても知らないぞ?」
朝潮「大丈夫です!みんなまだ遠征中ですから」
提督「あれ、俺は行かせてないが……」
朝潮「……………………」
無言で例の行為を続ける彼女は顔を上げようとしない。提督代行は頼んだ覚えがないのだが…………
それらしい理由を付けて遠征へ行ってもらったと言うが、資源には特に困っていない。彼女は何を意図したのか……。
それはとりあえずいいとして、そろそろ遠征から帰投する時間ということに気づいているのだろうか?
荒潮「報告書を持って来ました~……って」
朝潮「あ、荒潮!?」
荒潮「………………あらあら、意外と侮れないのね」
朝潮「────────っ!」
朝潮「みんなには内緒で…………」
荒潮「さあ~?」
荒潮「あらー、埋めたら恥ずかしがってる顔が見えないじゃない」
朝潮「~~~~~~~っ!!」
荒潮「うふふふふふ♪」
荒潮(あとで青葉さんにでもリークしようかしら)
五月雨とほのぼの
五月雨「えっと……提督?本当にこれで休憩できるんですか?逆に疲れたりしそうな…………」
提督「十分休憩できるし癒されるから問題ない」
五月雨「は、はぁ…………」
目と鼻の先には海のように青く長い髪。ほんのりと甘い良い香りが目の前にだけ広がっている。
椅子に腰かけて足を大きめに広げ、そこにできた隙間にちょこんと座る五月雨。ほんの出来心でお願いしてみたのだが、これが予想以上に効果抜群。いつもの休憩よりも癒されていた。
両腕を腹部へと回して軽く手を組むと、逃げられないことを悟ったのか諦めた様子でこちらに身を任せたようである。いくらか長めの足を床に届きそうで届かないような位置で遊ばせている。
五月雨「休憩が終わるまでですからね?」
提督「わかってるって。無理言ってるんだからそこは守るさ」
五月雨「む、無理なんてしてないです!」
提督「でも若干嫌がってなかったか?」
五月雨「嫌っていうかその、恥ずかしかったというか……」
提督「過去形だったら問題ないな」
五月雨「え、あ……もちろん今もですよ!?」
必死に弁明を続ける彼女を尻目に前で組んだ両手を少しこちらへ引き寄せると、意外にも素直に寄ってくる。まあその場に止まっていても苦しくなるだけなのだが。
そうして限界まで引き寄せ、先ほどより幾分か強めに抱きしめてみる。
五月雨「ふあっ…………」
提督「ごめん苦しかった?」
五月雨「ん…………大丈夫、です……♪」
提督「…………なんか楽しそうだな」
段々と苦しくはない程度に強くしていくと、その度になぜか心地良さそうな声が漏れる。抱きしめられるのが好きなのだろうか?強くするごとに引き寄せられてくる彼女の体躯は、今ではかなり密着できる位置にまで迫っていた。いったいどこまでいけるのだろう?
興味本位で限界点を探ろうと続けていた時、無情にも休憩が終わる時間になってしまった。
提督「付き合わせて悪かった。離すぞ」
続きはまた今度にしよう……。そう考えて大人しく組まれた手を離そうとするが、どうにも上手く離れない。温かみのある小さな手によって阻まれていたのだ。
提督「五月雨?休憩は終わるが……」
五月雨「も、もう少しだけ……。休憩が終わるまでっていうのは撤回で!」
五月雨「ダメですか…………?」
頭だけゆっくりと後ろへ倒すと、完全に上を向いた状態の彼女は俺の顔の前で純粋な目をしてそう発した。
目の前のつぶらな瞳は『続けろ』と訴えかける。時間ばかりが『仕事しろ』と訴えかけてくる。
どちらを優先するかなど考えるまでもなかった。
提督「で、今度はいつまでで?」
五月雨「提督が止めるまでです」
提督「じゃあずっとだな」
五月雨「はい!」
提督「……本当に当分止めないからな?」
時津風を放置
時津風「しれぇー」
時津風「……しれぇーーー!」
時津風「しれぇーってばー!ねー!」
手伝うという名目で遊びに来た時津風は最初からこの調子。反応すれば遊んで遊んでと急かされるだけの未来が見え透いている。
時津風「おーい聞こえてないの~?」
時津風「……ぅおーい!!」
提督「わかったから……。耳元で叫ばないでくれ」
時津風「むぅ……なんで無視するのさ!」
提督「用件が目に見えてるから」
時津風「今日は違うかもじゃん?じゃん??」
提督「…………じゃあ言ってみなさい」
隣というポジションから少しばかり離れて考え込む小動物的な少女。用件というのは今考えるものじゃないだろ、とツッコミを入れたくもなる。
考え込むときに「んーと」「えーと」などと声に出しながら頬に指を当てがう仕草は、彼女のトレードマークとも言えるものだった。
時津風「ん、よし!しれぇ、雪風っていま出撃してるでしょ?」
提督「してるな」
時津風「だから、あたしと遊べないでしょ?」
提督「……そうだな」
時津風「じゃあ司令でもいいかもね!いいかも!」
提督「よくないから……。てか結局いつもと同じという」
時津風「んー、今日はちょこっと違うかなー」
大回りをして右側へと回り込んでは動きの止まっていた右手を引きずり下ろし、自らがしゃがみこんでそれを頭に置く。撫でてほしいとでも言うのだろうか?
しばらくの間空いた左手で頬杖をついて様子を眺めていると、やがて彼女は持った手を両方の手で固定したまま、自分の頭を動かし始めた。
時津風「これなら司令はお仕事できるし、あたしは遊べる!」
提督「いや、仕事できないから。俺は右利きだから」
なるほど、と初めて気づいたような顔をする時津風。もちろん初めて気づいたなどというはずはない。意地でも遊んでもらおうと邪魔をするとき、彼女は決まって右手を封鎖するのだ。
用無しになったらしい右手を投げるように放すと素早く後ろから回り込み、今度は頬杖をついている左手を引きずり下ろす。施されることは右手のそれと大差ない。
時津風「左手ならいいでしょー」
提督「紙を抑えるのに使うんだが」
時津風「……いいのいいの!文句言わない!」
手伝うという名目はどこへ消えたのか問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。しかし彼女の「手伝う」という名目がこうなることももはや日常茶飯事なのだ、今さら咎めても遅すぎるだろう。
端的に言うと持たれてるだけだから左手くらいならなんとかなるはず……。プラス思考へと転じるのだが────────
時津風「しれぇ、やっぱり自分で動かすの疲れたー」
────────時津風にかかればそう上手くいくはずもないのであった。
比叡を放置(続き)
提督「…………なぁ比叡」
比叡「はい、なんですか?」
提督「本当にこんなんでいいのか?俺としては楽だし助かるんだけども」
比叡「私はこれがいいからお願いしてるんです!」
相変わらずキラキラと戦意高揚を示す状態な比叡は今日もMVP。これで実に出撃10回のうち7回も手中に収めている。間宮アイス恐るべしと言いたいところだが、キラキラを維持できているのは少なからず彼女の頑張りのおかげもある。
そんな比叡の「MVP獲得の特権」とも言える要望、もといご褒美タイムというのは極めて簡単。「一緒にゴロゴロして過ごす」というだけのものだった。
今日も勢いよく入っては来たが、几帳面な彼女は毎回忘れずにしっかりと閉めてくれる。今は二人でうつ伏せになり肘を畳につきながら、特に意味もなく並んでテレビを見ていた。
提督「それにしても艦娘って凄いよな。戦っても戦ってもMVPさえ獲れば戦意高揚を維持できるとか」
比叡「そりゃそうですよ、だって戦果を挙げて帰投するんですよ?」
提督「まあ確かに誇らしいだろうけどさ。でも疲れとかもあるだろうに」
比叡「…………これは私の場合ですけど」
意味ありげな言葉を発してから、持参したらしいスナック菓子を開封する比叡の手がなぜか止まった。体勢的に開け辛かったのか膝立ちになり、また少し考えてから難なく開封するとやがて元へ戻る。
比叡「私は、もっと別の理由があるんですよね」
提督「別の理由?」
比叡「たぶん他の子も同じ理由だったりするんじゃないかなぁ」
比叡「…………あ、どんな理由かは秘密ですよ?」
提督「そこ一番知りたいところ」
比叡「ダメですダメです!プライバシーに関わりますから!」
提督「そんな大層なことなのか……」
そう言って菓子を口へと放り込む様子は、喉元まで来ている言葉を抑え込むように見えなくもない。
あまり急いで時折喉に詰まらせて咳き込むものなので、無意識に背中へと手が伸びてしまうのだった。
提督「そんな急いで食べなくてもお菓子は逃げないから。大丈夫か?」
比叡「あ…………はいっ……!」
提督「…………ん、ごめん無意識にさすってた」
比叡「は、はい!比叡は大丈夫、ですっ」
なるほど大丈夫ではなさそうだ、意識せず妹の口調になっている。
ゆっくりと手を離して例の体勢に戻り、極力何もなかったように振る舞っては彼女の様子を見ていた。懲りずに貪るようにしてスナック菓子を放り込む姿が目に映る。さっきより勢いが増しただろうか?
付けっぱなしのテレビから流れる音とスナックをかじる音が生み出す絶妙な不協和音は、微妙に開いたドアの隙間を通してきっと外へと漏れ出してしまっているのだろう。
提督「で、結局何が理由なんだ?」
比叡「言えるわけないじゃないですか」
提督「ぶれないなぁ」
比叡「当たり前です!司令とこうして過ごしたいがために頑張ってるなんて口が裂けても──────」
提督「…………お?」
比叡「無し無し!今のは違いますってばー!」
金剛(…………………………)
榛名(…………………………)
霧島(…………………………)
(((なるほど)))
舞風を放置(続き)
提督「──────舞風、さすがに長い」
舞風「えー?もう少しくらい大丈夫だって」
提督「かれこれ一時間経ってるんだが」
舞風「……まあなんとかなるでしょうっ!」
組んだ足に舞風が飛び込み休憩を始めてから一時間。彼女はまだ動こうとしない。
提督「そんな疲れたのか?」
舞風「うん、まあ…………うん」
提督「はぁ……。じゃあお前はもう少し休んでていいから」
舞風「ほんとに!?ありがとうございまーす!」
提督「だからせめて立ち上がらせてくれ」
舞風「…………しょうがないなー」
どっちの台詞だ
言う前に彼女は立ち退いた。実に仕方なさそうなのはご愛嬌。やけにニコニコしている彼女の横を通って作業へと戻る。
そこで一度伸びをして椅子を引き、腰を下ろそうとしたときだった。
舞風「じゃ、休憩再開しまーすっ」
机との間に隙間があるうちに、と言わんばかりの勢いで再び膝へと舞い戻る。本当に油断ができない。
それどころか今回は向かい合うような形になっている。誰か入って来ようものなら間違いなく誤解される体勢だろう。絵面的にまずい、その他諸々非常にまずい。
提督「……舞風、仕事できない」
舞風「こうしないと私は休憩できない」
提督「他にも何か方法はあるだろ」
舞風「ない!」
提督「………………」
堂々巡り、どうしようもない。無理に下ろすのも可哀想で気が引けてしまう。
それを見て勝利を確信したのか、リラックスした舞風は顔を完全に埋めて心地良さげな態度をとっている。
少しくらい強気に言わないと聞いてくれないだろう。それを実行しようとするのだが──────
舞風「提督暖かいねー」
提督「埋まったまま喋るのやめてくれ、くすぐったい」
提督「てかもう少し他の方法を見出そうとしてくれよ」
舞風「だってこれが一番楽なんだもん!だからもう少しだけここで休憩…………」
舞風「…………いいですか?」
──────やはりこのギャップにはどうにも勝てそうにない。
榛名を放置(続き)
提督「今日は色々付き合わせてごめんな」
榛名「そんな、榛名も楽しかったです!」
提督「それなら良かったけど」
買出しでの帰り道。
日が暮れ始めているような時間まで付き合わせてしまった。特有の風が露出した箇所に吹き付け肌寒い。
提督「てか飲み物の容器捨てなくていいのか?邪魔になるだけだろうに」
榛名「提督が買ってくれたんですよ?もちろん取っておきます!」
提督「なんだそりゃ」
榛名「ふふ♪あ、でも…………」
榛名「できれば温かいものが良かったですね」
提督「あー……この時間は寒くなるしな。悪かった」
軽く苦笑いを浮かべる榛名の手には、さっきまでは俺も握っていたサイダーの容器。貼られたラベルには青い淵に囲まれて白抜きになっている「つめたい」の文字。中身は飲み干されている。
特に意識もせずに自分と同じものを買ってしまったが本人の意見を聞くことを忘れていた。
それでも文句ひとつ言わずに嬉しそうに受け取っていたものの、今考えるとあれこそ榛名の性格そのものだっただろう。
提督「なんならあそこで温かいもの買うか?」
榛名「そ、そんな……。いいのでしょうか……」
提督「いいのいいの、こっちのミスで買い急いだんだし。何か飲みたいものある?」
榛名「…………ホットカルピスってありますか?」
提督「んー……コンビニならあるかな。見てくるよ」
あまり待たせぬよう、冷え込まないうちにと歩を進めだす。そう遠い位置ではなかった。
榛名「──────提督!」
提督「っと、どうした?」
左の袖を引かれるような感覚に立ち止まると、その先にあったのは長く綺麗な指。寒さからか震えている。袖を掴んだまま、彼女は顔を真っ赤にして下を向く。
榛名「寒いのは少し苦手です……」
提督「…………じゃあ一緒に行くか」
榛名「…………!はい!」
返事と同時に腕同士が絡み合い、体同士が密着される。歩きにくいというのは否めないが悪い気はしない。
再び遠くはない目的地へと歩を進めるのだった。
提督「ところでホットカルピスとかよく知ってるんだな」
榛名「以前頂いた提督のホットカルピスが美味しかったのでつい……」
提督「あー、そういえば作ったっけ」
榛名「でも、市販の物より提督が作る方が榛名は好きです」
提督「あれならいつでも作ってあげるさ」
榛名「約束ですよ?」
北上を放置
提督「………………北上」
北上「どうしたのー?」
提督「何をしてる」
北上「んー、あすなろ抱き?」
風呂上がりの北上は袖にフリルの付いた薄いピンク色のパジャマに着替えて後ろから抱きついている。
首に回された両手の袖をたくしあげているが故に露呈している手首には、仄かに甘い香りの漂うヘアゴム。きっといつもの三つ編みではなく、意外に長い髪を下ろしているのだろう。振り向くことができないのが惜しい。
提督「それはわかるんだよ。動機がわからん」
北上「動機ねぇ……。なんかこう、肩が凝るよねー肩が。まだあたし若いんだけどねぇ」
提督「それとこれは関係があるのか?」
北上「この体勢が楽なんだよねー」
北上「そんな時に床にちょうどいい提督が転がってるとかさ、もう覆いかぶさるしかないわけじゃん?」
ちょうどいい提督とは何か。ちょうど良くない提督もいるのだろうか?
しかし考えるだけ無駄だ。彼女は突飛な言動を取ることもあるが、それは総じて自分の世界に入っている時に起こる。本人以外に理解できないような、それこそ大井ですら憶測の域を抜けないらしい世界だ、俺がわかるはずもない。
畳の上に胡坐を組んだ、『ちょうどいい提督』に抱きついた北上はどういうわけかご機嫌だ。
縦、横、斜めと縦横無尽に揺さぶってみたり、大きく円を描くように揺すってみたり、頬を背中に擦り付けてみたり……。
なされるがまま、とはこの状況を言うのだろう。
北上「でもなんでこんなに凝るんだろうねー?やっぱ魚雷がちょっと重いんかねぇ」
提督「いや、俺に相談されても重さがわからないし」
北上「むぅ……背負ってみる?」
提督「…………やめときます」
北上「まあー提督は今あたしを背負ってるみたいなもんだしねー」
提督「背負わせたのは誰だよ」
北上「ふふーん♪誰でしょう」
明らかにわざとらしい口調で棒読みしたかと思えば右に体重移動を始め、容易にバランスを崩した俺と二人そろって綺麗に畳へとなだれ込む。
北上「いいねぇ、痺れるねぇ」
提督「俺はお前の抱き枕じゃないぞ」
北上「まあまあ、いいじゃないですか。こうするとなんか安心する」
提督「抱き枕でも買いなさい」
北上「もう、わかってないなー」
北上「わざわざ『ちょうどいい提督が~』って言ったのに、抱き枕じゃ意味ないっていうか?」
腕の位置を少し下げたうえにそこで締めを強くし、さらに足も絡ませてきては固定されてしまった。反撃しようにも背後を取られているのではどうしようもない。
万事休す、どうやら選択肢はひとつしかないようである。
提督「…………好きにしろ」
北上「はい、待ってましたー♪」
大和を放置(続き)
何気なく置いた左手の上には、色白で可憐な右手。
少々熱を帯びているようにすら感じるその右手は早い鼓動で脈打っている。
大和「あの……お気づきになりませんか?」
提督「気づくというと?」
大和「その…………」
視線は一切動かすことなく口ごもるが、机に置いた左手はキュッと握られた。ふと見上げてみると何かを訴えるような目をして口を真一文字に結んだ大和の顔がある。
提督「手のことならさすがに気づいてるが」
大和「じ、じゃあ何か反応してください!」
提督「いや、左手だったから邪魔にはならないしいいかなって」
大和「お邪魔をするのは気が引けたので……」
提督「はは、実にお前らしいな」
それを聞くと軽く不機嫌そうな口調で「もうっ」とだけ答え頬をわざとらしく膨らせる大和。戦艦娘らしからぬあどけなさである。
それが終わると再び手を握る動作に入るが、今度は少し違うようだ。
親指と人差し指を巧みに使って、こちらの小指と薬指の間に隙間を作る。するとすかさず彼女の人差し指が潜り込んでくる。そんなことを地道に全ての指に施し、気づいた時には上から手が組まれているような状態。
僅かに手を浮かせると潜り込ませた指はそのまま机と手の間に折り曲げ、そこで初めて手が握られた。
大和「提督、何かお手伝いできることはありませんか?」
提督「そうだなぁ……」
大和「あ、このままでもできる範囲でお願いしますね?」
提督「………………おい」
この状態のままできることなど本当に限られてしまう。移動可能な範囲が狭すぎるのだ。
しかしそれでも何かないかと考え込んでしまう自分もいる。とても本人には言えないが、この状況が続いてほしかったのだった。
提督「じゃあ書いた書類の確認でもお願いしようか」
大和「あら、本当にこの範囲でもできるのですね。私は動いてもいいんですよ?」
大和「────────移動する場合は、手を繋いだまま提督も移動しますけど」
提督「…………このままで頼みます」
大和「わかりました。ふふっ……♪」
ひとつ大きく深呼吸をすると、丁寧に作業にかかり始める彼女の左手。手つきが慣れないのは利き手ではないからか、または秘書という仕事に慣れていないからというのもあるだろう。
そんな左手はそっちのけで時折強く握り返してくる右手はというと、先ほどよりもバクバクと脈打っている。
この鼓動は大和か俺か、はたまた両方か────────
この謎が解ける時は恐らく来ないのだろう。
夕雲を放置
夕雲「──────あ、お帰りなさい」
提督「ん…………ただいま」
部屋に入ったとき目に飛び込んできたのは、本棚の前で振り返って笑顔で挨拶をする夕雲。出る時にはなかった姿だ。
夕雲「あら?今日は『なんでいるんだ』とか言わないんですか?」
提督「そう言われてもな……。気分的にってか」
夕雲「…………提督、お疲れなの?」
提督「…………まあ少し」
夕雲「やっぱり。夕雲は心配だわ……」
なぜか納得している様子の彼女の横を素通りし、崩れるようにソファへと腰を掛けるとそれに続いて彼女も隣へ腰掛けた。
いつものような緑色の長い髪を前へ持ってきて指で弄りながら、顔は真っ直ぐと、心配そうな眼差しでこちらへと向いている。
夕雲「大丈夫ですか?」
提督「ありがとう。でもそんな大した疲れじゃないしな」
夕雲「でも…………」
夕雲「…………!」
何か思いついたのかパチンと一回手を叩き、急に立ち上がると布団のある方向へと移動を始めた。間違いなく布団を敷く流れだろう。
提督「布団敷く程度の元気はあるから大丈夫だぞ」
夕雲「まあまあ、提督はもう少しだけそこでお休みになって?」
せっせと持ってきたかと思えば瞬く間に綺麗に敷かれ、その上に夕雲は迷わず膝を折って座る。長い髪を巻き込まぬように正座した夕雲は微笑みながら両膝をポンポンと叩いている。そうして誘導するように、自らの膝と俺の顔を交互に見ることを繰り返していた。
……どうやらただ布団を敷いてくれただけではなさそうだ。
夕雲「提督?こちらへ移動できますか?」
提督「いや、でも」
夕雲「できなくても夕雲がお連れしますね」
まさか駆逐艦娘に膝枕をしてもらうなど────────
そんな後ろめたい気持ちも、吸い込まれるようにして頭を預けた程よく柔らかい感触によって、跡形もなく消え去っていった。
夕雲「少しは疲れが取れましたか?」
提督「少しどころか全部どっか飛んでった」
夕雲「まあ、大袈裟ですね。ふふっ……」
硬すぎず柔らかすぎず……。
どこに顔を転がしてもそんな感触が吸い付いてくるこの膝、というよりは太ももにおいては決して大袈裟ではない。本当に疲れなどどこかへ行ってしまったのだ。
そっと置かれた彼女の手が、頭で万遍なく動かされるのも心地いい。
夕雲「提督もたまにはこうしてお休みになってくださいね?」
提督「さすがにこんなこと頻繁にしてられないわな」
夕雲「あら、私ならいつでも大丈夫ですよ?」
提督「そんなことできるわけ────」
夕雲「提督」
そう何度も膝枕をしてもらうなど面映ゆいったらありゃしない。
そんな言葉を遮るかのように、夕雲は息がかかる程の距離まで顔を近づけて前のめりになっている。
夕雲「私にならもっと甘えてくれても──────」
夕雲「いいんですよ?」
疲れ、プライド、理性
耳元で囁かれた声によって、その全てが完膚無きまでに消え去っていった。
望月を放置(続き)
望月「…………っあぁ~」
提督「おはよう」
俺の肩を枕代わりに微睡に落ちていた望月が目を擦る。相変わらずの包み込むような柔らかい日差しが縁側に差し込んでは暖め、寝るには申し分ない環境を演出している。
そんな環境でぐっすりと寝入った彼女は長い時間そのままかと思ったが、案外早いお目覚めのようだった。
望月「ん……ああ司令官。ずっとそうしてたわけ?」
提督「言う通りボーっとしてただけだ」
望月「べつに、真に受けなくていいのに」
提督「…………動いたらお前が起きそうだったしな」
望月「あ、気にしてくれた?へぇ……」
提督「反応に困る反応だな」
望月「まあいいじゃん」
寝て起きたら適当な性格が直っていた……なんて上手い話はない。彼女の場合はこれでいい気もするが──────
まだ幼く、投げ出しても地面に到達することのない両足に反動をつけて跳ね上げ、宙に上がっている間に起用に腰を回転させて両足を上へと移動する。なぜこんなにも疲れそうな行為は自ら選択するのだろう?
首はこちらに預けたままのその様子を眺めながら考えてみたが結論はひとつ。『望月という子はこういう性格』というところに辿り着く以外なかった。
望月「なんかこう、結局は起きちゃったわけだけどさ」
望月「まだ眠いわけじゃん?」
提督「まだ眠いのかよ」
望月「うん、まあね」
肩で頭を左右にゴロゴロと往復させながら転がされる感覚がくすぐったい。ふと頭が離れたかと思えば、突然立ち上がって歩き出した彼女はどこか嬉しそうにしている。何かを探している様子で部屋を行き来して、やがて手に細い棒状のものを持って戻って来た。そうしてさも当たり前とでも言うように膝へと雪崩れ込んで来ている。
提督「これは?」
望月「そりゃまあ、耳かきっしょ」
手渡された耳かき
膝の上で顔を横に向けている姿勢
考え得る状況は絞られるだろう。
望月「いやー、面倒臭くて最近やってなくてさ」
望月「でも今は寝たいじゃん?でも耳かきもまあしたいわけで」
望月「しかし!あたしは寝ながら耳かきもできる方法が──────」
望月「あるよね?」
少しニヤッとしてから目を伏せる望月。間違いない、絶対にこのまま寝るつもりだ。俺に耳かきをさせている間に自分は寝てしまおうという魂胆だろう。どうにかしてこれを回避できないものか……。
膝の上では「早く早く」と急かす声。
それに負けて、軽く溜め息を吐いてから彼女の望み通りの状況を作り出してしまうのだった。
天津風を放置(続き)
提督「あれ、開いてる……?」
気まぐれで向かった工廠から戻ってくると、すっかり夜と呼べる午後7時。閉めたはずのドアから明かりが漏れているかと思えば開いていて、敷いた覚えのない布団が部屋のほぼど真ん中に敷かれていた。
さらにその布団の真ん中には丸く縮こまって寝ている少女。恐らく駆逐艦娘だろう。
すらっと長い脚には赤を基調とした長い靴下、そして白色をした綺麗なロングヘアには赤と白の吹流し──────
紛れもなく先程まで話していた天津風だ。
提督「しかしなぜここに」
提督「…………あまり深く考えるのはやめよう」
寒いのでドアを閉めてから彼女の様子を窺う。完全に夢の中のようだった。
提督「天津風も疲れてるんだろうな」
提督「かと言ってここで寝られるのも良くない。しかし起こしてまで連れ戻すのも気が引ける」
提督「陽炎あたりに頼んで……ってあいつ平気で起こしそうだしなぁ」
提督「島風も起こす未来しか見えないし……」
寝ている他人を起こさずにその場から移動させるというのはなかなかに大変なことだ。天津風も決して小さいわけではない。
どうしたものかと考え込むこちらの姿は露知らず、彼女はすやすやと寝息を立てている。これを聞かされてしまうと『動かすなど愚行だ』と責め立てられているような錯覚に陥ってしまう。
どうにかしていい案が降ってはこないかと思考を張り巡らせていると、不意に寝返りを打って真上を向き、顔の前で組まれていた手を宙へと伸ばす彼女の姿が目に入った。
天津風「……あなた、どこ…………?」
提督「いったいどんな夢なんだ……」
天津風の『あなた』というのは大抵の場合俺のこと。つい数分前まではこの独特な雰囲気に浸っていたので間違いはない。顔をしかめては不安げな表情で手を動かし何度も呼ぶものなので、つい落ち着きのない両手の間に自分の手を持って行ってしまった。
そうして手を掴んだ天津風は形を確かめるように撫でたり押したりし、やがて俺のものだと確信をしたのか表情が綻んだ。実は起きてると言われても驚かないような、むしろ寝ながらにしては少し不気味ともいえるような行為である。
天津風「ふふ…………よかった……ぁ♪」
小さな両の手と共にゆっくりと胸のほうへと引き寄せられた掴まれた右手は、再び寝返って横を向いた天津風の動きと同時に顔の前へと移動する。
それと同時に自然の理に任せて隣へと寝転がる。簡単に言うと引っ張られているのできっとごく自然なことだろう。
提督「なんか知らないけど良かった良かった」
提督「でもこれ動けないよなぁ……」
天津風「……………………♪」
言葉を言い終わったあたりで握り方を強くする天津風。やはり起きてるのではないだろうか?だがそれを否定するかのような静かな寝息も同時に聞こえてくる。
動けないのか、動かないのか
聞かれると自信をもって答えられる気がしない。ただ一つ言えることは──────
天津風「データを取ったり色々と……大変なんだ……か、ら…………」
ここから動かそうなどという考えは微塵もなくなったということだろう。
U-511を放置
ユー「あ、あの……!これ……」
提督「ん、もうできたのか?早いな」
彼女は潜水艦娘U-511
比較的最近に着任してきた子であり、まだ練度は高くない。そしてもちろん秘書というのも初めてである。
任せた書類はついさっき頼んだように思うのだが仕上げるのがかなり早い。恐る恐るという言葉がぴったりな手からそれを受け取ると、丁寧な文字が綺麗に羅列していた。
あとになって直すのが面倒というのもあったので見落としの無いようにと確認をしていると、その顔が少し怖かったのだろうか?目の前の少女の口が不安げに言葉を発する。
ユー「ユー、なんか間違えたかな……大丈夫かな……」
提督「どっか違ってても怒らないさ。秘書なんて初めてなんだし」
ユー「でも間違ってたら直すの大変だって、でちの子から教わった」
提督「でちの子って……ゴーヤのことか?」
提督「まあ今ここで気づけば大事にはならないし、そんな心配しなくて大丈夫」
ユー「…………わかった」
言葉とは裏腹に目を伏せてしまうあたりよっぽどの心配性なのだろう。加えて執拗に時計を見てみたり、手を組ませては離してみたりと落ち着かない様子も垣間見える。
そうこうしているうちに確認も終了。ここまで読みやすいと非常に助かるものだ。プレッシャーを与えるようなことをいきなり吹き込んだゴーヤに見習ってもらいたい。
提督「ユー、ちょっとおいで」
いきなり名前を呼ばれたものだから驚いたのか、一瞬だけ肩から上が震えたように見える。一拍おいてから、やはり恐る恐るという感じで歩き出し、そこまで距離はないのだがすぐ隣まで来て立ち止まった。やけに書類を気にする仕草をするあたり間違いがあったかと心配でもしているのだろう。
ユー「不安……。ちゃんとできてる、かな……」
ユー「────────ひゃっ!?」
確認の結果ミスは皆無。労いの意味でまだ俯いている頭に手を置いてみたのだが驚かれてしまった。
提督「ごめんごめん、頑張ってくれたから褒めようと思ったんだ」
ユー「どこも間違ってなかった?」
提督「完璧だったな。ありがとう」
そこでやっと安心したのか今日初めて表情を緩ませている。いくらかこちらに近寄っただろうか?いまだ硬さの残るような子なので、今度は少々驚かされる側になってしまった。
ユー「あの……撫でられるの少し痛い、かもです」
提督「ん、少し強かったか。ごめん」
ユー「あ、止めないで!」
ユー「優しくならたぶん気持ちいい…………」
ユー「へへ…………♪」
漣を放置
漣「…………………………」
提督「んで、次はこっちか。えっと……………………」
漣「………………ご主人様?」
開け放たれた窓から吹き込むのは心地良い風
鼻をつくのは塩辛い海のにおい
聞こえてくるのはペンと紙の擦れる音──────
漣と二人で過ごしているこの空間。凭れ掛かっていたソファから体を離し、変にニコニコしながら歩み寄って来た。真後ろまで来たが特にアクションを起こすようなこともして来ないために平静を保っていたのだが、彼女の顔が左の肩へ乗せられたことによってそれが崩れ去る。
漣「漣、ちょっと暇かも……。構ってもいいよ~?」
漣「って、無視かよ!」
提督「待て待て、無視も何も反応する時間をくれよ」
漣「は、恥ずかしいんですよ!」
提督「じゃあ無理にそんなことしなくても……」
少し手を休めて返答しようと思ったものの後の祭り、間髪を入れずに『無視された』と判断したらしい。しかも間を置かなかった理由が『恥ずかしいから』
おまけに恥ずかしいとは言うが漣が顔を隠しているのは他でもなく俺の背中だ。なんたる矛盾
漣「…………ご主人様、少し休憩しません?」
提督「お前はさっきから休みっぱなしだろ」
漣「し、失礼な!漣がせっかくご主人様の疲れを見抜いて休もうって言ってあげてるのにー」
提督「…………そっちサイドに引き込みたいだけだろ」
漣「ギクッ」
提督「声に出てるぞ」
提督「はぁ……まあいいや、残り少ないし」
背中にくっついたまま何か小さく呟くと、勢いよく飛び出していき再びソファに腰掛けている。とんでもない早業だ。
ここに座れ、というようにソファを叩く右手。それに従うと待ちかねたように左肩にまたも重みが圧し掛かる。
圧し掛かった小さな頭はやがてゆっくりと動き出し、すりすりと擦り付けるような動作をしだす。
「構う」と言ってもこちらは特にすることはなく、本当にただ座っているだけ。あとは彼女のいいようにされるというのがお決まりだった。その行動は日によって気まぐれだが、どうやら今日は甘えたいだけのようだ。
提督「この時だけは猫みたいだよな」
漣「はにゃ?」
提督「…………ほんと猫にしか思えないからやめてくれ」
漣「猫になればこうしてていいんですか?じゃあもう猫でいいです」
突然肩から滑らせて膝のほうへと移動すると、そこでまた猫の如く例によって動き出す。『猫だから許される』などと意味の分からないことを呪文のように連呼しながら擦り付けてくる。彼女のルーティンワークにもう一つ、行動パターンが追加された瞬間だった。
漣「猫だから許される、猫だから許される…………にゃ」
提督「最後のは色々とアウト」
漣「あ、この語尾はダメ?あぁ、そう……」
雷を放置
雷「司令官、お疲れさま!」
提督「ん、ありがとう」
雷「ちゃんと休むのよ?」
提督「今日はもう終わったから休もうと思ってるよ」
雷「そう。じゃあよかった!」
その日の予定をこなし寛いでいると秘書の雷が労いにやってきてくれた。本人も多少なりとも疲れているはずなのだが、元気で健気な姿を見るだけでもう癒されてしまう。
提督「今日はありがとな。もう戻っていいぞ」
雷「えっと、特にやることはないの?」
提督「ああ、雷が頑張ってくれたからな」
雷「そ、そう?司令官のためだからね」
なぜか腑に落ちないような態度を取る雷。
ブツブツと言いながら考え事をしているようで、あちらこちらへと歩き回っている。
提督「雷?もう戻っても大丈夫だぞ」
雷「んー…………もっと私に頼っていいのよ?」
提督「気持ちはありがたいけど、もう今日はやることないわけで」
雷「じゃあ司令官のお世話するわ!喉は乾いてない?」
提督「さっきお茶をもらったばっかりだろ」
雷「あ、それもそうね……」
机にはつい先ほど持ってきてくれたお茶の入っていたコップが無造作に置かれている。こんな具合で二時間おきくらいに何かしらを持ってきてくれたものなので、そうそう喉が渇くということは起きるはずもない。面倒見のいい雷からすれば当たり前すぎて忘れていたのだろうか?
持ってきたそれを回収する彼女の表情は、いまだ腑に落ちていない様子だ。
手に持ったコップと俺の顔を交互に見比べては首を傾げ、何かやることはないかと案を並べそれを自ら掻き消すことを繰り返している。
果たして何が原因なのか…………。遡ってみるとある可能性に行き着く。
提督「そうだ雷、お願いがあるんだけど」
雷「やっぱり何かあったのね?」
提督「まあ今すぐやることじゃないんだけどな」
提督「明日も秘書官、頼めるか?」
雷「────────っ!」
雷「当ったり前じゃないっ♪」
特に楽というわけではないこの任、なぜか彼女は好んでこなしてくれる。ついでに好きなだけだはなく手際もいいのでとても助かっているものである。
やっと腑に落ちたらしい雷は反転し、鼻歌を歌いながら部屋を後にした。しかし数時間後、彼女はまた機嫌よく舞い戻ってくるのだと考えると、どうしてか待ちきれなくなってしまうのだった。
三隈を放置
提督「ちょっと間宮さんとこ行ってくるけど、なんか欲しいものあるか?」
三隈「間宮さんですか?」
三隈「提督は何をお求めになるの?」
提督「ん、俺は甘いもの食べたいから羊羹を」
三隈「羊羹、ですか……」
三隈「じゃあ私は────────」
三隈「少し遅いのではなくて?」
ふと時計を見ると部屋を後にしてから約15分。留守番をしていた三隈は首を長くして待っていたようだ。
提督「そうか?普通くらいだと思うけど」
三隈「提督ったら……三隈、忘れられたかと思いましたわ」
提督「…………さすがに大袈裟だろ」
三隈「…………少し大袈裟に言ってみました」
少し舌を出しておどけて見せるこの姿は、着任したての改造前では見られなかったものだろう。彼女の改造前というと最上にベッタリであり、まさか自分からこの部屋へ訪れるなどというのはなかったことだ。もっとも理由という理由はなく、他の艦娘と同じで「遊びに来ただけ」というのが大半のことなのではあるが……。
ふと本来の目的である羊羹を紙袋から取り出すと、彼女の目はこちらの手にあるそれへと釘付けになった。
三隈「まあ、美味しそうな羊羹。間宮さんの羊羹は私も大好きですわ」
提督「美味しそうってか本当に美味しいからな」
提督「てか俺と全く同じもので良かったのか?」
三隈「もちろん、提督と同じものを食べるんですから」
提督「……変な奴だな」
三隈「それは褒め言葉ということでよろしくって?」
提督「なぜそうなる」
弄んでいるかのようにクスッと笑い、一直線に俺の椅子へと向かうと迷うこともなくその椅子へと腰を下ろす。座る場所を失った身として仕方なく別の椅子に腰掛けようとすると、椅子を占領した三隈が無言で手招いている。
負けてたまるか。
謎の対抗意識に燃やされた俺は終始無言で移動し、手招く隣で立ち止まった。すると招くのを止め満面の笑みで差し出す行為に変わる三隈の手──────
勝手に繰り広げていた心理戦は完全に彼女の思う壺。見事に上手を取られてしまった。
提督「お目当てはこれかな」
三隈「もちろんです!忘れたまま座ろうなんて許しませんわ」
いつの間にか両手に切り替わっていた差し出す手に羊羹を置いた途端、恍惚として見入る有様。三隈の羊羹好きは鎮守府随一なのかもしれない。
そんな姿を座ることも忘れて眺めていると、開封の動作に入っていた手が止まり、なぜか再び何かを求める手に変わった。
提督「おいおい、まさか俺のも食べる気か?」
三隈「ち、違います!そんなはしたないこと致しませんわ」
三隈「提督の羊羹、貸していただけますか?」
提督「いいけど……」
三隈「こうして…………はい!」
三隈「こうすれば後でまた食べられます」
渡した羊羹は綺麗に二つに分けられている。半分ずつ二回に分けて食べれば、量は変わらずに二度味わえるという考えだ。本当に羊羹には目がないとみる。
しかしそれと同時に「なるほど」と感嘆してしまうあたり、自分もきっと大概なのだろう。
提督「やっぱ間宮さんの羊羹は相変わらず美味いなぁ」
三隈「そうですね、提督と一緒だと尚更ですわ」
提督「そうやってまた大袈裟に」
三隈「あら、今度は大袈裟ではありませんよ?」
三隈「ふふっ──────♪」
熊野を放置
熊野「ん……んぁ…………んんぅ……ふぁ、あぁぁ…………」
熊野「私……ちょっと、眠くなってきましたわ……」
黙々と秘書の仕事をこなしていた熊野が不意に口を開いた。ぶっ通しの作業はさすがに疲れるのも無理はない。
真昼の日差しのみが注ぎ込む陽気な室内、おまけに昨夜は鈴谷に付き合わされて性に合わない夜更かしというものをしてしまったというのだから殊更に眠いだろう。事実俺も全く眠くないというと嘘になってしまう。
提督「夜更かしなんて無理するからだぞ?倒れても仕方ないから軽く寝てきな」
熊野「そうさせていただきますわ。お昼寝なんていつ以来かしら……」
提督「部屋まで戻るのにそんな千鳥足で大丈夫かよ……」
熊野「私、寝具には拘りがありますの。いつもの自分の枕でないと安心して眠れませんわ」
熊野「ということですので、少しお部屋に戻らせていただきます」
提督「それはいいんだが……ついてかなくて平気か?」
熊野「お気持ちだけ受け取らせていただきますわ」
熊野「それでは私は」
熊野「──────あっ」
ゆっくりとドアの前まで歩いては行くが、その足取りはふらふらとしていてどうも覚束ない。しかし「大丈夫か」と聞いても「大丈夫だ」としか返ってこないので致し方もない。
そんな彼女がノブに手をかけたとき、急に何かを思い出したように声をあげその場に立ち止まった。今にも倒れそうである。
熊野「そういえば鈴谷が私のお布団と枕でお昼寝をすると言っていたような……」
提督「そっかあいつも夜更かし組か。てか鈴谷が元凶だ」
熊野「あのセットでないと私…………」
そこまで言ったところで力尽きたように倒れ込んでしまった熊野。念のため近くまで来ていたことが功を奏した。
熊野「あら提督……申し訳ありません…………」
提督「まだ鈴谷が寝てるとは限らないし、部屋まで送るか?」
熊野「んー…………」
うつらうつらとしながら少し考えてソファを指差すと、彼女は腕の中で寝てしまった。さすがに拘るのを諦めたのだろう。
後ろから倒れ込んだ姿勢のまま移動するのは無理があったので、反転させ膝裏へと手をやってから抱き上げる。俗に言う『お姫様抱っこ』というものに当たるだろうか。
移動そのものは難なくできた。が、問題はここからだ。
座らせた熊野がこちらへと寄りかかってきたのである。なるべく起こさぬよう、衝撃を与えないようにと講じた「ひとまず座らせる。話はそれから」という策が仇となってしまった形だ。
今動けば熊野は起きる。動かなければ起きないが仕事も進まない。唐突に突きつけられた難題は相当にタチが悪い。
熊野「やっぱりこの枕でないと……私…………」
提督「俺の肩をいつもの枕と勘違いしてるのか?どんだけ硬い枕なんだよ……」
そもそも座った姿勢のまま枕を使うなどなかなかやらないはずだ。そのはずなのだが、すっかり寝てしまった彼女は横になっているとでも錯覚したのだろう。今や『いつもの枕』と勘違いされたらしい肩でだらしない顔を晒してしまっている。
あのお嬢様な熊野が寝る時はこうなるというのは誰が知っているだろうか?知っていても同室の鈴谷くらいだ。普段ならまず見ない表情、崩すなどということは許されない。崩したくない。
タチの悪い難題の選択肢は二つ。動くか、動かないか────
この状況に置かれて前者を選ぶ者はいないと思う。
磯風を放置(続き)
磯風「し、司令!ちょっと待ってくれ、まだ心の準備が……」
以前磯風が武勲を立てたときに交わした「次にMVPを獲ったら……」という約束、その時は案外早く訪れた。ほとんど日を空けず再び武勲を引っ提げて帰投した彼女は、部屋に入るなり報告を手早く済ませ、待ちかねたように頭を差し出す。
今日はいけるのかもしれない……。
そう思ったが当て外れ。置くまではいいのだが、今日も今日とて華奢な手によって動きかけた手に待ったをかけられてしまった。
磯風「すまない、やはり少し恥ずかしい……」
提督「途中までは大丈夫なのに?」
磯風「自分で手入れをするとき以外は弄らぬのだ」
磯風「もちろん他人に触らせるなど司令が初めてだな」
提督「なのに浜風と張り合って撫でてくれなんて言ってきたのか」
磯風「…………言うな」
反撃するように睨みを利かせる彼女ではあったが、一瞬だけ目が合ったときにこれも恥ずかしくなったのか下を向いてしまった。
そのまま互いに行動を起こすこともなく、というよりは起こせなかったというべきだろうか?時間だけが刻一刻と流れていく。置いた手からは高まる鼓動と体温を頭越しに感じられる。
そんな自身の状態に気づいたのか、大きく息を吐き、素早く顔を上げた磯風がこの状況を打破すべく口火を切った。
磯風「司令…………。頼む」
短い一言の他にアイコンタクトを投げかけられる。何かを決意したような目だ。
賽は投げられた────────
そこにはもう阻むような手はなく徐々に力を失っている。そしてその手が弱々しく下へ垂れたとき、待機していた俺の手をゆっくりと動かし始めた。
磯風「んっ………………ふあっ……」
磯風「も、もう少しゆっくり…………」
提督「これよりゆっくりとか止まってるのと変わらなそう」
磯風「む……ではそのままでいい」
意地を張っているにも似たような態度を取る磯風。しかし先ほどのような可愛い反応を見せられてしまうと病み付きになってしまうのだ。撫でる手の早さを段階的に上げていく。
磯風「あ、あぅ…………」
磯風「司令!少し強くなってはいないか……っ?」
作戦は成功、案の定な反応が返ってきた。
艶のある黒髪が乱れるようなことにはなっていないか。そこだけ気を付けて続けていると見る見るうちに意地を張った表情が緩んでいく。
そうして強弱を付けたような撫で方をしばらく続け五分弱、俺は漸く手を離した。離したのだが──────
磯風「ん…………終わりか?」
提督「そろそろな」
磯風「………………司令、忘れたか?今日の立役者はこの磯風だぞ」
最初に同じくまたも白手袋によって確保される手。だが今回は動きを阻むものではないようで、徐に"所定の位置"へと乗せられた。彼女はそのままこちらを睨みつけるような視線で急かしている。
やれやれ、と言いつつも磯風の気が済むまで望み通りに行動してしまう自分がいる。鋭い視線に気圧されてしまったのだ。
そう言い聞かせていたが、手を動かし始めて視線を感じなくなっても続けてしまっているということは、こんな言い訳など通用するはずもない。
鈴谷を放置
鈴谷「あがー」
提督「…………何やってんだ?」
鈴谷「見ての通りゴロゴロしてるしかないじゃん?」
そう言われてしまうと仕方がない。鈴谷は見たまんまベッドの上で寛いでいた。
連日の出撃でさすがに疲れたのか休暇を求めてきたので、それに応えて今日一日は休暇を与え、好きなところで好きなことをしてもいいと言った結果がこれだ。
無防備な姿をさらけて自室のベッドでのんびりと過ごすこと…………
べつにそれ自体はおかしくもないし素晴らしいことだとは思うのだが、暇つぶしの話し相手ということでなぜか俺も連れ出されてきていた。
鈴谷「てぇーとくぅー、なーんかマジ退屈なんだけどぉ……」
提督「どこ行っても咎めないんだから遊びに出ればいいだろう」
鈴谷「そうなんだけどさぁ……」
鈴谷「そもそも提督って話し相手ってことで連れて来たんじゃん、なんか話題ないのー」
提督「わりと無理があるよなそれ」
連れてこられたのであって、特に話題があるわけではない。
それは恐らく鈴谷も理解はしている筈なのだがどうも気に入らないらしく、ふくれっ面で時には右へ、時には左へと忙しなく転がっている。
鈴谷「じゃあ出撃しないのー?しゅーつーげーきー!」
提督「………………顔、近い」
鈴谷「………………えっ!?」
まさか自分からベッドを降りてぐっと接近してきたことに気が付いていないとでも言うのだろうか?それとも無意識だったなどと言うのだろうか?
何はともあれ現在の鈴谷はベッドから少し距離を置いて床に座っている俺に対し、息もかかるような間近まで接近しては出撃をせがんでいる。出撃に疲れたから休暇を求めてきたのは誰だ──────
そんな在り来たりな感想すら述べられない程にこちらとしても気が動転してしまった。
だがそれは当の本人も大差ないようで、遠のくことも忘れてその場で真っ赤に染めあがり、ブツブツと独り言を言いながら慌てふためいている様子だった。
提督「とりあえず落ち着け」
鈴谷「無理無理無理無理!この状況で落ち着けとか無理難題だってば!」
提督「きっかけ作って引き金も引いた本人が何を言ってんだ……」
鈴谷「だってぇ…………」
提督「────────鈴谷」
鈴谷「ひ、ひゃいっ!?」
返事をしているようなしていないような、どっちともつかずな変な声で反応してくれた鈴谷だが、俺が起こしたアクションはいたって単純。
とりあえず動きを止めようと彼女の両肩を掴んだだけ。
それがどういうわけか逆効果になってしまったらしく、一瞬動きを止めた鈴谷が逆上せあがって再び慌てふためくまでそこまで時間は要さなかった。
鈴谷「もう、なんなの今日は…………」
突然飛び出して元居たベッドの上に舞い戻る鈴谷。状況が掴めずに戸惑う俺。
どうやら今日は一日中、背中を向けて頭から布団を被ってしまった彼女を眺めるだけの日になりそうだ。しかしそれも悪くない──────
時折振り返っては顔を覗かせる鈴谷を見るたびにそう思ってしまうのだった。
投下終了
鈴谷は気づかないところで勘違いさせておきながら本人はウブ
そしてバレンタインから早くも一ヶ月、ホワイトデーも書かなきゃ……という使命感に駆られたため唐突ですが安価。バレンタインと同じく脱線の番外です
ホワイトデー限定ボイスがある子はそれをベースに、ない子でもどうにかしてお返しするという体でいきます。番外なのでバレンタイン同様に榛名でも、続きの続きまで書いてしまってる春雨ちゃんなどをリクしてもらっても構いません
バレンタインの反対という捉え方で今度は「コンマの最小」の方1名とさせていただきます。連投などは禁止で1名につき艦娘1人までです。
時間は朝の10時までで
長くなりましたが失礼します。時雨は天使
初風とホワイトデー
提督「──────初風。ちょうど良かった」
廊下を歩いていると後ろから呼び止める声。いつも聞いている、もう聞き慣れた声だった。
反応して振り返ると予想通り提督が突っ立っている。そして何故だか小さな箱を両手で大事そうに抱えている。
初風「あら提督。提督が私に用なんて珍しいのね」
提督「いや、ひと月前のお返しをしようと思って」
初風「…………ひと月前?」
今日は3月の14日。ひと月前というと丁度2月14日だろうか?その日は紛れもなくバレンタインデー。
他の艦娘が直接手渡しで、十人十色の台詞を言いながらも渡すなか、私はというとなんだか恥ずかしくなってただ机に置いただけ。それと近くに名前だけ書いた紙を置き、ものすごく間接的に渡したことが記憶に新しい。一応手作りではあるのだが……
あの日からもう一ヶ月が経ったというのだから早いものである。
ふと回想に耽っている間目を離していた提督の方へ向き直ると、両手に抱えた箱をこちらへ向けて差し出しているようだった。
初風「なーに?これを私に?」
提督「今日はそういう日だしな」
初風「そういう日…………」
初風「あっ──────」
今日は3月14日。バレンタインからちょうどひと月が経ったこの日はホワイトデーだ、すっかり忘れていた。まさかお返しをもらえるなんて思ってもいなかった。
状況からして提督の手に抱えられているそれは紛れもなく私へのお返しと言ったところだろう。ましてや差し出されてまでいるのだから。
初風(でもバレンタインは他にもたくさんの艦娘がいたから、その分お返しも……)
提督「初風?」
初風「でも……提督はこれを、何人にあげているのかしら?」
返答に詰まっているあたり読み通り。提督は恐らくチョコを貰った艦娘全員にこのお返しをしている筈だ。私の提督というのはそういう人物だった。
わざとらしくジトっとした目で睨みを利かせただけで後ずさりしそうな提督。実に単純だ。
それでもなお差し出すことをやめようとしない彼の手を見て、私もぶっきらぼうに手を差し出す。
初風「…………いいけど。早く寄越しなさいよ」
提督「お、おう……。受け取ってくれるのか?」
初風「まあ、別に何人目だって私の分には変わりないわ」
提督「……実はまだ他にあげた子はいないんだ。予定は随分とあるが」
初風「……つまり、どういうこと?」
提督「要はお前に一番最初に渡しに来たっていうか」
……きっと今私は睨むような視線は送っていないだろう。いや、むしろ目元も口元も緩んでしまっていると思う。一番最初に私のところへ来てくれた────
理由はそれだけ、実に単純だ。ただの偶然かもしれない。むしろその可能性のほうが高い。
ついさっき提督のことを「単純だ」と思ったはずだった。が、それは自分も同じ。もしかしたら提督よりも重症なのかもしれない。
なぜ笑っているのか怪しまれる…………
そう考えて無理にでも目元口元を直そうとするのだが、提督と同じと思うだけでもっと緩んでしまうので収拾がつかないのだ。
初風(そういえばこれ市販の物……よね、たぶん)
初風(でもこれは特別。だって)
初風(──────私のためにわざわざ買ってくれたんだし)
初風「提督。今年は直で渡せなかったけど……来年は手渡ししてあげる」
初風「それも絶対に一番乗りするから!」
初風「覚悟して待ってること、ね…………♪」
三日月と日常
三日月「遅れてすみません司令官!」
時刻は午前6時。
勢いよく開け放たれたドアから姿を現したのは、今日の秘書をお願いした三日月だった。
提督「遅れたって、三日月はいつもかなり早く来てくれるからな」
三日月「すみません……」
提督「いや、お前がいつも早いからこの時間は遅れたうちに入らないと思うぞ」
提督「一応聞くけど原因は?」
三日月「…………寝坊、です」
そう呟いた彼女は申し訳なさそうに目を逸らす。
寝坊というと三日月にしては非常に珍しいことなのだが、べつにそれを責めようとも思わない。遅れた時間としては『三日月がいつも来る時間』から1時間。だが『既定の時間』でいうとぴったりの時間だ、まさにドンピシャだろう。
生真面目な彼女はそれに気づいていないのかいまだ自分を責めているようだが、そのままいても埒が明かないのでひとまず呼び寄せると意外とすんなり従った。
提督「まあそんな考え込むな。遅れたもんはしゃーない」
三日月「そう……ですよね」
提督「そうそう、じゃあ今日も始めますか」
三日月「……頑張りますっ!」
気合を入れ直して机を挟んだ向こう側で作業を始めた三日月の髪が揺らめく。彼女の黒髪はいつも「髪の乱れは心の乱れ」という言葉通りに整えられていた。
そのはずが、間近に来てようやく予てから覚えていた違和感に気づいた。
…………上下に不規則に渦を巻く、もみあげ付近の横髪。
わざわざセットしたとは思えないそれは明らかに寝癖。入ってきたときからの様子を考えると、恐らく寝坊したと焦って手が回らなかったのだろう。
三日月「あの、司令官……?さっきから私のほう見てますけど、どうかされましたか?」
提督「え……あ、ごめん特にないんだ」
三日月「そうですか……。ならいいですけど」
どうやら本人は寝癖に気が付いていない。教えてあげるか否か──────
本能が咄嗟に「もっと眺めていたい」との判断を下した瞬間である。
眺めているうちに連想は膨らみ、ふと寝坊したと焦る三日月のことを考えてみたとき、ギャップもあるはずなのにそれを感じさせないような三日月の慌てっぷりが目に浮かんだ。
今現在の彼女は黙々と作業中。
しかし数分前の彼女は寝坊に焦って右往左往としていたはず…………
提督「……………………ふっ」
三日月「や、やっぱり何かあるのですか!?」
意識せずに零れてしまった笑みに反応する三日月。他から見ればなぜ笑ったのかわからずに不気味に思われるかもしれない、というか思われるだろう。
それでも三日月は不気味に思う前にその理由を知りたいらしく執拗に聞いてくる。
想像に過ぎなかった取り乱す姿が目の前に──────
その姿と想像のなかの寝坊に焦る姿を重ねてみたところ、またも無意識に笑ってしまうのだった。今度の想像はより鮮明に映し出されていく。
三日月「さっきからなんなんですか、教えてください!顔とかどこかおかしいのですか?」
提督「いや、顔じゃなくてさ、その………………ふふっ」
三日月「──────!?」
三日月「もうっ!」
北上を放置(続き)
提督「………………北上」
北上「今度はなにさ」
提督「そろそろ離れてくれ」
北上「好きにしろって言ったのは提督じゃん」
提督「いやまあそうだけどさ……」
北上に抱き枕にされてから早くも30分。ちらほらと睡眠を取る艦娘も出てくる時間に差し掛かっていた。
それもお構いなしに北上による『好き放題』は依然として続いていて、スキンシップだと称してはやけにくっ付いたり擦り寄ってきたりする。スキンシップにしては度が過ぎているような気がしないでもない……
提督「そろそろ戻らないと寝れないぞ。てか大井が心配した挙句俺が疑われるから……」
北上「平気平気、あたしが風呂出てから遅いってことは大井っちもよーく知ってるし」
北上「そ・れ・に!戻らなくたって寝れるし?」
提督「…………何が言いたい」
北上「…………ご想像にお任せしまーす」
バツの悪そうな、妙に空いた間隔ののちそう答えると、彼女はより一層猫のように擦り付いてくる。
ご想像に任せるも何も、北上の考えそうなことなど見当はついている。きっと彼女はここで寝るとか言い出すに違いないだろう。
それを裏付けるかのように、背後の彼女からは一向に動くような気配を感じ取ることができない。それどころか完全に顔を埋めてしまい電気の明かりが目に入らないようにしているあたり、すでに睡眠体制に入っているとも取れるのだ。
提督「お前なぁ……。風邪引くから部屋に戻って寝なさい」
北上「大丈夫だって、こうしてりゃ暖かいんだし」
提督「この前布団も掛けずに寝て思いっきり体調崩してたのを忘れたのか」
北上「え、あ、あれは…………………」
北上「はぁ……。わかりましたよー」
提督「わかればよし。素直で助かる」
案外速やかに離れていくものである。
ようやく解放された自分の身体を確かめるように立ち上がって伸びをし、布団を敷くべく準備に取り掛かった。
北上はというとやたらゆっくりではあるがドアのほうへと歩き出している。きっとそのまま部屋へと戻るはずだ。
北上「よっ、と」
思わぬ奇襲を受けたのはそんな彼女から目を離したまま布団を敷き終わったときだった。
ドア付近で不敵な笑みを浮かべ急に反転した北上は敷いた布団に潜り込み、俺よりも早くに掛布団を被ってしまった。
提督「おい、わかったって何だったんだ」
北上「わかってるって、布団を掛ければいいよね?」
…………してやられた。北上は部屋には戻る気はなさそうだ。彼女の言う「わかった」とは、あくまで「布団を掛けなかった」ことに対してだったというのだろう。
出し抜かれた俺とは対照的に、一本取った北上はさっきよりも機嫌がいい。
寝床を作り終わったところを見計らって横取りするとは卑怯な──────
北上「あ、もちろん提督も一緒だよ?そっちのが暖かいし」
北上「さあさ、早く寝ないと風邪ひきますよー」
そんな反撃の言葉も、北上の前ではどうしてか喉まで来ては引っ込んでしまうのだった。
如月を放置(続き)
この時期にしては暑いくらいの感覚で目が覚めた。見れば朝特有の光が頬に照り付け熱を放射している。
昨夜は如月が敷いてくれた布団で寝たわけだがさすがにその面影は残っておらず、彼女の残したしわのような窪みも一晩のうちに俺が掻き消してしまった。当たり前と言えばそれはもっともではある。が、それでもどこか名残惜しい。
如月「司令官、起きてる?」
叩かれたドアの向こうからはよく聞き慣れている声。四回もノックする子が多い鎮守府において、軽く三回のノックということも相まってすぐに如月だと見当を付けられた。
「いま起きたばかりだ」と返事をすると、ドアの外の手はノブに手をかけ何の躊躇いもなくそれを回す。突然のことに急いで飛び起きるこの光景、きっと如月が見たら笑われることだろう。
そうして開けられた廊下との間に隔たる板の向こうから、やはり昨晩も見たような姿が目に飛び込んできた。
如月「おはようございます、司令官」
提督「おはよう。随分と早いけど何か用か?」
如月「用というか……ちゃんと寝られたかなーって、聞きに来たの」
提督「それなら平気だ、よく眠れたよ。ありがとうな」
如月「そう……。安心したわ」
微かな笑みを浮かべてそう呟き、見慣れたはずの室内を見渡している。もう用件は済んだので部屋に戻るんじゃないのか────
そうも思ったが、考えてみれば如月が「ちゃんと寝られたか」を聞くためだけにここに来るなどあり得ないのだ。
次に起こすアクションに注意しつつ昨晩の如月と同様にして布団の上に正座をすると、それを見るなりゆっくりと歩み寄ってきて、さも当然かのように隣へふわりと腰が下りる。
如月「このお布団、何か変わったことはあった?」
提督「変わったこと?特にはないけど」
提督「…………強いて言えばなんかいい匂いがした」
如月「…………いい匂い、ね」
如月「それってなんの匂いかわかるかしら?」
提督「さあ?見当も付かん」
如月「それは困ったわね……」
やれやれ、というような態度の意図がわからない。
わからないまま、力が抜けたように横に倒れた如月の頭が膝へと飛び込む。いつの間に横たわる体勢になったのか……。
ただその後は何か行動を起こすでもなく動きもないまま時間が過ぎていく。朝の日差しは次第に強くなり、さらに強烈に頬を照り付けてくる。
そんな時、不意に彼女が口を開いた。
如月「でも大丈夫、如月が教えてあげるわ」
如月「──────ただ単に少しお布団を借りただけ」
如月「だから、ここにもちゃんと残さないと……ねっ♪」
飛び出した言葉はまさかのカミングアウト。
加えて匂いを練り込むかのように頭を、顔を動かすのでもうどうしようもない。きっと今は謎の罪悪感や恥ずかしさに動揺を隠しきれていないだろう。
そんな俺を横目に、如月は静かに笑った。
投下終了
数えたら切りがいい数になりそうなので、明日あたりまた安価を取ります。
恐らくそれが最後になると思うのでご了承ください
それでは失礼します
飛龍とほのぼの
提督「春だなぁ」
飛龍「春ですねー」
和室の縁側、足を放り出して座ると視界に飛び込むのは梅の花。つい数日前までは吹くことのなかった生暖かい風が肌を掠めていく。
飛龍「提督って、よく私を使ってくれるよね」
提督「それがどうかしたか?」
飛龍「……やっぱり、改二になったから?」
自分で言うのもなんだがおかしな気分になるが改二になってからというもの全空母中最高の回避、そして何よりも火力を手に入れた私は、攻撃というものにおいて絶対の自信を感じるようになった。それに伴ってか提督はよく難関な海域でも私に任せてくれることが増えたのだ。
提督はしばらく無言のまま、穏やかな表情で小さく咲き誇る梅の花を見つめている。
提督「──────レベリングって、した覚えある?」
飛龍「…………え?」
少し意外な返答をした提督が発した言葉は、レベリングの覚えがあるかというもの。特にそういうことをした覚えはない。
改二になった日のことはよく覚えている。
突然提督がよくわからない紙を持って飛んできて、状況を把握できないまま工廠へ連れていかれ、気が付いたらこの姿。それが意味することは『練度が十分に足りていた』ということ────────
そこでやっと気が付いた私に、提督が静かに微笑みかける。
飛龍「改二の前から使ってくれてたっけ。でもどうして強くもない私を?」
提督「そうだなぁ…………」
提督「別に弱いとは思ってなかったし」
飛龍「…………そっか」
提督「…………率直に言うと気に入ったから」
飛龍「…………ふふっ」
気に入った
人として、艦娘として、そもそも艦艇として、または──────
その言葉が意味するところはわからない。でも悪い気はしない。むしろ嬉しい部分が大きいだろう。
立ち上がってその大きな背中をわざと強めに叩くと、彼は振り返って目を丸くしている。
飛龍「お茶とか持ってきてあげよっか?」
提督「どういう風の吹き回しだ、春になるってのに雪でも降らせる気か?」
飛龍「今日はそういう気分なの!」
確かにいつもは持ってきてもらうほうの立場であることは事実だ。提督を使ってしまうことが多々あるのも否定するつもりはない。
提督は「気に入った」と言ってくれた。そして私も同様に、提督を「気に入っている」からつい使ってしまうのだ。私の「気に入った」は、決して上官としてだけではない。
飛龍「たまにはいつもの恩返し、させてよね」
提督「……じゃあお言葉に甘えて」
飛龍「それでよしっ」
二航戦にボイス追加が来ないのは訴訟もの
ということで予告通りの安価タイム。残り分を含めてこれが最後となる予定です
方法は0時直前の3名で、一名につき一人まで
続きを書いた子は含めずに連投は禁止でお願います
それではまた後ほど
恐るべしスナイパーの方々。勢いが素晴らしすぎやしませんかね……
直近なので>>560加賀さん、>>561大井っち、>>562足柄さんで了解です!
それでは失礼します
瑞鳳を放置(続き)
提督「お疲れさま。今日は多くて疲れただろ?」
瑞鳳「ほんとほんと、もっと早く始めればこんな時間にならなかったのに」
言葉に黙り込んでしまう提督。
時間は既に日付が変わったことを表している。いくら仕事量が多かったとはいえ、この時間まで長引いてしまうのはほとんどなかったことだ。それもこれも長いこと背中合わせで座り込んで怠けていたこと無しには語れないだろう。今になって「もっと強く言って動いていれば」と後悔するが、それこそ後の祭りというものだ。
もっともきっかけを作ってしまったのは私であるが
提督「もう遅いし、早いとこ戻って寝るといい」
瑞鳳「そうさせてもらうね」
瑞鳳「でもこの床も卑怯よね……」
提督「何が?」
瑞鳳「だって、こんなに座り込みたくなる床なんだもん」
桜の季節だからというだけの理由でいつものフローリングに花弁をばら撒いただけの単純な床。ただそれだけの床なのだが、個人的にこれがとても気に入っているのだ。落ちている桜を屈んで手に取って眺めているうちにいつの間にか座ってしまう。
そして今この瞬間も相変わらず、再び私に腰を下ろさせている。
提督「なるほど、よくわかった」
そう声が聞こえた後、反応するような間もなくして昼と同程度の重みが背中へ掛かる。今の今まで私の様子を眺めていた提督は目の前にはいない。
瑞鳳「またそうやって寄り掛かる!」
提督「瑞鳳の背中見てるとこうしたくなるから仕方ない」
瑞鳳「うぅ…………」
全く理解不能な理由の典型だ。しかしここで反論しても押し通すことはできない。客観的に見ると『座り込みたくなる床』というのもだいぶ理由になっていないのだから。
それに正直に言ってしまえばこの状況は嫌いじゃない。
提督「でもまた変に長引いても寝れないし、今はやめておくか」
瑞鳳「────────だめ」
…………もう少し正直に言うとむしろ好きな部類に入ると思う。立ち上がろうとした提督の袖を、無意識に掴んでは引き留めてしまった自分が怖い。
提督「床に散らばった花弁で夜桜見物とは斬新だな」
瑞鳳「いいんじゃない?外は寒いし」
提督「それもそうか」
瑞鳳「うん。それに私はこっちのほうが好きかな」
瑞鳳「………………状況的にもね」
投下終了
なぜだか二日連続の艦娘視点
失礼します
朧ちゃん投下します。が……
続きを期待されている方がいたらごめんなさい、放置ボイス眺めたり聞いたりしてたら別のシチュエーションが思い浮かんできてしまったのでそっちを書かせていただきました。しかも2パターンも浮かんでしまったのでどっちも書きました
ということで朧ちゃん二つとも投下
朧を放置 2
朧「…………提督」
視線を動かすことなくこちらの様子を眺めていた朧が不意に動く。様子と言っても特に面白いようなことはなく、ただいつも通りに執務をしていただけである。
体は動くのだが視線はじっと動かず、相変わらずこちらへと真っ直ぐ向けられたまま、彼女は迷いもなくすぐ隣へと小さな体躯を落ち着かせた。
朧「朧、ここに待機しています」
提督「お、おう?」
朧「だからその…………」
ふと視線を落とした朧。
待機しているなどということは言われなくてもわかっているのだが、敢えて言葉にするということは何か言いたかったのだろうか?
その時は口ごもる朧を気にすることもなく再び机上へと視線を移した。
朧「──────提督!」
移したのだが、今度は机を叩く手の音と強めの口調によってまたも呼び止められたのだ。体を乗り出している朧の表情は少し怒っているようにも見える。
提督「どうした?」
朧「待機しています、よ?…………はい」
一転、言葉を発するごとに先細っていく口調。やはり何かを伝えたいのだろう。
少し手を止め考えてはみるが見当も付かず。何かヒントはないものかと隣に待機する秘書へ視線をやると、どこかもどかしそうに山積みの書類を見つめていた。
もしかすると────────
提督「そうだなぁ、じゃあ秘書の朧に手伝いを頼みたい」
朧「………………!」
提督「頼まれてくれるか?」
朧「がんばる……!」
その一言で顔に活気が戻る。やはり朧はこうあるべきだと思った瞬間である。人一倍に責任感の強い秘書と共に行う作業は実に捗るものだった。
提督「でもいいのか?」
朧「朧、今日は秘書ですから」
朧「提督の秘書、そんなには嫌いじゃない……です」
提督「…………誰だ?」
閉ざされた個室に外の光が差し込む。
朧「……提督が体調崩したって」
提督「朧か。ただ風邪引いただけだ、それよりうつるぞ」
朧「平気。それよりも提督が心配」
提督「寝てりゃほっといても治るさ」
朧「看病すれば、もっと早く治るもん」
気怠さを感じ体温を測ったら微熱と言ったところ。それでも大事を取って、主に明石の勧めでこうして休んでしまっている。鎮守府内の情報網というのも恐ろしいものだ。
咎めるこちらには見向きもせずにそそくさと替えのタオルを持って来たり、食べやすいようにと粥を持って来たり、何か飲み物はいらないかと聞いて来たり……。すべて数えていたら頭がパンクしそうなほど。至れり尽くせりという言葉がぴったりだろう
が、その間であっても真面目な表情は一切崩さずにいるあたり朧らしい。もはや罪悪感を感じるほどだ。
提督「ごめんな……」
朧「あたしが自分でやってるから、謝らなくていい」
提督「でも……。もう戻るといい」
朧「………………」
どういうわけかムッとした目でいる朧と、無言のまま距離が縮まっていく。俺が寝るベッドの淵まで来たところでそこに腰を下ろし、布団の中に手を入れては何かを探すように弄っている。
やがて背中を向けたまま彼女は小さく呟いた。
朧「提督。朧、ここに待機しています。待機しています、よ?」
朧「…………はい」
提督「いや、無理しなくても」
朧「もし『待機していたい』って言っても、ダメですか?」
探し物を弄っていた手がその在処に辿り着いたとき、同時に口から出たのは『待機していたい』というもの。色々と心配は残ったが拒否することもできない。
隠れていた俺の右手は、潜り込ませた朧の右手によってしっかりと捕捉されていた。
提督「ところでさ、なんで絆創膏持ってるんだ?」
朧「提督が風邪引いたって言うから持ってきた」
提督「…………なかなか面白い発想をするのな」
朧「いいの!」
朧「…………間違っただけだけど、提督が笑ってくれたからそれでいい」
おっと
>>577は「朧を放置 3」です、訂正
風邪を引いたからこそ思い浮かんできたシチュ。風邪引いて良かった(血反吐)
ということで朧ちゃんに看病されて来ます。
>>579
お心遣いありがとうございます。なんとか大丈夫です
今日は少し時間があったので二人ほど書けそうです。恐らくどちらも微糖……の予定
加賀さんのは「五航戦の子が~」って言う現在のより、夏イベ前のやつのほうが好きだし書きやすいのでそっちにしようと思いますがよろしいですか?
>>581
了解です。個人的に書きやすい以前の放置ボイスでやらせていただきます
ではまた後ほど
朧ちゃんに看病されるんなら風邪くらい年がら年中引いててやりますよ、ええ。むしろそうでありたい
大井っちと加賀さん投下します。予告通り微糖のはず
大井を放置
大井「北上さん、大丈夫かなぁ」
険しい顔で頬杖をついて呟く大井。止まることを知らない秒針と睨めっこしていた。
大井「私がいないと心配だなぁ……うん……心配…………」
大井「きっと、そう。何か起きてる……!」
大井「私、行かなきゃ!」
提督「北上なら部屋で漫画読んでるって言ってたから安心しろ」
大井「で、でも」
提督「…………秘書艦」
大井「…………なんて狡い単語」
提督「秘書なんだから仕方ないだろう」
深いところでの根っこは真面目な彼女は「はいはい」と仕方なく返事をしてから作業に戻る。真剣な面持ちで黙々と打ち込む姿は、北上を執拗に心配するさっきの大井とは別人にすら見えるものだ。
一つ一つ小さく声に出して確実に、手際良くこなしていく様はまるで主婦のように目に映った。
そんなことを考えながら眺めていると、ふとあることを思い出す──────
提督「そういえばさ」
一旦作業の手を止め振り返る。そして不思議そうに俺の言葉を待っている。
提督「最近『提督も愛してます』とか聞かなくなったな」
大井「それが、どうかしました?」
提督「いや、どうしてかなーって」
大井「まさか本気にしたんですか?冗談なんだけど」
提督「冗談なんてわかってるよ、気になっただけ」
大井「……気にしなくていいですから。それより提督も作業手伝ってくださいね」
特に理由を答えることもなく持ち場へ就いた大井を見て、心残りではあるが極力気にしないように自分も戻っていく。思えば大井のことだ、その『冗談』を言うことに飽きただけというのが落としどころだろう。
そのまま特に雑談をするようなこともなく、必要最低限の会話だけで時間が過ぎていく。耳に入るのは時計の針が回る音、書類を整理する音、そして継続される彼女の小さな声出し確認。先ほど比べて少しだけテンポが悪くなっただろうか?
次の作業に取り掛かるべく大井が目の前を横切ったとき、わずかに顔を上げたところでちらっと視線が交差する。
大井「……………………」
大井「えーっと、次は…………」
それに気づくや否や慌てて目を逸らすような動作で回避してしまうのはお互い様。このような状況だと仕方のないことだと思いたい。
一瞬だけ見ることのできた頬は淡い紅色に染め上がり、その表情はどこはかとなく恥じらっているようである。
果たしてどこにそんな要素があっただろう、と覗きこんで考察するのだが──────
大井「あ、あの、顔に何か付いてますか?」
どうしてかやけにタイミング良く遮られてしまうのであった。
加賀を放置
加賀「提督。お茶、淹れてきたわ」
提督「ん、気が利くな。ありがとう」
加賀「…………いいけれど」
加賀「今日の仕事はもう終わったのかしら?」
提督「おかげさまで。手伝ってくれてありがとな」
今日の秘書は加賀。彼女が手伝ってくれたときはなぜか集中できるので早く終わるのだ。いつもなら日を跨いでしまうような仕事も、このように夕方には終わることができる。
出撃時につけているような艤装はほとんど外されて、今は『カ』の字の入った甲板後部が腰に付けられているだけである。
手には弓の代わりに、持ってきてくれたお茶が置かれていた盆が抱えられていた。
お茶を置いてからはすぐ真横に立ち、顔を少しばかり下に向けて目を瞑っている。この日のように早く仕事が終わったときは、いつもならすぐに戻っていくのが当たり前だった。
だが今日は違うようだ。何か用でも残っているのだろうか?
提督「……どうした、もう戻ってもいいぞ」
加賀「……いえ、もう少し居ます。気に障ってしまうかしら?」
提督「……いや、気にしないけどさ」
加賀「そう。それはそれで…………少し寂しいわね」
提督「──────────」
普段はこんなことを言わない加賀が『寂しい』などと言ってくる時点で大ニュースだ。突然のことにだいぶ戸惑っているということは、きっと彼女にも伝わってしまっているのだろう。
相も変わらずピクリともせず、表情一つすら変えずに黙っている加賀。そんな彼女が少々不気味にすら思える。
加賀「…………あの」
提督「………………」
加賀「…………いえ、なんでもないわ」
加賀「ふふ……………………」
どうも引っかかる言葉だが、それもまた加賀の笑い声によって掻き消される。最近やっと感情を表すようになってくれて、こちらとしては大変に嬉しいものだ。
しかしそれを指摘したりすると────────
加賀「笑った?」
加賀「……記憶にないわね。なんのことかしら」
決まってとぼけられるのだった。
投下終了
実は加賀さんも大井っちも以前の放置ボイスのほうが好きだったりするので思いっきり表れてしまいました。仕方ないね
大井っちとかケッコンしたらデレデレってかヤンデレですからね。レズじゃない大井っちもっと増えろ
ということで最後の投下足柄さん、行きます!
足柄を放置
時計の針は12と4を指す。つい先ほどまで漆黒に消えかけていたような窓の向こう側も、いつの間にか薄ら明るくなってくる時間だ。
飲み疲れて寝入ってしまった足柄は、そのまま座っていても居心地いいものではないと思うでソファに移動させてからは、起きるような様子は一切なくなっている。まだ少し残っている一升瓶の首元をしっかりと握って、戦闘任務中では見られないような穏やかな表情で居座っていた。
そんな貴重な表情を堪能していたところ、気づいたら朝方になっていたというとんでもないオチである。
しかしそんな状況で気になることがひとつ。
…………ストレートに言うと寝言が凄まじいのだ。
足柄「まだまだぁ……まだ飲むわよ…………」
提督「飲み潰れたのに何を言ってんだか」
提督「てかさっきは俺が危ないって設定だったよな。なんと早い切り替わり」
足柄「……次の作戦は!ねえ、次の作戦海域はどこ!?」
提督「……今度は戦闘か」
足柄「勝利が、戦闘が……!戦いが私を呼んでいるの!」
彼女の見る夢はどうもとんでもない早さで切り替わるらしい。ここ数十分の間、数えただけでも実に3つの展開が演出された。『提督が危ない』という設定、『飲み潰れてなお飲もうとする』設定、そして現在は足柄の象徴でありお家芸とすら言える『戦闘』の設定。
言葉に合わせるかのように両手が自在に宙を行き来する姿はまるでどこかの劇団にでもいそうな感じを醸し出していた。忘れてはいけないのが、彼女は睡眠中であること。無意識とは思えない演技力だ。
動きに動いた手はやがて止まり、一升瓶の持たれていない左手のみが宙に残る。そして指のみが、掴めるはずもない空気でも掴むかのような柔らかい運動を繰り広げている。
足柄「お前たちなぞ……私一人で十分よー…………」
足柄「口ほどにもないぃ…………」
握る動作、開く動作
開いたときに自分の手を持って行ったのはほんの出来心。握る動作と共に案の定掴まれてしまった。
足柄「提督っ……!よかった、無事だったのね」
足柄「まあ私、足柄がいるんですもの。無事でとう……ぜん…………」
いくら夢とは言え死にかけの設定というのは如何なものなのか。言ったところで熟睡中の彼女の耳に入ることはないだろう。
そもそも起きてたとしてもこちらに発言の隙を与えないような、かなり短い間隔で言葉を発している。寝言なので一種の独り言、当然と言えば当然であるが
それを境にパタリと寝言を発しなくなったものなので、部屋に聞こえるのは時計の乾ききった音だけ。少々寂れた雰囲気になったが嫌いではない。出来心で掴まれた手も解放される気配はなく、もちろんその予定もなさそうだった。
それどころか重力に逆らわず引き寄せられた結果一段と強く拘束されている。
提督「どうすっかなーこれ……」
足柄「うにゃぁ…………んん……」
提督「……まあいっか」
強く握られてしまった手。
いっそこれを維持したまま放置して貴重な表情の堪能を続けるか、振りほどいて起こすかもしれないという綱渡りをするか……。放置された身の足柄はこの葛藤を知る由もなく、無防備に寝顔をこちらへ向けている。
提督「もう少し楽しむか」
提督「…………もう少しってか起きるまで」
提督「起きたときも反応が楽しみだな、これ」
提督「──────いい寝顔だ。おやすみ」
起きるであろう数時間後に期待して静かに呟き、放置してみるのだった。
これにて全投下終了です
気づけば約2ヶ月ですか。たくさんの艦娘を書かせていただきましたね
慣れない地の文だったので違和感などあったかもしれませんが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
後ほどHTML申請しておきます
またどこかで見かけていただけたら、その時はどうぞよろしくお願いいたします
P.S.
朝雲ちゃん、ごめん。初潮ちゃんのときなぜか最初に連想されちゃったから少しだけモデルになってもらったんだ
元スレ:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422684306/
268: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 10:06:16.91 ID:vBmV0czt0
えっなんですかこのリクエストの数は(困惑)
随分と多いですが最大値なので>>257の榛名さんで了解です!
(ちなみに当日には終わらないも何も一人しか取りませんから……!!!)
随分と多いですが最大値なので>>257の榛名さんで了解です!
(ちなみに当日には終わらないも何も一人しか取りませんから……!!!)
269: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 23:01:18.41 ID:vBmV0czt0
投下します
地の文少し少な目&糖分はかなり多めです
地の文少し少な目&糖分はかなり多めです
270: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 23:01:55.96 ID:vBmV0czt0
榛名とバレンタイン
271: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 23:02:30.62 ID:vBmV0czt0
榛名「もうすっかり夜になってしまいましたね」
提督「遅くまでごめんな」
榛名「いえ!榛名、久しぶりの秘書の仕事、楽しかったです」
朝から榛名が秘書として手伝ってくれた今日も、気づけば完全に夜。古参である彼女の手際はかなりいいのだが、今日は雑談を多く交えたために遅くなってしまったのだ。
提督「今日はありがとう。戻ってゆっくり休んでくれ」
榛名「…………もう少しだけよろしいでしょうか?」
提督「いいけど、どうかした?」
榛名「い、いえ!榛名、提督の執務室からの夜景が大好きなんです。だからもう少しだけ眺めていたいなーって……」
提督「ああ、そういうことか。なら別に構わないさ」
榛名「…………はい!」
執務室からの夜景と言っても、見えるものはドックの微かな光と海。街の明かりのような豪華さはないが、このような落ち着いた夜景はこちらとしても大好きだった。
窓から乗り出すように外を見つめている榛名は、手で何かを必死で隠しているようにも見える。
榛名「──────提督!」
提督「ん、どうした」
榛名「あの……えっと…………」
何かを決心したように振り向いた榛名の手には、ピンクでハート形をした小さな箱。小さいながらも丁寧にリボンで結ばれている。
榛名「もしよかったら…………」
榛名「この榛名のチョコレート、貰っていただけますか?」
提督「チョコレート……え、もしかして手作り?」
榛名「はい!榛名、提督のためにちょっと頑張りました」
提督「榛名…………。わざわざありがとう」
手渡された小さな箱を開けてみると、チョコにしては大きめの、箱と同じくハート形のチョコレートがひとつ入っていた。
まだ口にしてはいないが、チョコレート独特の香りで「美味しい」ということは明確である。
272: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 23:03:00.23 ID:vBmV0czt0
提督「もう食べてみてもいいかな?」
榛名「あ……少し榛名に貸していただけますか?」
提督「ん、おう」
チョコを口に運ぶ前にストップをかける榛名。意図がよくわからない。
言われたとおりに渡すとそれを片手に目を瞑っている。
そうしてひとつ、大きく息を吐いた。
榛名「提督、口を開けてください」
提督「…………えっ」
榛名「……………………」
提督「……………………」
戸惑いつつも口を開いてしまうあたり、きっと榛名の思う壺なのだろう。開くと同時に手に持たれている甘いものが入れられるのだった。遠回りであるが食べさせてもらった形だ。
甘い味が口に広がり、甘い香りが鼻腔をくすぐってくる甘さしか感じないようなチョコレートだった。
提督「甘い。そして美味い」
榛名「ほ、本当ですか!?嬉しいです!」
榛名「もっとたくさん作ってくれば良かったでしょうか……?」
提督「いや、まあ食べすぎも良くないって言うしな。一つでも十分だ」
榛名「来年はもっとたくさん作りますね」
なぜ一つで十分なのか?止まらなくなりそうだからだ。
これを二つも食べたら間違いなく追加で要求したくなるだろう。むしろ一つだけの今ですらだいぶ危ない。
273: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 23:03:42.35 ID:vBmV0czt0
榛名「そういえば、榛名は味見をしてませんでした…………」
提督「そうなのか?美味かったし大丈夫だけど」
榛名「で、でもその……味見してみたいじゃないですか」
提督「でももうチョコは残ってないはずだが」
榛名「一つだけ、残っている場所があるんですよ?」
提督「…………場所?」
榛名「ちょっとだけ、提督に残ってます」
提督「…………それって──────」
榛名「ん──────────」
提督「!?──────────」
榛名「んっ………………ふふっ♪」
榛名「大成功です♪」
274: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/14(土) 23:06:54.30 ID:vBmV0czt0
投下終了
いったいどこに味が残ってたんですかねー
てことで遅くなりましたがたくさんすぎるリクエストありがとうございました!
明日からまた本編に戻ります。敷波、夕張、武蔵ですね
一日一人のペースが続きそうですがご了承いただけると幸いです
それでは失礼します
いったいどこに味が残ってたんですかねー
てことで遅くなりましたがたくさんすぎるリクエストありがとうございました!
明日からまた本編に戻ります。敷波、夕張、武蔵ですね
一日一人のペースが続きそうですがご了承いただけると幸いです
それでは失礼します
277: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/15(日) 19:11:43.52 ID:iivlOKxu0
敷波を放置
278: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/15(日) 19:12:22.06 ID:iivlOKxu0
敷波「──────司令官も忙しいんだね」
提督「そりゃまあ、それなりに」
敷波「ふーん…………」
暇だから遊びに来たという敷波は少し離れた場所で壁に寄りかかっている。
特にアクションを起こすような様子もない彼女を横目に、いつも通り報告書を持ってくる艦娘や任務書類の整理に追われていた。
提督「えーっと、次は……………………」
提督「ん、ここ少し違うか。まずはこっちを直して…………」
敷波「…………ふんっ、敷波のことなんか、どうせ忘れてるよね」
後ろで腕を組んで目を逸らす敷波。俺が紙の山ばかりに向き合っていたので不貞腐れてしまったようだった。
壁に寄りかかって後ろで腕を組み、つま先を立てて足首を回している。
彼女がこんな仕草をした場合、思いとは裏腹の言葉を発するのが常である。しかしそれをわかっていても、仕草が可愛くてつい便乗してしまうのだ。
敷波「ま、いいけどさ…………」
提督「忙しいからなー仕方ないな」
敷波「……………………よくない」
提督「ん、なんか言ったか?」
敷波「っ!は、早く仕事終わらせなよ」
提督「終わらせたいんだけどな、少し量が多くて」
敷波「…………………………」
それを聞いた彼女は少し考えている。
やがて背中を反らせて戻す反動で壁から離れると、仕方なさそうにこちらへ歩み寄ってきた。依然として腕は組まれたままである。
提督「お、手伝ってくれるのか?」
敷波「べっ、べつに……。遊びに来ただけなんだし、手伝うとかサービスなんだからね」
敷波「だからその…………あとで何か奢ってくれたりしてもいいし、さ…………」
敷波「な、何もないってならそれでもいいけど…………」
提督「はは、何か考えておくよ」
敷波「……………………ん」
小さく呟いた短い音だが心なしか嬉しそうに聞こえる。
そうして一度髪を結び直し手伝ってくれる敷波のすぐ横で、今度は二人で書類に向き合うのだった。
提督「そんな近くに居て、作業しにくいんじゃないか?」
敷波「いいんだよー、ここが字とか見やすいんだしさ」
敷波「ここなら忘れられないし…………」
提督「え?」
敷波「な、なんでもないっ!あたしを巻き込んだんだから、あんま長引かせないでよね」
279: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/15(日) 19:13:11.30 ID:iivlOKxu0
久しぶりにほのぼのしてみました
それではこのあたりで
それではこのあたりで
282: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/16(月) 19:34:31.79 ID:yq7d5H0G0
夕張を放置
283: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/16(月) 19:35:06.04 ID:yq7d5H0G0
夕張「────────平賀さんの才能って、ほんと素敵よね……」
惚れ惚れとした口調でそう発しながら自らの艤装を撫でている、緑色のリボンを付けた艦娘が一人。用があって部屋の前まで来たわけだが偶然ドアが開いていたのだった。
彼女の言う平賀さんとは平賀譲氏のこと。
古鷹型・妙高型重巡、川内型軽巡や夕張などを設計した人物だ。小柄な夕張の船体に5500トン級と同じような武装を施した張本人でもある。
提督「何かと警戒されたしな」
夕張「ほんとほんと…………」
夕張「……って、あ、あれ?提督いたの!?」
提督「このくらいの時間に来るからって伝えただろ」
夕張「時間って…………あ、もうこんな時間なんですね」
思い出したように時計を見上げ、ようやく時間に気づいた様子の夕張。わかってはいるが、彼女は一度自分の世界に入ると自力ではなかなか抜け出すことができない性格なのだ。
提督「少しは時間も気にしなさい」
夕張「はーい」
適当に返事を済ませると徐に立ち上がり、またも艤装に触れ始めてチェックをしているようだった。
さすがは兵装フェチ、抜かりない。各部を呟きながら指差し確認をする程度には凝っている。
また始まった……そう思いながらしばらく眺めていると、それが伝わったのか思い出したようにこちらへ振り向いた。
夕張「あ、それで提督、なんのご用ですか?」
提督「秘書やってみたいとか言ってたからお願いしようと思ったんだが」
夕張「え、いいんですか!?」
提督「お前がいいって言うなら大歓迎だ」
夕張「行きます行きます!」
ここに来た理由は数日前、夕張が秘書をやりたいと言っていたからに他ならない。
なぜ突然言い出したのかはわからないが、考えてみると彼女にお願いしたことはなかったかもしれない。自然と言えば自然なのだろう。
提督「ところで、なんで急に秘書やりたいとか思ったんだ?」
夕張「この前執務室から駆逐艦の子が出てきたときに、なんかすごく楽しそうな顔してて……」
夕張「だから楽しいのかなーって」
提督「…………それたぶんやたらと甘えてくる子たち」
夕張「あ、秘書ってそういうことできるんですか?」
提督「いや、ちゃんと仕事しような?」
夕張「仕事終わればいいんですね!」
一度入ったスイッチは長い間切れることはない。集中してるときは大いに結構ではあるが、このような時も同じのようである。こちらとしてもまだ夕張のことをわかっていない節もあるのだろう。
言葉を借りるなら、秘書をお願いしている間に『データをとる』ことを決意するのだった。
しかしそれは、どうやら彼女も同じ考えだったようである。
284: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/16(月) 19:37:04.40 ID:yq7d5H0G0
投下終了
夕張のデータ(意味深)をとりたい
夕張にデータ(意味深)をとられたい
夕張のデータ(意味深)をとりたい
夕張にデータ(意味深)をとられたい
285: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/16(月) 20:11:30.64 ID:yq7d5H0G0
言い忘れました
明日ついに4艦隊分のリクエスト消化が終わりますが、バレンタイン安価のように随分とリクエストしてくれる方が多いみたいなので、明日の投下後に追加でリクエストを受け付けます
恐らくこのペースが基本となりますが、それでもいいって方はぜひ
それでは失礼します
明日ついに4艦隊分のリクエスト消化が終わりますが、バレンタイン安価のように随分とリクエストしてくれる方が多いみたいなので、明日の投下後に追加でリクエストを受け付けます
恐らくこのペースが基本となりますが、それでもいいって方はぜひ
それでは失礼します
287: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/17(火) 19:38:02.09 ID:dmrDZ1DC0
武蔵を放置
288: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/17(火) 19:38:37.53 ID:dmrDZ1DC0
夜。
カタカタとキーボードを叩く無機質な音が部屋いっぱいに広がる中、大和型二番艦の武蔵は艤装を付けたまま、穏やかな表情でこちらを向いている。
武蔵「提督よ」
相変わらず左手の指に徹甲弾を挟みながら歩み寄ると、机を挟んだすぐ向こうで立ち止まった。
武蔵「忙しいなら、ブラウザを閉じるのもまた……提督のあり方だ」
提督「残念ながらブラウザは開いていない。明石と夕張が取ってくれたデータで戦略を立ててるだけだ」
武蔵「なに?次の戦略を考えているだと?」
提督「まあそういうこと」
それを聞くと感心したような様子で「それはすまなかった」と告げ、ゆっくりと歩き椅子に近づく。
腰を下ろそうとしたらしいが、すぐに艤装を付けたままのことに気づき外しにかかっている。
慣れた手つきでそれを外し床に置くと、漸く彼女は椅子に腰を下ろすことができた。
武蔵「しかし、秘書であるこの武蔵に頼らぬとはどういう了見だ提督よ?」
提督「お前がパソコンいじれるなら頼んでるよ」
武蔵「…………書類くらいは片付けてやってもいいぞ」
提督「この間自分で書いた字を読めなくなって大和に聞いてたのは誰だ?」
武蔵「…………達筆すぎるから仕方ない、と大和に言われたな」
提督「間違っちゃいないけどなぁ…………」
提督「で、大和は読めたのか?」
武蔵「解読不能と言っていた」
提督「………………ふふっ」
武蔵「………………笑うな」
そうして実に下らないやり取りをしているうちに、ついには日付が変わるような時間になっていた。
それに気づいた武蔵は静かに立ち上がると、今度は机近くの椅子に腰を下ろす。
武蔵「この武蔵が深夜零時をお知らせする」
提督「遅くまで付き合わせて悪いな。もう戻ってもいいぞ」
武蔵「まだ仕事は残っているのだろう?秘書として居残るのは当然だ」
提督「でも頼むようなことはもう残ってないが……」
武蔵「では話し相手になってやる。退屈だろう?」
すぐ隣に椅子を移動させる武蔵は不敵な笑みでニヤッと笑う。対する俺は本心を言い当てられて動きが止まる。
どうやら全てを見透かされているようなそんな錯覚に陥ったとき、無意識にも彼女が入れるようなスペースを作るために椅子を寄せてしまう自分がいた。
提督「物好きな奴だ」
武蔵「…………ああそうだ、私は物好きだな」
武蔵「しかし、今の言葉をそっくりそのまま返そうか。ふふっ…………」
提督「………………笑うな」
289: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/17(火) 19:40:16.02 ID:dmrDZ1DC0
以上で4艦隊分のリク消化終了しました。ここまで見ていただいた方、ありがとうございます!
予告通り追加でリクエストを取ります。あまり多すぎても書ききれるかわからないので、とりあえず一艦隊分の6人
一度書いた艦娘でも構いませんが、その場合は糖度たっぷりの続きを書きます。R-18描写は書きません、書けません
今回イベントの実装艦も大歓迎です!
21時直近の3名、同じく直後の3名となりますのでご了承ください。一人1つまでで連投は禁止です。どうぞよろしくお願い致します
それではまた後ほど
297: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/17(火) 21:01:01.96 ID:dmrDZ1DC0
>>295
春雨までで了解です
まさかこんなに早く埋まるとは……
春雨までで了解です
まさかこんなに早く埋まるとは……
301: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/18(水) 21:15:01.66 ID:w5wvob8s0
望月を放置
302: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/18(水) 21:15:42.32 ID:w5wvob8s0
望月「んー、たまには縁側で日向ぼっこもいいねぇ」
提督「ほう?連れてきたときはあんなかったるい感じだったのに凄い変わりようだな」
望月「…………司令官に付き合ったげてるだけってのは変わんないって」
部屋に籠って出ようとしない望月を半ば強引に引っ張り出してきてから、早くも休憩時間が終わる時間になろうとしていた。
相変わらず気怠そうにしてはいるものの、どこか楽しそう……に見える気がする。
提督「じゃ、付き合わせても悪いし戻るかな。そろそろ休憩も終わりだ」
望月「………………ん」
そうして立ち上がろうとしたとき、軽く服の裾を引っ張られるような感覚のせいで立ち止まった。引っ張るというよりは立ち上がるのを拒むといった感じだろうか?
この場所には今二人だけ──────
もちろん犯人は一人だけ。
提督「……望月」
望月「まだ早いって。焦らない焦らない」
そう言って成り行きで元の場所へ座らされてしまった。
誰も仕事を好き好んでしたいわけではない。仕方のないことだろう。結局のとこ、もっと休憩したいと思っていたわけである。
望月「まぁいいんだよ、動くとしんどいから」
提督「戻るのが面倒なだけだろうが」
望月「そんなこと言って、司令官も残るってことは同じっしょ」
提督「…………なんでそういう時は勘が冴えてるんだよ」
望月「いいじゃんいいじゃん。ぼーっとしてよ?」
提督「はぁ…………お前ってやつは……」
いつの間にか裸足になっては両足を前後に振っている。その彼女が作り出す振動が縁側を通して伝わってくる。
いつも気怠そうにしている望月と同じ人物とは思えないくらいにご機嫌な様子で、呑気な鼻歌まで聞こえてくる有様だ。
そうしてしばらく、言うとおりにぼーっとしている時間が過ぎ去っていく。不意に例の振動が途切れたかと思うと、すかさず肩にふわりとした重みを受けた。
望月「いい枕があるじゃん。少し寝ちゃうかねー」
提督「本格的に戻れなくなるから……」
望月「んー、いいって。平気平気、なんとかなるって」
提督「…………ほどほどにしろよ?」
望月「はい、オッケーもらいましたー」
すぐさま目を閉じて睡眠姿勢に入っている。さすがは望月、休むことに関しては手慣れているようだった。この調子では『ほどほど』では済まず、それなりに長い時間寝ているのだろう。
まあいっか……────────
そんな思考が脳裏を掠めた。
春のような陽気な日差しの下。寄りかかる望月と過ごすうちに、想像以上に感化されてしまったようである。
303: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/18(水) 21:16:34.10 ID:w5wvob8s0
睦月型はほのぼの担当の癒し
それでは失礼します
それでは失礼します
307: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/18(水) 22:14:10.44 ID:w5wvob8s0
不貞腐れるとか言って揺すってくる瑞鶴、邪魔をしちゃいけないと止めに入っておきながら横取りしだす翔鶴、色々と仕事どころじゃない提督
何気に一部始終をバッチリ見てた嫁艦ヴェル。とんでもないことになりそう……
というのは置いといて、もちろんこの6人で終わるわけではないのでご安心ください。
リクエスト消化次第また受け付ける予定なので、お手数ですがその時にもう一度取っていただけると幸いです。
何気に一部始終をバッチリ見てた嫁艦ヴェル。とんでもないことになりそう……
というのは置いといて、もちろんこの6人で終わるわけではないのでご安心ください。
リクエスト消化次第また受け付ける予定なので、お手数ですがその時にもう一度取っていただけると幸いです。
310: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/19(木) 18:44:20.93 ID:59BgK1WS0
提督LOVEな山城というのは「健全な山城」と言えるのでしょうか……
だいぶ言い遅れましたが雑談なども構いませんのでお気になさらず
山城は後ほど投下します。
だいぶ言い遅れましたが雑談なども構いませんのでお気になさらず
山城は後ほど投下します。
313: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/19(木) 22:37:07.77 ID:59BgK1WS0
山城を放置
314: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/19(木) 22:38:02.82 ID:59BgK1WS0
山城「なに……?姉さまと山城が出る海域は、もう無いというの……!?」
震えたような声に振り向くと、椅子に座る山城。先ほどまでは机に伏せて寝ていたと思うのだが起きたようだった。姉と比べて短めの黒髪が若干乱れているのは、恐らく寝起き特有のものだろう。
提督「山城?」
山城「どういうことなの……?不幸だわ…………そもそも……!」
提督「…………山城、大丈夫か?」
こちらの声はまったく聞こえていないという風に言葉を続けるが、その全ての音が震えている。普通に聞けば恐怖すら覚えそうな雰囲気を醸し出していた。
彼女に限らず、艦娘というのは艦艇だったときの記憶が時折頭を過ることがあるという。
それはもはや提督という立場ではどうしようもないことではあるが、落ち着くまでの手助けくらいはできる。その方法は千差万別であり、文字通り人それぞれであった。
山城「…………すみません。少し夢見が悪かったので」
提督「あるある」
山城「扶桑姉さまはどこですか?」
提督「扶桑?たしか今は入渠中だが、少し長くなるとか言ってたな」
山城「そう、ですか…………」
諦めた様子で椅子に座り直し下を向き、まだ収まることのない動揺を必死で抑えようとしているように見える。
が、間もなくしてそれも諦めたらしく大きく溜め息を吐くと、不意に立ち上がってこちらへと歩み寄ってきた。
山城「どうしてもダメなので姉さまの代わりをお願いしたいんですけど」
提督「扶桑の代わり?務まるかなぁ……」
山城「いいんです。提督ならきっと大丈夫ですから」
提督「ところで何をすればいいんだ?」
山城「それは……その────────」
315: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/19(木) 22:38:45.57 ID:59BgK1WS0
提督「落ち着いたか?」
山城「……………………意外と」
提督「扶桑にはいつもこうしてもらってるのか」
山城「これが落ち着くので」
今でこそぶっきらぼうに答えているが、扶桑の代わりを頼み込んできた山城の口から出てきた言葉は『抱きしめてほしい』
思わず聞き返してしまった。何しろ近づくだけで扶桑と勘違いされ、俺だとわかるとあからさまに肩を落とすあの山城だ。
麗しい黒色をした短めの髪からの仄かな甘い香りが鼻腔をくすぐり、それを感じる度にこちらの庇護欲をそそる。そのあまり締め方が強すぎないか……それだけが心配だった。
当初は衣服を挟んでも伝わって来た彼女の鼓動は、今やだいぶ落ち着いている。
山城「…………ありがとうございました。もう落ち着きましたよ」
提督「ん、良かった」
そうして離れようと試みたとき、強めに抱き寄せられることによって行動を阻まれた。
山城「でもまだですよ提督」
山城「まだ、余韻に浸ってませんから」
提督「余韻って……」
山城「嫌、ですか?」
提督「…………そうは言ってない」
一度は離れて様子を窺っていたが、返答を聞くなり今度は胸に顔を埋めてくる。それによって目の前へとやって来た例の黒髪に、思わず手を伸ばさずにはいられなかった。
山城「んっ……………………」
提督「あ、ごめん」
山城「少し驚いただけです……。続けてもらっていいですよ」
提督「え、怒らないのか?」
山城「…………姉さまと提督限定ですからね?」
いつの間に扶桑と並んで追加されたのか……。
そんなことも考えてはみたものの心当たりはなく、結局はわからず終いのまま再び手を伸ばしていた。
軽くクセのある山城の髪が指の間を流れていく。梳くごとに心地良さそうな、しかしどこか艶やかな声が漏れてくる。その反応が面白くて何度も繰り返してしまう。
極めつけには先程と立場が逆転し、抱きつかれているようなこの状況。鼓動が早くなっていることは間違いなく彼女にも伝わてしまっているだろう。
316: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/19(木) 22:39:16.07 ID:59BgK1WS0
山城「提督」
提督「ん」
山城「また姉さまが入渠中の時にこうなったときは…………」
山城「お願いしてもいいですか」
提督「…………ご自由に」
山城「…………わかりました」
山城「『自由に』させてもらいます」
山城「ふふ…………♪」
317: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/19(木) 22:45:10.66 ID:59BgK1WS0
投下終了
ボイス聞いた当初はヤンデレ化する未来しか見えませんでしたが、とりあえずイチャラブというのは偉大な要素だと分かりました。
それでは失礼します
ボイス聞いた当初はヤンデレ化する未来しか見えませんでしたが、とりあえずイチャラブというのは偉大な要素だと分かりました。
それでは失礼します
321: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/20(金) 23:37:20.38 ID:2bsHbVoS0
蒼龍とほのぼの
322: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/20(金) 23:38:16.07 ID:2bsHbVoS0
蒼龍「──────♪」
提督「………………蒼龍」
蒼龍「はい、なんですか?」
提督「ちょっと狭い、いやだいぶ狭い」
蒼龍「いいじゃないですか、減るもんじゃなし」
減るものじゃないとは言うものの、こちらのスペースが明らかに減っていることには気づいていない。
冬の昼間、外は雪。
蒼龍と二人で炬燵に並んで腰掛けていた。『暖かくなるから』と言ってはぴったりと密着してくるために、本来確保されたであろうスペースは半分程度に減っているのだった。
蒼龍「得たものも大きいんじゃないですか?例えば暖かさとか!」
提督「さっきからそれしか聞いてないが暑いくらいだよ」
蒼龍「あ、酷いなぁもう」
少し不服そうな顔をして不貞腐れたかと思うと、どうやら見当違いもいいところだったらしい。
下から覗き込むようにニヤリと笑うと同時に、今度は足を絡ませて来たのだ。足の自由が利くので気に入っていた掘り炬燵という素晴らしい発明も、今回ばかりは憎く感じる。
提督「実はお前も暑いんじゃないか?」
蒼龍「え?私は平気ですよ。自分で絡めておいてそんなはずないじゃないですか」
提督「…………随分と顔がのぼせてるようだが」
蒼龍「う…………………」
結局のとこ暑かったのか、顔を紅潮させる蒼龍。はしゃいで密着していた先ほどまでとは打って変わり、バツが悪そうに目を伏せて下を向いている。
そうしてじりじりと離れていき、やがて絡まっていた足も解かれた。にもかかわらず、彼女の顔は相変わらず真っ赤にのぼせあがっている。
提督「…………まさかとは思うが、自分で絡ませてきて照れてんのか?」
蒼龍「…………そのまさかだったらどうするんですか」
提督「…………おい図星かよ」
蒼龍「わっ、笑わないでくださいよ!」
突然背中側から反転して後ろを向いたかと思うと、次の瞬間にはうつ伏せに倒れこみ、座っていた座布団に顔を埋めてしまった。
最初からやらなければ済む話だが、よほど恥ずかしかったのだろう。
提督「可愛い奴め」
蒼龍「うぅ………………」
昼下がり。足元に違和感を覚えたあたりから蒼龍の姿が見当たらない。
提督「潜ると本当に暑いだろ……」
蒼龍「もう、知りませんっ!」
323: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/20(金) 23:43:45.82 ID:2bsHbVoS0
悲しいことに放置ボイスも時報ボイスもないので、口直しということでとりあえずほのぼのしました。
それでは今日はこのあたりで失礼します。
それでは今日はこのあたりで失礼します。
326: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/21(土) 22:19:21.84 ID:OONeSTKU0
蒼龍が潜ってて飛龍が来てしまう展開ですね。しかも今さら出られなくなった蒼龍が炬燵のなかで伸びちゃって飛龍に何かと誤解されるんですね。蔑んだ目で見られそう
磯風投下します
なんだか浜風成分もだいぶ入ってしまった&勝手に磯風の一人称を「私」にしちゃってたりしますがお許しを……
◆◇の中は提督視点です。それ以外は磯風視点で
磯風投下します
なんだか浜風成分もだいぶ入ってしまった&勝手に磯風の一人称を「私」にしちゃってたりしますがお許しを……
◆◇の中は提督視点です。それ以外は磯風視点で
327: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/21(土) 22:19:50.18 ID:OONeSTKU0
磯風を放置
328: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/21(土) 22:20:25.25 ID:OONeSTKU0
出撃を終え、旗艦である私は一番活躍した──MVPというやつを獲得した──浜風と共に、執務室へと続く廊下を歩いていた。他でもなく報告をするためである。
結果は完全勝利。十七駆で出撃したがこちらの損害は皆無だ。非常に誇らしい。
しかし浜風はというと、MVPを獲ったにも関わらずいつも通り冷静でいる。もう少し喜んでもいいものだろうとは思うが、そこが浜風らしいと言えよう。
磯風「司令、磯風だ。報告に来た」
提督「ん、帰ったか。お疲れさん、入っていいぞ」
返事を聞いてから浜風と並んで部屋へと入る。浜風は相変わらず引き締まった顔をしていた。
磯風「第十七駆逐隊、近海の敵に対し完全勝利だ。こちらの損傷はない」
提督「それは素晴らしい。よくやってくれたな」
磯風「いや……。この程度の働きではなんの意味もない。今日の立役者は浜風だからな」
提督「ほう、浜風がMVPか」
その場で姿勢を正し、敬礼して報告をする浜風。我ながら本当にできた妹を持ったものである。
消耗もなし、疲労もなし。疲労に至ってはむしろ戦意が高揚しているくらいだった。これならまた、いつでも皆で海へ出られるだろう。
磯風「ふふっ……。司令、第十七駆逐隊、いつでも出撃可能だ。疲労も損傷もしていない」
磯風「可能だぞ。なぁ浜風──────浜風?」
ふと隣にいるはずの浜風へ目をやると、どういうわけか姿がない。まさか部屋に戻ったなんてことはあり得ないだろう。が、ほんの少し見渡すと彼女はすぐに見つかった。
提督「浜風、よく頑張ったな」
浜風「ん…………ふふっ……♪ありがとうございます」
提督「あれ、勝利に浮かれるほど素人ではないとか言ってなかったか?」
浜風「……浮かれてません」
提督「顔が浮かれてる。完全に」
浜風「……じゃあそれはこの状況に──────」
いつの間にか司令の傍へ行っていた浜風は、さっきまでは想像もできないような満面の笑みで、ほんの少し頬を紅潮させていた。
いつも手入れは欠かすことのない綺麗なねずみ色をした髪は、いまや司令の大きな手のひらへと完全に預けている。
提督「お前はMVP持ってくるといつもこれだよな」
浜風「いけませんか?」
提督「いや、このくらいなら安いもんだけど」
浜風「…………これがないとMVPなんて獲りませんから」
提督「はは、そいつは大変だ」
どうやら活躍した後の褒美を受けているらしい。私はここに来て日も浅く、MVPというものを獲った経験がないのだ。
浜風はとても気持ちよさそうに頭を預けている。そんなに良いものなのだろうか?ひたすらに想像してみるが、どうにも上手くいかない。その時はただ、二人の様子を眺めることしかできなかった。
329: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/21(土) 22:20:59.24 ID:OONeSTKU0
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
磯風「司令、磯風だ」
提督「おう、入っていいぞ」
声に反応すると、ドアからは磯風が一人。出撃から帰投の報告だろう。
提督「旗艦の磯風だけか。てことはMVPも……」
磯風「そうだ、この磯風だ」
提督「おお!初めてじゃないか?」
磯風「なに、容易いことだ」
前へと歩いてきては机の前で立ち止まり、的確に報告をする磯風。駆逐艦娘とは思えないような風格がある。風格だけなら戦艦を彷彿とさせかねない勢いだった。
磯風「──────報告は以上だ」
提督「ん、ありがとう。それでだ」
提督「ここではMVPを獲ると、軽い要望なら俺が聞くことになってるんだ。何かあるか?」
磯風「要望、か…………そうだな」
提督「あ、高いものは勘弁な」
磯風「安心してくれ、何も奢らせるつもりはない」
少し考え込んでから下を向くが、やがて決心がついたようで顔を上げる。そうかと思うとカツカツと靴を鳴らし、すぐ傍へと移動してきた。
べつにその場で言ってくれてもいいのだが彼女なりの考えもあるのだろう。
磯風「ではお願いしよう」
提督「そんな硬くなるなって。言いにくいことじゃないだろ?」
磯風「…………浜風と同じで頼む」
提督「…………えっ」
磯風「どうした、浜風にはできて私にはできぬと言うのか」
提督「いや、そうじゃないけど……意外だなぁって」
浜風と同じ……。つまりそれは、ただ単に褒めながら頭を撫でてあげること。いたって単純であった。しかし磯風がそれを頼んでくるのが頭にないと言うのは、当たり前の感情だと思いたい。
330: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/21(土) 22:21:49.09 ID:OONeSTKU0
磯風「ではその……よろしく頼む」
提督「身構えるようなことじゃないだろ」
磯風「…………うるさい」
少し無愛想な、突き放したような言い方だが、頭だけはちゃっかりこちらへ持ってきている。ほんのりと赤くした顔だけ横を向いて目を伏せた彼女は、その時を待ちわびている様子だ。
浜風とはまるで違う黒髪に手を置くと、開けていた目が閉じられる。くすぐったいというような態度だった。
提督「磯風、今日はよく頑張ってくれてありがとうな」
磯風「この程度の働きではなんの意味もない」
提督「でも今日はお前の活躍で勝ったようなもんだぞ?意味あるだろ」
磯風「…………まあ、そう思うならそれでもいい」
素直じゃない。そう思ったが、戦歴を考えれば妥当なのかもしれない。
そうしてゆっくりと手を動かそうとしたとき、小さく華奢な手によって待ったをかけられた。白い手袋を越して温かめの体温が伝わってくる。
提督「嫌だったか?」
磯風「…………少し恥ずかしい」
提督「そうか。まあ今日はこの辺にしておくかね。とにかくMVPおめでとう」
磯風「…………お安い御用だ」
綺麗な髪を傷めないようそっと手を退かすと、どこか名残惜しそうにその場に居残る磯風。「戻っていいぞ」と声をかけた途端、いま気づいたようにハッとしてドアの前まで早足で歩いた。
回れ右でこちらへ向き直り一言挨拶をしてから、また反転しノブを回しにかかる。浜風のことを礼儀正しいと言っていたが、それはきっと磯風の影響も大きいだろう。
磯風「──────司令」
提督「ん、どうした?」
磯風「私は次もきっと、一番戦果を挙げてみせる」
提督「おう、期待して待ってるぞ」
磯風「だからその……なんだ…………」
磯風「次は途中で止めなくてもいいようにしようと思う」
提督「……それも期待してるかな。無理して沈むようなことはするなよ?」
磯風「当たり前だ。褒美も受けられなくなる」
短い会話を交わすと、彼女は「失礼した」と言って部屋へと戻っていった。褒美を気にするような余裕が出たというのはある意味で喜ばしい。
帰り際、終始硬かった彼女の表情が少し緩んでいた気がする。それを見られただけでもこちらとしては大きな収穫だった。手にはまだ、彼女の体温が淡く残っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
331: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/21(土) 22:24:12.33 ID:OONeSTKU0
浜風も磯風も可愛くてだいぶ長くなってしまいました。不可抗力ですね
それでは失礼します
それでは失礼します
335: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/22(日) 21:33:55.84 ID:O3NQauGC0
磯風「き、今日は最後まで褒美を受けさせてもらおうか」
浜風「……今日もお願いします」
浦風「提督さんも大変じゃね。でも、うちも引く気はないんよ?」
谷風「聞くところによると谷風さんの頭は触り心地良いらしいよ、提督!」
雪風「しれぇ!ポンポンしてください!」
提督「なるほど。…………で、誰がMVPなんだ?」
こうしてネタが生まれるのだった────
というのは嘘です。十七駆全員とかどうなるやら……
秋月さん投下します、>>117の続きです
浜風「……今日もお願いします」
浦風「提督さんも大変じゃね。でも、うちも引く気はないんよ?」
谷風「聞くところによると谷風さんの頭は触り心地良いらしいよ、提督!」
雪風「しれぇ!ポンポンしてください!」
提督「なるほど。…………で、誰がMVPなんだ?」
こうしてネタが生まれるのだった────
というのは嘘です。十七駆全員とかどうなるやら……
秋月さん投下します、>>117の続きです
336: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/22(日) 21:34:24.91 ID:O3NQauGC0
秋月を放置(続き)
337: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/22(日) 21:35:07.51 ID:O3NQauGC0
提督「…………わざとやってないか?」
秋月「ま、まさか!」
提督「……………………」
秋月「……………………」
提督「………………まあいっか」
少しばかり疑いの意味を込めて秋月の目を見ていると、やがて彼女はバツの悪そうな引きつった苦笑いを浮かべた。間違いなくわざとやっている。
しかしそれはそれで可愛らしいものである。
提督「さすがに太ももの砲身を直すのは色々とアウトだろ……。自分でできるか?」
秋月「え、あ、その…………」
秋月「…………い、いつもの位置ってどこらへんでしたっけ?」
提督「真面目だから無理に嘘をつくとすぐバレるのな」
秋月「────────!?」
ぎこちなく聞いてくるが彼女が忘れるはずもない。大方のところ甘えてきていると言ったところだろうか?顔から火が出そうなほどに赤面しながらも、恥ずかしげに「お願いします」と言ってくるあたり秋月らしい。
肌には触れてしまわぬように砲身へ手を伸ばし、見慣れた位置に戻すだけの簡単な作業。ほんの数秒で終わるはずだが、どういうわけか遥かに長く感じられた。
そうしてなんとか戻した後、気を抜いてしまったところで指先に柔らかく、そしてスベスベとした感触が走る。
秋月「ひゃっ!?」
提督「あ、ごめん」
秋月「も、もう!びっくりするじゃないですか」
提督「偶然だ、ごめんな。わざとじゃないから…………」
秋月「あ……いえ!こちらからお願いしましたから…………」
咄嗟に手を退けて立ち尽くす俺。
触れてしまったところに軽く手を当て、目を伏せて立ち尽くす秋月。
何か言い出さないといけない。でも何も言い出せない。お互いに沈黙している時間が流れ、しばらくしてから秋月が口を開いた。
秋月「あ、あの…………整備ありがとうございました」
提督「お、おう。気を付けろよ?」
秋月「はい、すみません……」
目は伏せたまま素早く振り返って瞬く間にドアの前まで戻り、勢いよく開け放つ。いつもは欠かすことのない挨拶がないあたり、相当に焦っているのを物語っている。
秋月「司令」
秋月「──────また不備があったら……整備、お願いします」
提督「………………えっ」
それだけ言い残すと、まともな返事をする暇も与えずに彼女はそそくさと戻って行った。不備があっては困るが、それを整備しないのはもっと困る。意図せず触れてしまって不満だろうに、なぜ頼んできたのだろう?
それよりここに呼んだ目的を果たせずに帰られてしまったというほうが大きい。もう一度呼び出すにも、この状況では少し気が引ける。
どうしたものか……。
触れてしまった指先と見比べ、頭を抱えてしまうのだった。
338: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/22(日) 21:38:53.00 ID:O3NQauGC0
投下終了
整備(意味深)な展開とか浮かびましたが、ほのぼの系が丁度いいですね。憲兵さん怖い
明日で6人分消化するので明日の投下後にまた安価取ります。
整備(意味深)な展開とか浮かびましたが、ほのぼの系が丁度いいですね。憲兵さん怖い
明日で6人分消化するので明日の投下後にまた安価取ります。
340: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/23(月) 21:29:35.17 ID:m9Omf2Uk0
春雨を放置(続きの続き)
341: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/23(月) 21:30:07.75 ID:m9Omf2Uk0
提督「───────なんか起きてしまった」
3時間近く寝てしまっただろうか?不意に目が覚めると、未だにアンバランスな視界が捉えたものは天井。当たり前の光景だろう。
右腕ではまだ春雨が静かに寝息を立てている。
提督「そろそろ始めないと任務が終わらないなぁ……」
提督「これは仕方ない、うん」
まだ寝かせてあげたい。でもそれだと任務が終わらない。少しばかり心を鬼にして起き上がろう────
そもそも3時間も寝ているのだ、もし起こしてしまっても十分に寝たはず。
そう言い聞かせ、なるべくなら起こさないようにそっと肘を抜きにかかる。
春雨「………………んん……」
提督(起こしちゃったか?)
春雨「しれー、かん…………?」
提督「お、おう?」
春雨「ふふっ…………♪」
提督「……………………」
起こしてしまったかと思えば寝言。どんな夢を見ているのだろうか……。
気づくと笑い声とほぼ同時に小さな手によって腕は固定され、いつの間にか退けることさえままならない状況になっていた。無意識ではあろうが、まるで猫のように頬を擦り付けてくる。
提督「春雨ー?はるさめー?」
春雨「────────♪」
提督「…………ダメだこりゃ」
やがて気に入ったらしい位置で止まると、再び夢の中へと落ちていく春雨。先ほどより若干こちらへ寄って来たような位置だ。
そこで心地良さげな顔をされてはもはやなす術がない。
退かしかけた肘を戻し「はぁ……」とため息を吐く。
まだ当分は寝ているであろう彼女の目が覚めるまで、天井を見上げながら枕として過ごすのだった。
春雨「しれーかんっ♪」
提督「ん、起きたかな?」
春雨「…………すぅ…………すぅ………………」
提督「………………まあいっか」
342: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/23(月) 21:31:03.10 ID:m9Omf2Uk0
春雨ちゃんまさかの3回目の登場でした。そしてみなさんイベントお疲れさまでした!
というわけで追加でリクエスト取ります。一人につき一人までで連投は禁止です。
基本誰でも構いませんが、続きの続きともなるとさすがにネタが尽きてくるということがよーくわかったので、秋月・春雨・曙以外でお願いします。申し訳ないです……
一度出てきた子なら構いませんが、その場合は>>289と同じく甘々で続きを書きます。
今回はこのレスから15人までの早い者勝ちで、埋まり次第締め切りです。
それではまた後ほど
というわけで追加でリクエスト取ります。一人につき一人までで連投は禁止です。
基本誰でも構いませんが、続きの続きともなるとさすがにネタが尽きてくるということがよーくわかったので、秋月・春雨・曙以外でお願いします。申し訳ないです……
一度出てきた子なら構いませんが、その場合は>>289と同じく甘々で続きを書きます。
今回はこのレスから15人までの早い者勝ちで、埋まり次第締め切りです。
それではまた後ほど
358: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/23(月) 22:12:56.85 ID:m9Omf2Uk0
>>357
雷までで了解です!
初潮ちゃんはそろそろ許してあげてください(懇願)
雷までで了解です!
初潮ちゃんはそろそろ許してあげてください(懇願)
359: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/23(月) 22:33:38.95 ID:m9Omf2Uk0
リクエストは金剛、朝潮、五月雨、時津風、比叡、舞風、榛名、北上、大和、夕雲、望月、天津風、ユー、大天使漣、雷ちゃんですね。
ありがとうございます!
投下は明日から、金剛さんから順にいきます。
それでは今日はこのあたりで
ありがとうございます!
投下は明日から、金剛さんから順にいきます。
それでは今日はこのあたりで
361: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/24(火) 13:57:45.62 ID:dK7JkHg60
>>360
リクエスト消化次第ですが、最低でもあと一回は取るのでご安心ください。
リクエスト消化次第ですが、最低でもあと一回は取るのでご安心ください。
365: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/24(火) 20:26:51.37 ID:dK7JkHg60
金剛を放置
366: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/24(火) 20:27:25.32 ID:dK7JkHg60
金剛「……んん…………」
静かな室内。聞こえてくるのは自らが発している紙の擦れる音と、微かではあるが金剛の寝息。どうも昨日は寝られなかったらしく暫定的にここで寝かせているのだ。
「目を離しちゃNO、デスヨ?」とは言われたものの寝てしまっては見えないはず。そっと抜け出して任務書類に目を通していた。
金剛「……………………あ!」
提督「あ、起こしちゃったか」
金剛「目を離さないでって言ったのにー!提督、何してるデース!?」
提督「いや、寝ちゃったから作業の続きをやろうかなーと……」
金剛「だからって私を放置するなんて酷いネー!」
提督「寝てたんだから大目に見てくれよ」
金剛「………………起きてたんですヨ?」
提督「………………えっ」
一瞬狼狽えた隙に、ここぞとばかりに攻めてくるのは戦場と変わらないようだ。言葉に押され結局のところ書類を持って元居た場所へ戻るのだった。
金剛「これなら作業もできて、顔も見れて、一石二鳥ってやつネ」
提督「はぁ……。まあいいけど。ちゃんと寝ろよ?」
金剛「もちろんデース!」
先ほど寝付いた時のようなトロンとした目で再び眠りに就こうとする金剛。閉じかけた目は真っ直ぐとこちらへ向いている。若干不満気だろうか?
提督「……どうした、不満そうな目をして」
金剛「紙を顔の前で読まれるとよく見えないネー……」
提督「仕方ないだろ、読みやすいんだから」
金剛「────────ちょっと貸して!」
かなり強引に書類を奪うと、それを手に取って捲りだす。同じように一枚、また一枚と指を進めるごとに音が響いた。
しかし視線は明らかに書類ではなくなぜだかこちらへと送られている。眠気はどこかへ飛んだのか、今度ははっきりとした目である。
提督「代わりにやってくれるのは非常にありがたいんだが…………お前それ見てないよな?」
金剛「NO!右目は提督を見てるケド、左目はちゃんと書類を見てマース!」
提督「んなわけあるか!正直に言いなさい」
金剛「……しっかりと両目で見てますヨ?──────」
金剛「──────提督を」
提督「ダメじゃねーか」
もはや取り返す気すら起きない。眠気とともに、「ちゃんと寝る」という約束すらもどこかへ行ってしまったようだ。そしてこの部屋の静粛も、転げ回って面白がる金剛の笑い声によって完全にどこかへ行ってしまった。
そんな中でも書類だけは綺麗に保っているあたり金剛らしい。長女なだけあって意外としっかりしているのだから侮れない。
金剛「Oh no!こんなことして転げてる場合じゃないネ!」
提督「だろうな。早く戻りなさい」
金剛「もちろん!転げてたら、提督がよく見えないデース♪」
367: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/24(火) 20:27:55.40 ID:dK7JkHg60
投下終了
失礼します
失礼します
369: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/25(水) 01:20:25.60 ID:8C3Q3Fqu0
>>368
甘さ控えめで書いたつもりはありますが、控えめどころか全然甘く感じないですね。
>>1もきっと麻痺してるんだと思います。作者が麻痺していいのかどうか……
甘さ控えめで書いたつもりはありますが、控えめどころか全然甘く感じないですね。
>>1もきっと麻痺してるんだと思います。作者が麻痺していいのかどうか……
371: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/25(水) 20:58:09.58 ID:8C3Q3Fqu0
朝潮を放置(続き)
372: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/25(水) 20:58:40.72 ID:8C3Q3Fqu0
朝潮「────────司令官!」
だいぶ遅刻をして部屋へと入ると、寂しそうな面持ちをした黒髪の少女が椅子に腰かけている。彼女はこちらに気づくと一瞬で顔を明るくし、勢いよく飛びついて来た。
提督「ごめんな、結局遅くなって……。しっかり休んだか?」
朝潮「えっと…………」
提督「………………朝潮?」
朝潮「す、すみません!命令だったのについ……」
口ごもる朝潮の後ろには、几帳面に整理された部屋の光景が広がっている。きっと休むことなく片付けてくれていたのだろう。
命令とあらば守るのが朝潮という子ではあるが、何かしら動いていないと気が済まないのもまた、朝潮という子の特徴だ。
提督「朝潮」
朝潮「…………はい」
提督「…………ありがとう」
怯えたような、申し訳なさそうな目をして身構える姿は無視して艶のある黒髪に手を置くと、予想通りの驚いたような反応をする朝潮。「休め」という言い付けに違反はしたが、さすがに怒る気にはなれなかった。
それを知るはずもない小さな頭の上で前後に手を動かすと、動きに合わせて身体を揺らしている。
やがてこちらに叱る気がないと分かったようで、抱きついたまま心地良さげに顔を擦り付ける。しっかり者の長女であるが、姉妹もいない二人の時は兜の緒を緩めるようだ。
提督「そろそろいいかな」
朝潮「も、もう少しだけ……」
提督「妹が来ても知らないぞ?」
朝潮「大丈夫です!みんなまだ遠征中ですから」
提督「あれ、俺は行かせてないが……」
朝潮「……………………」
無言で例の行為を続ける彼女は顔を上げようとしない。提督代行は頼んだ覚えがないのだが…………
それらしい理由を付けて遠征へ行ってもらったと言うが、資源には特に困っていない。彼女は何を意図したのか……。
それはとりあえずいいとして、そろそろ遠征から帰投する時間ということに気づいているのだろうか?
373: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/25(水) 21:01:43.30 ID:8C3Q3Fqu0
荒潮「報告書を持って来ました~……って」
朝潮「あ、荒潮!?」
荒潮「………………あらあら、意外と侮れないのね」
朝潮「────────っ!」
朝潮「みんなには内緒で…………」
荒潮「さあ~?」
荒潮「あらー、埋めたら恥ずかしがってる顔が見えないじゃない」
朝潮「~~~~~~~っ!!」
荒潮「うふふふふふ♪」
荒潮(あとで青葉さんにでもリークしようかしら)
374: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/25(水) 21:04:45.61 ID:8C3Q3Fqu0
なぜか糖度控えめが連続してしまいましたが投下終了
五月雨ちゃんはきっと甘くなります、きっと……
それではこのあたりで
五月雨ちゃんはきっと甘くなります、きっと……
それではこのあたりで
376: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/26(木) 23:06:54.16 ID:JP/tGMU50
五月雨とほのぼの
377: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/26(木) 23:07:36.20 ID:JP/tGMU50
五月雨「えっと……提督?本当にこれで休憩できるんですか?逆に疲れたりしそうな…………」
提督「十分休憩できるし癒されるから問題ない」
五月雨「は、はぁ…………」
目と鼻の先には海のように青く長い髪。ほんのりと甘い良い香りが目の前にだけ広がっている。
椅子に腰かけて足を大きめに広げ、そこにできた隙間にちょこんと座る五月雨。ほんの出来心でお願いしてみたのだが、これが予想以上に効果抜群。いつもの休憩よりも癒されていた。
両腕を腹部へと回して軽く手を組むと、逃げられないことを悟ったのか諦めた様子でこちらに身を任せたようである。いくらか長めの足を床に届きそうで届かないような位置で遊ばせている。
五月雨「休憩が終わるまでですからね?」
提督「わかってるって。無理言ってるんだからそこは守るさ」
五月雨「む、無理なんてしてないです!」
提督「でも若干嫌がってなかったか?」
五月雨「嫌っていうかその、恥ずかしかったというか……」
提督「過去形だったら問題ないな」
五月雨「え、あ……もちろん今もですよ!?」
必死に弁明を続ける彼女を尻目に前で組んだ両手を少しこちらへ引き寄せると、意外にも素直に寄ってくる。まあその場に止まっていても苦しくなるだけなのだが。
そうして限界まで引き寄せ、先ほどより幾分か強めに抱きしめてみる。
五月雨「ふあっ…………」
提督「ごめん苦しかった?」
五月雨「ん…………大丈夫、です……♪」
提督「…………なんか楽しそうだな」
段々と苦しくはない程度に強くしていくと、その度になぜか心地良さそうな声が漏れる。抱きしめられるのが好きなのだろうか?強くするごとに引き寄せられてくる彼女の体躯は、今ではかなり密着できる位置にまで迫っていた。いったいどこまでいけるのだろう?
興味本位で限界点を探ろうと続けていた時、無情にも休憩が終わる時間になってしまった。
提督「付き合わせて悪かった。離すぞ」
続きはまた今度にしよう……。そう考えて大人しく組まれた手を離そうとするが、どうにも上手く離れない。温かみのある小さな手によって阻まれていたのだ。
提督「五月雨?休憩は終わるが……」
五月雨「も、もう少しだけ……。休憩が終わるまでっていうのは撤回で!」
五月雨「ダメですか…………?」
頭だけゆっくりと後ろへ倒すと、完全に上を向いた状態の彼女は俺の顔の前で純粋な目をしてそう発した。
目の前のつぶらな瞳は『続けろ』と訴えかける。時間ばかりが『仕事しろ』と訴えかけてくる。
どちらを優先するかなど考えるまでもなかった。
提督「で、今度はいつまでで?」
五月雨「提督が止めるまでです」
提督「じゃあずっとだな」
五月雨「はい!」
提督「……本当に当分止めないからな?」
378: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/26(木) 23:08:59.83 ID:JP/tGMU50
どうしても続きが浮かんでこなかったのでほのぼのしました。
ドジしない五月雨、いいと思います。
それではまた
ドジしない五月雨、いいと思います。
それではまた
382: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 00:25:34.88 ID:/Q/Nw+Ox0
時津風を放置
383: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 00:26:34.79 ID:/Q/Nw+Ox0
時津風「しれぇー」
時津風「……しれぇーーー!」
時津風「しれぇーってばー!ねー!」
手伝うという名目で遊びに来た時津風は最初からこの調子。反応すれば遊んで遊んでと急かされるだけの未来が見え透いている。
時津風「おーい聞こえてないの~?」
時津風「……ぅおーい!!」
提督「わかったから……。耳元で叫ばないでくれ」
時津風「むぅ……なんで無視するのさ!」
提督「用件が目に見えてるから」
時津風「今日は違うかもじゃん?じゃん??」
提督「…………じゃあ言ってみなさい」
隣というポジションから少しばかり離れて考え込む小動物的な少女。用件というのは今考えるものじゃないだろ、とツッコミを入れたくもなる。
考え込むときに「んーと」「えーと」などと声に出しながら頬に指を当てがう仕草は、彼女のトレードマークとも言えるものだった。
時津風「ん、よし!しれぇ、雪風っていま出撃してるでしょ?」
提督「してるな」
時津風「だから、あたしと遊べないでしょ?」
提督「……そうだな」
時津風「じゃあ司令でもいいかもね!いいかも!」
提督「よくないから……。てか結局いつもと同じという」
時津風「んー、今日はちょこっと違うかなー」
大回りをして右側へと回り込んでは動きの止まっていた右手を引きずり下ろし、自らがしゃがみこんでそれを頭に置く。撫でてほしいとでも言うのだろうか?
しばらくの間空いた左手で頬杖をついて様子を眺めていると、やがて彼女は持った手を両方の手で固定したまま、自分の頭を動かし始めた。
時津風「これなら司令はお仕事できるし、あたしは遊べる!」
提督「いや、仕事できないから。俺は右利きだから」
なるほど、と初めて気づいたような顔をする時津風。もちろん初めて気づいたなどというはずはない。意地でも遊んでもらおうと邪魔をするとき、彼女は決まって右手を封鎖するのだ。
用無しになったらしい右手を投げるように放すと素早く後ろから回り込み、今度は頬杖をついている左手を引きずり下ろす。施されることは右手のそれと大差ない。
時津風「左手ならいいでしょー」
提督「紙を抑えるのに使うんだが」
時津風「……いいのいいの!文句言わない!」
手伝うという名目はどこへ消えたのか問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。しかし彼女の「手伝う」という名目がこうなることももはや日常茶飯事なのだ、今さら咎めても遅すぎるだろう。
端的に言うと持たれてるだけだから左手くらいならなんとかなるはず……。プラス思考へと転じるのだが────────
時津風「しれぇ、やっぱり自分で動かすの疲れたー」
────────時津風にかかればそう上手くいくはずもないのであった。
384: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 00:28:22.77 ID:/Q/Nw+Ox0
浮かんでくる展開が多すぎて書き直しを繰り返してたら日を跨いでいました。時津風が可愛いのが悪い
それでは失礼します
それでは失礼します
389: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 22:48:21.62 ID:/Q/Nw+Ox0
比叡を放置(続き)
390: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 22:48:56.74 ID:/Q/Nw+Ox0
提督「…………なぁ比叡」
比叡「はい、なんですか?」
提督「本当にこんなんでいいのか?俺としては楽だし助かるんだけども」
比叡「私はこれがいいからお願いしてるんです!」
相変わらずキラキラと戦意高揚を示す状態な比叡は今日もMVP。これで実に出撃10回のうち7回も手中に収めている。間宮アイス恐るべしと言いたいところだが、キラキラを維持できているのは少なからず彼女の頑張りのおかげもある。
そんな比叡の「MVP獲得の特権」とも言える要望、もといご褒美タイムというのは極めて簡単。「一緒にゴロゴロして過ごす」というだけのものだった。
今日も勢いよく入っては来たが、几帳面な彼女は毎回忘れずにしっかりと閉めてくれる。今は二人でうつ伏せになり肘を畳につきながら、特に意味もなく並んでテレビを見ていた。
提督「それにしても艦娘って凄いよな。戦っても戦ってもMVPさえ獲れば戦意高揚を維持できるとか」
比叡「そりゃそうですよ、だって戦果を挙げて帰投するんですよ?」
提督「まあ確かに誇らしいだろうけどさ。でも疲れとかもあるだろうに」
比叡「…………これは私の場合ですけど」
意味ありげな言葉を発してから、持参したらしいスナック菓子を開封する比叡の手がなぜか止まった。体勢的に開け辛かったのか膝立ちになり、また少し考えてから難なく開封するとやがて元へ戻る。
比叡「私は、もっと別の理由があるんですよね」
提督「別の理由?」
比叡「たぶん他の子も同じ理由だったりするんじゃないかなぁ」
比叡「…………あ、どんな理由かは秘密ですよ?」
提督「そこ一番知りたいところ」
比叡「ダメですダメです!プライバシーに関わりますから!」
提督「そんな大層なことなのか……」
そう言って菓子を口へと放り込む様子は、喉元まで来ている言葉を抑え込むように見えなくもない。
あまり急いで時折喉に詰まらせて咳き込むものなので、無意識に背中へと手が伸びてしまうのだった。
提督「そんな急いで食べなくてもお菓子は逃げないから。大丈夫か?」
比叡「あ…………はいっ……!」
提督「…………ん、ごめん無意識にさすってた」
比叡「は、はい!比叡は大丈夫、ですっ」
なるほど大丈夫ではなさそうだ、意識せず妹の口調になっている。
ゆっくりと手を離して例の体勢に戻り、極力何もなかったように振る舞っては彼女の様子を見ていた。懲りずに貪るようにしてスナック菓子を放り込む姿が目に映る。さっきより勢いが増しただろうか?
付けっぱなしのテレビから流れる音とスナックをかじる音が生み出す絶妙な不協和音は、微妙に開いたドアの隙間を通してきっと外へと漏れ出してしまっているのだろう。
391: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 22:49:42.93 ID:/Q/Nw+Ox0
提督「で、結局何が理由なんだ?」
比叡「言えるわけないじゃないですか」
提督「ぶれないなぁ」
比叡「当たり前です!司令とこうして過ごしたいがために頑張ってるなんて口が裂けても──────」
提督「…………お?」
比叡「無し無し!今のは違いますってばー!」
金剛(…………………………)
榛名(…………………………)
霧島(…………………………)
(((なるほど)))
392: ◆p5cDRlL7.w 2015/02/28(土) 22:50:18.00 ID:/Q/Nw+Ox0
投下終了です
失礼します
失礼します
395: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/02(月) 00:37:31.80 ID:p/OOhSKU0
舞風を放置(続き)
396: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/02(月) 00:38:34.71 ID:p/OOhSKU0
提督「──────舞風、さすがに長い」
舞風「えー?もう少しくらい大丈夫だって」
提督「かれこれ一時間経ってるんだが」
舞風「……まあなんとかなるでしょうっ!」
組んだ足に舞風が飛び込み休憩を始めてから一時間。彼女はまだ動こうとしない。
提督「そんな疲れたのか?」
舞風「うん、まあ…………うん」
提督「はぁ……。じゃあお前はもう少し休んでていいから」
舞風「ほんとに!?ありがとうございまーす!」
提督「だからせめて立ち上がらせてくれ」
舞風「…………しょうがないなー」
どっちの台詞だ
言う前に彼女は立ち退いた。実に仕方なさそうなのはご愛嬌。やけにニコニコしている彼女の横を通って作業へと戻る。
そこで一度伸びをして椅子を引き、腰を下ろそうとしたときだった。
舞風「じゃ、休憩再開しまーすっ」
机との間に隙間があるうちに、と言わんばかりの勢いで再び膝へと舞い戻る。本当に油断ができない。
それどころか今回は向かい合うような形になっている。誰か入って来ようものなら間違いなく誤解される体勢だろう。絵面的にまずい、その他諸々非常にまずい。
提督「……舞風、仕事できない」
舞風「こうしないと私は休憩できない」
提督「他にも何か方法はあるだろ」
舞風「ない!」
提督「………………」
堂々巡り、どうしようもない。無理に下ろすのも可哀想で気が引けてしまう。
それを見て勝利を確信したのか、リラックスした舞風は顔を完全に埋めて心地良さげな態度をとっている。
少しくらい強気に言わないと聞いてくれないだろう。それを実行しようとするのだが──────
舞風「提督暖かいねー」
提督「埋まったまま喋るのやめてくれ、くすぐったい」
提督「てかもう少し他の方法を見出そうとしてくれよ」
舞風「だってこれが一番楽なんだもん!だからもう少しだけここで休憩…………」
舞風「…………いいですか?」
──────やはりこのギャップにはどうにも勝てそうにない。
397: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/02(月) 00:41:15.03 ID:p/OOhSKU0
保存する前にソフトが謎の強制終了起こして遅れました、申し訳ない……
こんな>>1ですが今月もどうぞよろしくお願いいたします。
それではまた
こんな>>1ですが今月もどうぞよろしくお願いいたします。
それではまた
401: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/02(月) 10:37:11.47 ID:p/OOhSKU0
那智さんが急に乙女になったり、瑞鶴が突然しおらしくなったり、二人だけの時に限って加賀さんが自然に笑うようになったり……
ギャップとは素晴らしいものであります。無表情で恥ずかしがるヴェルちゃんを撫でてあげたい
ギャップとは素晴らしいものであります。無表情で恥ずかしがるヴェルちゃんを撫でてあげたい
404: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 00:31:01.72 ID:HseRXaPP0
瑞鶴がおもらしすることでのギャップ萌えとはいったい
榛名さん投下します。地の文比率は少なめかもしれません
榛名さん投下します。地の文比率は少なめかもしれません
405: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 00:31:29.60 ID:HseRXaPP0
榛名を放置(続き)
406: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 00:32:10.24 ID:HseRXaPP0
提督「今日は色々付き合わせてごめんな」
榛名「そんな、榛名も楽しかったです!」
提督「それなら良かったけど」
買出しでの帰り道。
日が暮れ始めているような時間まで付き合わせてしまった。特有の風が露出した箇所に吹き付け肌寒い。
提督「てか飲み物の容器捨てなくていいのか?邪魔になるだけだろうに」
榛名「提督が買ってくれたんですよ?もちろん取っておきます!」
提督「なんだそりゃ」
榛名「ふふ♪あ、でも…………」
榛名「できれば温かいものが良かったですね」
提督「あー……この時間は寒くなるしな。悪かった」
軽く苦笑いを浮かべる榛名の手には、さっきまでは俺も握っていたサイダーの容器。貼られたラベルには青い淵に囲まれて白抜きになっている「つめたい」の文字。中身は飲み干されている。
特に意識もせずに自分と同じものを買ってしまったが本人の意見を聞くことを忘れていた。
それでも文句ひとつ言わずに嬉しそうに受け取っていたものの、今考えるとあれこそ榛名の性格そのものだっただろう。
提督「なんならあそこで温かいもの買うか?」
榛名「そ、そんな……。いいのでしょうか……」
提督「いいのいいの、こっちのミスで買い急いだんだし。何か飲みたいものある?」
榛名「…………ホットカルピスってありますか?」
提督「んー……コンビニならあるかな。見てくるよ」
あまり待たせぬよう、冷え込まないうちにと歩を進めだす。そう遠い位置ではなかった。
榛名「──────提督!」
提督「っと、どうした?」
左の袖を引かれるような感覚に立ち止まると、その先にあったのは長く綺麗な指。寒さからか震えている。袖を掴んだまま、彼女は顔を真っ赤にして下を向く。
榛名「寒いのは少し苦手です……」
提督「…………じゃあ一緒に行くか」
榛名「…………!はい!」
返事と同時に腕同士が絡み合い、体同士が密着される。歩きにくいというのは否めないが悪い気はしない。
再び遠くはない目的地へと歩を進めるのだった。
407: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 00:32:47.61 ID:HseRXaPP0
提督「ところでホットカルピスとかよく知ってるんだな」
榛名「以前頂いた提督のホットカルピスが美味しかったのでつい……」
提督「あー、そういえば作ったっけ」
榛名「でも、市販の物より提督が作る方が榛名は好きです」
提督「あれならいつでも作ってあげるさ」
榛名「約束ですよ?」
408: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 00:33:45.17 ID:HseRXaPP0
投下終了
失礼いたします
失礼いたします
413: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 16:22:32.60 ID:HseRXaPP0
提督のホットカルピス(製造過程は非公開)
415: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 22:36:59.89 ID:HseRXaPP0
提督のホットカルピスって言っただけなのに何を想像したんですかね(すっとぼけ)
北上さんはもう少々お待ちください。
今日は日を跨ぐ前に投下できそうです
北上さんはもう少々お待ちください。
今日は日を跨ぐ前に投下できそうです
416: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 23:30:39.03 ID:HseRXaPP0
北上を放置
417: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 23:31:38.43 ID:HseRXaPP0
提督「………………北上」
北上「どうしたのー?」
提督「何をしてる」
北上「んー、あすなろ抱き?」
風呂上がりの北上は袖にフリルの付いた薄いピンク色のパジャマに着替えて後ろから抱きついている。
首に回された両手の袖をたくしあげているが故に露呈している手首には、仄かに甘い香りの漂うヘアゴム。きっといつもの三つ編みではなく、意外に長い髪を下ろしているのだろう。振り向くことができないのが惜しい。
提督「それはわかるんだよ。動機がわからん」
北上「動機ねぇ……。なんかこう、肩が凝るよねー肩が。まだあたし若いんだけどねぇ」
提督「それとこれは関係があるのか?」
北上「この体勢が楽なんだよねー」
北上「そんな時に床にちょうどいい提督が転がってるとかさ、もう覆いかぶさるしかないわけじゃん?」
ちょうどいい提督とは何か。ちょうど良くない提督もいるのだろうか?
しかし考えるだけ無駄だ。彼女は突飛な言動を取ることもあるが、それは総じて自分の世界に入っている時に起こる。本人以外に理解できないような、それこそ大井ですら憶測の域を抜けないらしい世界だ、俺がわかるはずもない。
畳の上に胡坐を組んだ、『ちょうどいい提督』に抱きついた北上はどういうわけかご機嫌だ。
縦、横、斜めと縦横無尽に揺さぶってみたり、大きく円を描くように揺すってみたり、頬を背中に擦り付けてみたり……。
なされるがまま、とはこの状況を言うのだろう。
北上「でもなんでこんなに凝るんだろうねー?やっぱ魚雷がちょっと重いんかねぇ」
提督「いや、俺に相談されても重さがわからないし」
北上「むぅ……背負ってみる?」
提督「…………やめときます」
北上「まあー提督は今あたしを背負ってるみたいなもんだしねー」
提督「背負わせたのは誰だよ」
北上「ふふーん♪誰でしょう」
明らかにわざとらしい口調で棒読みしたかと思えば右に体重移動を始め、容易にバランスを崩した俺と二人そろって綺麗に畳へとなだれ込む。
北上「いいねぇ、痺れるねぇ」
提督「俺はお前の抱き枕じゃないぞ」
北上「まあまあ、いいじゃないですか。こうするとなんか安心する」
提督「抱き枕でも買いなさい」
北上「もう、わかってないなー」
北上「わざわざ『ちょうどいい提督が~』って言ったのに、抱き枕じゃ意味ないっていうか?」
腕の位置を少し下げたうえにそこで締めを強くし、さらに足も絡ませてきては固定されてしまった。反撃しようにも背後を取られているのではどうしようもない。
万事休す、どうやら選択肢はひとつしかないようである。
提督「…………好きにしろ」
北上「はい、待ってましたー♪」
418: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/03(火) 23:35:10.46 ID:HseRXaPP0
投下終了
放置ボイス(放置するとは言ってない)
そういえば発見できずに放置されてきた戦艦武蔵が見つかったとかなんとか。感慨深いものですね
それでは今日はこのあたりで
放置ボイス(放置するとは言ってない)
そういえば発見できずに放置されてきた戦艦武蔵が見つかったとかなんとか。感慨深いものですね
それでは今日はこのあたりで
423: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/04(水) 23:29:46.19 ID:h1PMnWwQ0
大和を放置(続き)
424: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/04(水) 23:30:19.49 ID:h1PMnWwQ0
何気なく置いた左手の上には、色白で可憐な右手。
少々熱を帯びているようにすら感じるその右手は早い鼓動で脈打っている。
大和「あの……お気づきになりませんか?」
提督「気づくというと?」
大和「その…………」
視線は一切動かすことなく口ごもるが、机に置いた左手はキュッと握られた。ふと見上げてみると何かを訴えるような目をして口を真一文字に結んだ大和の顔がある。
提督「手のことならさすがに気づいてるが」
大和「じ、じゃあ何か反応してください!」
提督「いや、左手だったから邪魔にはならないしいいかなって」
大和「お邪魔をするのは気が引けたので……」
提督「はは、実にお前らしいな」
それを聞くと軽く不機嫌そうな口調で「もうっ」とだけ答え頬をわざとらしく膨らせる大和。戦艦娘らしからぬあどけなさである。
それが終わると再び手を握る動作に入るが、今度は少し違うようだ。
親指と人差し指を巧みに使って、こちらの小指と薬指の間に隙間を作る。するとすかさず彼女の人差し指が潜り込んでくる。そんなことを地道に全ての指に施し、気づいた時には上から手が組まれているような状態。
僅かに手を浮かせると潜り込ませた指はそのまま机と手の間に折り曲げ、そこで初めて手が握られた。
大和「提督、何かお手伝いできることはありませんか?」
提督「そうだなぁ……」
大和「あ、このままでもできる範囲でお願いしますね?」
提督「………………おい」
この状態のままできることなど本当に限られてしまう。移動可能な範囲が狭すぎるのだ。
しかしそれでも何かないかと考え込んでしまう自分もいる。とても本人には言えないが、この状況が続いてほしかったのだった。
提督「じゃあ書いた書類の確認でもお願いしようか」
大和「あら、本当にこの範囲でもできるのですね。私は動いてもいいんですよ?」
大和「────────移動する場合は、手を繋いだまま提督も移動しますけど」
提督「…………このままで頼みます」
大和「わかりました。ふふっ……♪」
ひとつ大きく深呼吸をすると、丁寧に作業にかかり始める彼女の左手。手つきが慣れないのは利き手ではないからか、または秘書という仕事に慣れていないからというのもあるだろう。
そんな左手はそっちのけで時折強く握り返してくる右手はというと、先ほどよりもバクバクと脈打っている。
この鼓動は大和か俺か、はたまた両方か────────
この謎が解ける時は恐らく来ないのだろう。
425: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/04(水) 23:33:15.54 ID:h1PMnWwQ0
投下終了
5-5で3連続大破で撤退の要因になったって、それでもぼくは大和さんが好きです。なぜなら可愛いから
それではまた
5-5で3連続大破で撤退の要因になったって、それでもぼくは大和さんが好きです。なぜなら可愛いから
それではまた
428: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/05(木) 23:59:24.34 ID:A0w0cNys0
夕雲を放置
429: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/05(木) 23:59:55.35 ID:A0w0cNys0
夕雲「──────あ、お帰りなさい」
提督「ん…………ただいま」
部屋に入ったとき目に飛び込んできたのは、本棚の前で振り返って笑顔で挨拶をする夕雲。出る時にはなかった姿だ。
夕雲「あら?今日は『なんでいるんだ』とか言わないんですか?」
提督「そう言われてもな……。気分的にってか」
夕雲「…………提督、お疲れなの?」
提督「…………まあ少し」
夕雲「やっぱり。夕雲は心配だわ……」
なぜか納得している様子の彼女の横を素通りし、崩れるようにソファへと腰を掛けるとそれに続いて彼女も隣へ腰掛けた。
いつものような緑色の長い髪を前へ持ってきて指で弄りながら、顔は真っ直ぐと、心配そうな眼差しでこちらへと向いている。
夕雲「大丈夫ですか?」
提督「ありがとう。でもそんな大した疲れじゃないしな」
夕雲「でも…………」
夕雲「…………!」
何か思いついたのかパチンと一回手を叩き、急に立ち上がると布団のある方向へと移動を始めた。間違いなく布団を敷く流れだろう。
提督「布団敷く程度の元気はあるから大丈夫だぞ」
夕雲「まあまあ、提督はもう少しだけそこでお休みになって?」
せっせと持ってきたかと思えば瞬く間に綺麗に敷かれ、その上に夕雲は迷わず膝を折って座る。長い髪を巻き込まぬように正座した夕雲は微笑みながら両膝をポンポンと叩いている。そうして誘導するように、自らの膝と俺の顔を交互に見ることを繰り返していた。
……どうやらただ布団を敷いてくれただけではなさそうだ。
夕雲「提督?こちらへ移動できますか?」
提督「いや、でも」
夕雲「できなくても夕雲がお連れしますね」
まさか駆逐艦娘に膝枕をしてもらうなど────────
そんな後ろめたい気持ちも、吸い込まれるようにして頭を預けた程よく柔らかい感触によって、跡形もなく消え去っていった。
430: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/06(金) 00:00:28.36 ID:Ef4LgCKn0
夕雲「少しは疲れが取れましたか?」
提督「少しどころか全部どっか飛んでった」
夕雲「まあ、大袈裟ですね。ふふっ……」
硬すぎず柔らかすぎず……。
どこに顔を転がしてもそんな感触が吸い付いてくるこの膝、というよりは太ももにおいては決して大袈裟ではない。本当に疲れなどどこかへ行ってしまったのだ。
そっと置かれた彼女の手が、頭で万遍なく動かされるのも心地いい。
夕雲「提督もたまにはこうしてお休みになってくださいね?」
提督「さすがにこんなこと頻繁にしてられないわな」
夕雲「あら、私ならいつでも大丈夫ですよ?」
提督「そんなことできるわけ────」
夕雲「提督」
そう何度も膝枕をしてもらうなど面映ゆいったらありゃしない。
そんな言葉を遮るかのように、夕雲は息がかかる程の距離まで顔を近づけて前のめりになっている。
夕雲「私にならもっと甘えてくれても──────」
夕雲「いいんですよ?」
疲れ、プライド、理性
耳元で囁かれた声によって、その全てが完膚無きまでに消え去っていった。
431: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/06(金) 00:00:59.77 ID:Ef4LgCKn0
投下終了
失礼します
失礼します
437: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/06(金) 09:39:28.66 ID:Ef4LgCKn0
甘えさせてくれる駆逐艦、最高です。夕雲姉さんに甘えたい
リクエストは今の分の消化が終わり次第また取るので、その時にしていただけると対応できるかと思います
リクエストは今の分の消化が終わり次第また取るので、その時にしていただけると対応できるかと思います
439: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/07(土) 00:46:37.58 ID:XQ+5YMmR0
望月を放置(続き)
440: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/07(土) 00:47:31.59 ID:XQ+5YMmR0
望月「…………っあぁ~」
提督「おはよう」
俺の肩を枕代わりに微睡に落ちていた望月が目を擦る。相変わらずの包み込むような柔らかい日差しが縁側に差し込んでは暖め、寝るには申し分ない環境を演出している。
そんな環境でぐっすりと寝入った彼女は長い時間そのままかと思ったが、案外早いお目覚めのようだった。
望月「ん……ああ司令官。ずっとそうしてたわけ?」
提督「言う通りボーっとしてただけだ」
望月「べつに、真に受けなくていいのに」
提督「…………動いたらお前が起きそうだったしな」
望月「あ、気にしてくれた?へぇ……」
提督「反応に困る反応だな」
望月「まあいいじゃん」
寝て起きたら適当な性格が直っていた……なんて上手い話はない。彼女の場合はこれでいい気もするが──────
まだ幼く、投げ出しても地面に到達することのない両足に反動をつけて跳ね上げ、宙に上がっている間に起用に腰を回転させて両足を上へと移動する。なぜこんなにも疲れそうな行為は自ら選択するのだろう?
首はこちらに預けたままのその様子を眺めながら考えてみたが結論はひとつ。『望月という子はこういう性格』というところに辿り着く以外なかった。
望月「なんかこう、結局は起きちゃったわけだけどさ」
望月「まだ眠いわけじゃん?」
提督「まだ眠いのかよ」
望月「うん、まあね」
肩で頭を左右にゴロゴロと往復させながら転がされる感覚がくすぐったい。ふと頭が離れたかと思えば、突然立ち上がって歩き出した彼女はどこか嬉しそうにしている。何かを探している様子で部屋を行き来して、やがて手に細い棒状のものを持って戻って来た。そうしてさも当たり前とでも言うように膝へと雪崩れ込んで来ている。
提督「これは?」
望月「そりゃまあ、耳かきっしょ」
手渡された耳かき
膝の上で顔を横に向けている姿勢
考え得る状況は絞られるだろう。
望月「いやー、面倒臭くて最近やってなくてさ」
望月「でも今は寝たいじゃん?でも耳かきもまあしたいわけで」
望月「しかし!あたしは寝ながら耳かきもできる方法が──────」
望月「あるよね?」
少しニヤッとしてから目を伏せる望月。間違いない、絶対にこのまま寝るつもりだ。俺に耳かきをさせている間に自分は寝てしまおうという魂胆だろう。どうにかしてこれを回避できないものか……。
膝の上では「早く早く」と急かす声。
それに負けて、軽く溜め息を吐いてから彼女の望み通りの状況を作り出してしまうのだった。
441: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/07(土) 00:50:24.59 ID:XQ+5YMmR0
耳かきをしてあげたい艦娘No.1望月(当社調べ)
遅くなりましたが失礼します
遅くなりましたが失礼します
445: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/07(土) 23:52:48.60 ID:XQ+5YMmR0
天津風を放置(続き)
446: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/07(土) 23:53:36.82 ID:XQ+5YMmR0
提督「あれ、開いてる……?」
気まぐれで向かった工廠から戻ってくると、すっかり夜と呼べる午後7時。閉めたはずのドアから明かりが漏れているかと思えば開いていて、敷いた覚えのない布団が部屋のほぼど真ん中に敷かれていた。
さらにその布団の真ん中には丸く縮こまって寝ている少女。恐らく駆逐艦娘だろう。
すらっと長い脚には赤を基調とした長い靴下、そして白色をした綺麗なロングヘアには赤と白の吹流し──────
紛れもなく先程まで話していた天津風だ。
提督「しかしなぜここに」
提督「…………あまり深く考えるのはやめよう」
寒いのでドアを閉めてから彼女の様子を窺う。完全に夢の中のようだった。
提督「天津風も疲れてるんだろうな」
提督「かと言ってここで寝られるのも良くない。しかし起こしてまで連れ戻すのも気が引ける」
提督「陽炎あたりに頼んで……ってあいつ平気で起こしそうだしなぁ」
提督「島風も起こす未来しか見えないし……」
寝ている他人を起こさずにその場から移動させるというのはなかなかに大変なことだ。天津風も決して小さいわけではない。
どうしたものかと考え込むこちらの姿は露知らず、彼女はすやすやと寝息を立てている。これを聞かされてしまうと『動かすなど愚行だ』と責め立てられているような錯覚に陥ってしまう。
どうにかしていい案が降ってはこないかと思考を張り巡らせていると、不意に寝返りを打って真上を向き、顔の前で組まれていた手を宙へと伸ばす彼女の姿が目に入った。
天津風「……あなた、どこ…………?」
提督「いったいどんな夢なんだ……」
天津風の『あなた』というのは大抵の場合俺のこと。つい数分前まではこの独特な雰囲気に浸っていたので間違いはない。顔をしかめては不安げな表情で手を動かし何度も呼ぶものなので、つい落ち着きのない両手の間に自分の手を持って行ってしまった。
そうして手を掴んだ天津風は形を確かめるように撫でたり押したりし、やがて俺のものだと確信をしたのか表情が綻んだ。実は起きてると言われても驚かないような、むしろ寝ながらにしては少し不気味ともいえるような行為である。
天津風「ふふ…………よかった……ぁ♪」
小さな両の手と共にゆっくりと胸のほうへと引き寄せられた掴まれた右手は、再び寝返って横を向いた天津風の動きと同時に顔の前へと移動する。
それと同時に自然の理に任せて隣へと寝転がる。簡単に言うと引っ張られているのできっとごく自然なことだろう。
提督「なんか知らないけど良かった良かった」
提督「でもこれ動けないよなぁ……」
天津風「……………………♪」
言葉を言い終わったあたりで握り方を強くする天津風。やはり起きてるのではないだろうか?だがそれを否定するかのような静かな寝息も同時に聞こえてくる。
動けないのか、動かないのか
聞かれると自信をもって答えられる気がしない。ただ一つ言えることは──────
天津風「データを取ったり色々と……大変なんだ……か、ら…………」
ここから動かそうなどという考えは微塵もなくなったということだろう。
447: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/07(土) 23:54:44.79 ID:XQ+5YMmR0
なんとか日を跨ぐ前に投下終了
失礼します
失礼します
450: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/08(日) 11:14:12.07 ID:9OqJwJen0
ぐぬぬ
ユーの場合は不安そうな感じの残る改造前、少し心を開きかけてる改造後、打ち解けちゃってもはや別人の呂500で全部放置ボイスが違うことに気が付いてしまいました。どれも捨てがたい……
リクエスト的には「改造前のU-511」ということで解釈をしていますが、みなさんはどの段階のユーまたはろーちゃんが見たいですか?
ユーの場合は不安そうな感じの残る改造前、少し心を開きかけてる改造後、打ち解けちゃってもはや別人の呂500で全部放置ボイスが違うことに気が付いてしまいました。どれも捨てがたい……
リクエスト的には「改造前のU-511」ということで解釈をしていますが、みなさんはどの段階のユーまたはろーちゃんが見たいですか?
453: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/08(日) 11:59:13.60 ID:9OqJwJen0
了解です。改造前のU-511ということで書かせていただきます
それでは後ほど
それでは後ほど
454: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/08(日) 23:55:57.36 ID:9OqJwJen0
U-511を放置
455: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/08(日) 23:57:10.48 ID:9OqJwJen0
ユー「あ、あの……!これ……」
提督「ん、もうできたのか?早いな」
彼女は潜水艦娘U-511
比較的最近に着任してきた子であり、まだ練度は高くない。そしてもちろん秘書というのも初めてである。
任せた書類はついさっき頼んだように思うのだが仕上げるのがかなり早い。恐る恐るという言葉がぴったりな手からそれを受け取ると、丁寧な文字が綺麗に羅列していた。
あとになって直すのが面倒というのもあったので見落としの無いようにと確認をしていると、その顔が少し怖かったのだろうか?目の前の少女の口が不安げに言葉を発する。
ユー「ユー、なんか間違えたかな……大丈夫かな……」
提督「どっか違ってても怒らないさ。秘書なんて初めてなんだし」
ユー「でも間違ってたら直すの大変だって、でちの子から教わった」
提督「でちの子って……ゴーヤのことか?」
提督「まあ今ここで気づけば大事にはならないし、そんな心配しなくて大丈夫」
ユー「…………わかった」
言葉とは裏腹に目を伏せてしまうあたりよっぽどの心配性なのだろう。加えて執拗に時計を見てみたり、手を組ませては離してみたりと落ち着かない様子も垣間見える。
そうこうしているうちに確認も終了。ここまで読みやすいと非常に助かるものだ。プレッシャーを与えるようなことをいきなり吹き込んだゴーヤに見習ってもらいたい。
提督「ユー、ちょっとおいで」
いきなり名前を呼ばれたものだから驚いたのか、一瞬だけ肩から上が震えたように見える。一拍おいてから、やはり恐る恐るという感じで歩き出し、そこまで距離はないのだがすぐ隣まで来て立ち止まった。やけに書類を気にする仕草をするあたり間違いがあったかと心配でもしているのだろう。
ユー「不安……。ちゃんとできてる、かな……」
ユー「────────ひゃっ!?」
確認の結果ミスは皆無。労いの意味でまだ俯いている頭に手を置いてみたのだが驚かれてしまった。
提督「ごめんごめん、頑張ってくれたから褒めようと思ったんだ」
ユー「どこも間違ってなかった?」
提督「完璧だったな。ありがとう」
そこでやっと安心したのか今日初めて表情を緩ませている。いくらかこちらに近寄っただろうか?いまだ硬さの残るような子なので、今度は少々驚かされる側になってしまった。
ユー「あの……撫でられるの少し痛い、かもです」
提督「ん、少し強かったか。ごめん」
ユー「あ、止めないで!」
ユー「優しくならたぶん気持ちいい…………」
ユー「へへ…………♪」
456: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/08(日) 23:59:24.16 ID:9OqJwJen0
投下終了
結局どの段階で書いてもそれぞれ可愛いんですね(ほっこり)
それでは今日はこのあたりで
結局どの段階で書いてもそれぞれ可愛いんですね(ほっこり)
それでは今日はこのあたりで
458: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 17:47:33.19 ID:LhuDQp9w0
今日は二人書けそうなので投下。雷ちゃんは夜に投下します
とりあえず漣ちゃんをば
とりあえず漣ちゃんをば
459: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 17:48:00.20 ID:LhuDQp9w0
漣を放置
460: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 17:48:54.27 ID:LhuDQp9w0
漣「…………………………」
提督「んで、次はこっちか。えっと……………………」
漣「………………ご主人様?」
開け放たれた窓から吹き込むのは心地良い風
鼻をつくのは塩辛い海のにおい
聞こえてくるのはペンと紙の擦れる音──────
漣と二人で過ごしているこの空間。凭れ掛かっていたソファから体を離し、変にニコニコしながら歩み寄って来た。真後ろまで来たが特にアクションを起こすようなこともして来ないために平静を保っていたのだが、彼女の顔が左の肩へ乗せられたことによってそれが崩れ去る。
漣「漣、ちょっと暇かも……。構ってもいいよ~?」
漣「って、無視かよ!」
提督「待て待て、無視も何も反応する時間をくれよ」
漣「は、恥ずかしいんですよ!」
提督「じゃあ無理にそんなことしなくても……」
少し手を休めて返答しようと思ったものの後の祭り、間髪を入れずに『無視された』と判断したらしい。しかも間を置かなかった理由が『恥ずかしいから』
おまけに恥ずかしいとは言うが漣が顔を隠しているのは他でもなく俺の背中だ。なんたる矛盾
漣「…………ご主人様、少し休憩しません?」
提督「お前はさっきから休みっぱなしだろ」
漣「し、失礼な!漣がせっかくご主人様の疲れを見抜いて休もうって言ってあげてるのにー」
提督「…………そっちサイドに引き込みたいだけだろ」
漣「ギクッ」
提督「声に出てるぞ」
提督「はぁ……まあいいや、残り少ないし」
背中にくっついたまま何か小さく呟くと、勢いよく飛び出していき再びソファに腰掛けている。とんでもない早業だ。
ここに座れ、というようにソファを叩く右手。それに従うと待ちかねたように左肩にまたも重みが圧し掛かる。
圧し掛かった小さな頭はやがてゆっくりと動き出し、すりすりと擦り付けるような動作をしだす。
「構う」と言ってもこちらは特にすることはなく、本当にただ座っているだけ。あとは彼女のいいようにされるというのがお決まりだった。その行動は日によって気まぐれだが、どうやら今日は甘えたいだけのようだ。
提督「この時だけは猫みたいだよな」
漣「はにゃ?」
提督「…………ほんと猫にしか思えないからやめてくれ」
漣「猫になればこうしてていいんですか?じゃあもう猫でいいです」
突然肩から滑らせて膝のほうへと移動すると、そこでまた猫の如く例によって動き出す。『猫だから許される』などと意味の分からないことを呪文のように連呼しながら擦り付けてくる。彼女のルーティンワークにもう一つ、行動パターンが追加された瞬間だった。
漣「猫だから許される、猫だから許される…………にゃ」
提督「最後のは色々とアウト」
漣「あ、この語尾はダメ?あぁ、そう……」
461: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 17:51:56.50 ID:LhuDQp9w0
うちの漣ちゃんは初期艦であり嫁艦
リクエストしていただいた方、本当にありがとうございます。色々と捗ります
雷ちゃんの投下でリクエスト分が切れるので、夜に投下した後また追加で数名受け付けようと思います。
それではまた後ほど
リクエストしていただいた方、本当にありがとうございます。色々と捗ります
雷ちゃんの投下でリクエスト分が切れるので、夜に投下した後また追加で数名受け付けようと思います。
それではまた後ほど
463: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 23:35:55.81 ID:LhuDQp9w0
天使じゃない漣ちゃんなど存在するのか?いや、しない(反語)
したとすればそれは漣ちゃんに似た何かです。
雷を投下ー
したとすればそれは漣ちゃんに似た何かです。
雷を投下ー
464: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 23:36:24.84 ID:LhuDQp9w0
雷を放置
465: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 23:37:27.62 ID:LhuDQp9w0
雷「司令官、お疲れさま!」
提督「ん、ありがとう」
雷「ちゃんと休むのよ?」
提督「今日はもう終わったから休もうと思ってるよ」
雷「そう。じゃあよかった!」
その日の予定をこなし寛いでいると秘書の雷が労いにやってきてくれた。本人も多少なりとも疲れているはずなのだが、元気で健気な姿を見るだけでもう癒されてしまう。
提督「今日はありがとな。もう戻っていいぞ」
雷「えっと、特にやることはないの?」
提督「ああ、雷が頑張ってくれたからな」
雷「そ、そう?司令官のためだからね」
なぜか腑に落ちないような態度を取る雷。
ブツブツと言いながら考え事をしているようで、あちらこちらへと歩き回っている。
提督「雷?もう戻っても大丈夫だぞ」
雷「んー…………もっと私に頼っていいのよ?」
提督「気持ちはありがたいけど、もう今日はやることないわけで」
雷「じゃあ司令官のお世話するわ!喉は乾いてない?」
提督「さっきお茶をもらったばっかりだろ」
雷「あ、それもそうね……」
机にはつい先ほど持ってきてくれたお茶の入っていたコップが無造作に置かれている。こんな具合で二時間おきくらいに何かしらを持ってきてくれたものなので、そうそう喉が渇くということは起きるはずもない。面倒見のいい雷からすれば当たり前すぎて忘れていたのだろうか?
持ってきたそれを回収する彼女の表情は、いまだ腑に落ちていない様子だ。
手に持ったコップと俺の顔を交互に見比べては首を傾げ、何かやることはないかと案を並べそれを自ら掻き消すことを繰り返している。
果たして何が原因なのか…………。遡ってみるとある可能性に行き着く。
提督「そうだ雷、お願いがあるんだけど」
雷「やっぱり何かあったのね?」
提督「まあ今すぐやることじゃないんだけどな」
提督「明日も秘書官、頼めるか?」
雷「────────っ!」
雷「当ったり前じゃないっ♪」
特に楽というわけではないこの任、なぜか彼女は好んでこなしてくれる。ついでに好きなだけだはなく手際もいいのでとても助かっているものである。
やっと腑に落ちたらしい雷は反転し、鼻歌を歌いながら部屋を後にした。しかし数時間後、彼女はまた機嫌よく舞い戻ってくるのだと考えると、どうしてか待ちきれなくなってしまうのだった。
466: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 23:38:12.89 ID:LhuDQp9w0
投下終了
467: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 23:40:24.23 ID:LhuDQp9w0
おっと、ミス送信すみません……
仕切り直して
ということで消化しきったので追加でリクを
このレスから10人の早い者勝ち方式ですが、10人のうちでコンマがゾロ目の方が出たら枠が1つずつ増えます。増えた枠の方がゾロ目だったりしたらまたも増えます
番外は含めずに続きを書いた子以外なら誰でも構いません
それでは、どうぞよろしくお願いいたします
仕切り直して
ということで消化しきったので追加でリクを
このレスから10人の早い者勝ち方式ですが、10人のうちでコンマがゾロ目の方が出たら枠が1つずつ増えます。増えた枠の方がゾロ目だったりしたらまたも増えます
番外は含めずに続きを書いた子以外なら誰でも構いません
それでは、どうぞよろしくお願いいたします
479: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/09(月) 23:51:56.30 ID:LhuDQp9w0
コンマゾロ目の方はいなかったので三隈から朧までで了解です
それにしても安価埋まるの早すぎィ!
それでは失礼します
それにしても安価埋まるの早すぎィ!
それでは失礼します
482: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 00:11:31.86 ID:ws5debWN0
ぎ り ぎ り で ま に あ わ な か っ た
日を跨いでしまいましたが三隈投下ー
熊野ほどではないですがお嬢様口調ですね、最高です。くまりんこ
日を跨いでしまいましたが三隈投下ー
熊野ほどではないですがお嬢様口調ですね、最高です。くまりんこ
483: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 00:11:59.57 ID:ws5debWN0
三隈を放置
484: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 00:12:29.86 ID:ws5debWN0
提督「ちょっと間宮さんとこ行ってくるけど、なんか欲しいものあるか?」
三隈「間宮さんですか?」
三隈「提督は何をお求めになるの?」
提督「ん、俺は甘いもの食べたいから羊羹を」
三隈「羊羹、ですか……」
三隈「じゃあ私は────────」
485: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 00:13:13.99 ID:ws5debWN0
三隈「少し遅いのではなくて?」
ふと時計を見ると部屋を後にしてから約15分。留守番をしていた三隈は首を長くして待っていたようだ。
提督「そうか?普通くらいだと思うけど」
三隈「提督ったら……三隈、忘れられたかと思いましたわ」
提督「…………さすがに大袈裟だろ」
三隈「…………少し大袈裟に言ってみました」
少し舌を出しておどけて見せるこの姿は、着任したての改造前では見られなかったものだろう。彼女の改造前というと最上にベッタリであり、まさか自分からこの部屋へ訪れるなどというのはなかったことだ。もっとも理由という理由はなく、他の艦娘と同じで「遊びに来ただけ」というのが大半のことなのではあるが……。
ふと本来の目的である羊羹を紙袋から取り出すと、彼女の目はこちらの手にあるそれへと釘付けになった。
三隈「まあ、美味しそうな羊羹。間宮さんの羊羹は私も大好きですわ」
提督「美味しそうってか本当に美味しいからな」
提督「てか俺と全く同じもので良かったのか?」
三隈「もちろん、提督と同じものを食べるんですから」
提督「……変な奴だな」
三隈「それは褒め言葉ということでよろしくって?」
提督「なぜそうなる」
弄んでいるかのようにクスッと笑い、一直線に俺の椅子へと向かうと迷うこともなくその椅子へと腰を下ろす。座る場所を失った身として仕方なく別の椅子に腰掛けようとすると、椅子を占領した三隈が無言で手招いている。
負けてたまるか。
謎の対抗意識に燃やされた俺は終始無言で移動し、手招く隣で立ち止まった。すると招くのを止め満面の笑みで差し出す行為に変わる三隈の手──────
勝手に繰り広げていた心理戦は完全に彼女の思う壺。見事に上手を取られてしまった。
提督「お目当てはこれかな」
三隈「もちろんです!忘れたまま座ろうなんて許しませんわ」
いつの間にか両手に切り替わっていた差し出す手に羊羹を置いた途端、恍惚として見入る有様。三隈の羊羹好きは鎮守府随一なのかもしれない。
そんな姿を座ることも忘れて眺めていると、開封の動作に入っていた手が止まり、なぜか再び何かを求める手に変わった。
提督「おいおい、まさか俺のも食べる気か?」
三隈「ち、違います!そんなはしたないこと致しませんわ」
三隈「提督の羊羹、貸していただけますか?」
提督「いいけど……」
三隈「こうして…………はい!」
三隈「こうすれば後でまた食べられます」
渡した羊羹は綺麗に二つに分けられている。半分ずつ二回に分けて食べれば、量は変わらずに二度味わえるという考えだ。本当に羊羹には目がないとみる。
しかしそれと同時に「なるほど」と感嘆してしまうあたり、自分もきっと大概なのだろう。
486: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 00:13:48.49 ID:ws5debWN0
提督「やっぱ間宮さんの羊羹は相変わらず美味いなぁ」
三隈「そうですね、提督と一緒だと尚更ですわ」
提督「そうやってまた大袈裟に」
三隈「あら、今度は大袈裟ではありませんよ?」
三隈「ふふっ──────♪」
487: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 00:15:50.31 ID:ws5debWN0
投下終了。くまりんこ
失礼します
失礼します
490: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 19:37:22.11 ID:ws5debWN0
素でタイプミスって打ってしまった文字がレスにある……いつ書き込んだっけな……
お嬢様艦娘の二人目、熊野はもう少々お待ちください。今度はなんとか日を跨がずに投下をする予定です
お嬢様艦娘の二人目、熊野はもう少々お待ちください。今度はなんとか日を跨がずに投下をする予定です
491: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 23:27:00.18 ID:ws5debWN0
熊野を放置
492: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 23:27:43.58 ID:ws5debWN0
熊野「ん……んぁ…………んんぅ……ふぁ、あぁぁ…………」
熊野「私……ちょっと、眠くなってきましたわ……」
黙々と秘書の仕事をこなしていた熊野が不意に口を開いた。ぶっ通しの作業はさすがに疲れるのも無理はない。
真昼の日差しのみが注ぎ込む陽気な室内、おまけに昨夜は鈴谷に付き合わされて性に合わない夜更かしというものをしてしまったというのだから殊更に眠いだろう。事実俺も全く眠くないというと嘘になってしまう。
提督「夜更かしなんて無理するからだぞ?倒れても仕方ないから軽く寝てきな」
熊野「そうさせていただきますわ。お昼寝なんていつ以来かしら……」
提督「部屋まで戻るのにそんな千鳥足で大丈夫かよ……」
熊野「私、寝具には拘りがありますの。いつもの自分の枕でないと安心して眠れませんわ」
熊野「ということですので、少しお部屋に戻らせていただきます」
提督「それはいいんだが……ついてかなくて平気か?」
熊野「お気持ちだけ受け取らせていただきますわ」
熊野「それでは私は」
熊野「──────あっ」
ゆっくりとドアの前まで歩いては行くが、その足取りはふらふらとしていてどうも覚束ない。しかし「大丈夫か」と聞いても「大丈夫だ」としか返ってこないので致し方もない。
そんな彼女がノブに手をかけたとき、急に何かを思い出したように声をあげその場に立ち止まった。今にも倒れそうである。
熊野「そういえば鈴谷が私のお布団と枕でお昼寝をすると言っていたような……」
提督「そっかあいつも夜更かし組か。てか鈴谷が元凶だ」
熊野「あのセットでないと私…………」
そこまで言ったところで力尽きたように倒れ込んでしまった熊野。念のため近くまで来ていたことが功を奏した。
熊野「あら提督……申し訳ありません…………」
提督「まだ鈴谷が寝てるとは限らないし、部屋まで送るか?」
熊野「んー…………」
うつらうつらとしながら少し考えてソファを指差すと、彼女は腕の中で寝てしまった。さすがに拘るのを諦めたのだろう。
後ろから倒れ込んだ姿勢のまま移動するのは無理があったので、反転させ膝裏へと手をやってから抱き上げる。俗に言う『お姫様抱っこ』というものに当たるだろうか。
移動そのものは難なくできた。が、問題はここからだ。
座らせた熊野がこちらへと寄りかかってきたのである。なるべく起こさぬよう、衝撃を与えないようにと講じた「ひとまず座らせる。話はそれから」という策が仇となってしまった形だ。
今動けば熊野は起きる。動かなければ起きないが仕事も進まない。唐突に突きつけられた難題は相当にタチが悪い。
熊野「やっぱりこの枕でないと……私…………」
提督「俺の肩をいつもの枕と勘違いしてるのか?どんだけ硬い枕なんだよ……」
そもそも座った姿勢のまま枕を使うなどなかなかやらないはずだ。そのはずなのだが、すっかり寝てしまった彼女は横になっているとでも錯覚したのだろう。今や『いつもの枕』と勘違いされたらしい肩でだらしない顔を晒してしまっている。
あのお嬢様な熊野が寝る時はこうなるというのは誰が知っているだろうか?知っていても同室の鈴谷くらいだ。普段ならまず見ない表情、崩すなどということは許されない。崩したくない。
タチの悪い難題の選択肢は二つ。動くか、動かないか────
この状況に置かれて前者を選ぶ者はいないと思う。
493: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/11(水) 23:28:15.68 ID:ws5debWN0
投下終了
失礼します
失礼します
495: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/13(金) 00:04:16.35 ID:5CzurKNt0
磯風を放置(続き)
496: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/13(金) 00:05:45.61 ID:5CzurKNt0
磯風「し、司令!ちょっと待ってくれ、まだ心の準備が……」
以前磯風が武勲を立てたときに交わした「次にMVPを獲ったら……」という約束、その時は案外早く訪れた。ほとんど日を空けず再び武勲を引っ提げて帰投した彼女は、部屋に入るなり報告を手早く済ませ、待ちかねたように頭を差し出す。
今日はいけるのかもしれない……。
そう思ったが当て外れ。置くまではいいのだが、今日も今日とて華奢な手によって動きかけた手に待ったをかけられてしまった。
磯風「すまない、やはり少し恥ずかしい……」
提督「途中までは大丈夫なのに?」
磯風「自分で手入れをするとき以外は弄らぬのだ」
磯風「もちろん他人に触らせるなど司令が初めてだな」
提督「なのに浜風と張り合って撫でてくれなんて言ってきたのか」
磯風「…………言うな」
反撃するように睨みを利かせる彼女ではあったが、一瞬だけ目が合ったときにこれも恥ずかしくなったのか下を向いてしまった。
そのまま互いに行動を起こすこともなく、というよりは起こせなかったというべきだろうか?時間だけが刻一刻と流れていく。置いた手からは高まる鼓動と体温を頭越しに感じられる。
そんな自身の状態に気づいたのか、大きく息を吐き、素早く顔を上げた磯風がこの状況を打破すべく口火を切った。
磯風「司令…………。頼む」
短い一言の他にアイコンタクトを投げかけられる。何かを決意したような目だ。
賽は投げられた────────
そこにはもう阻むような手はなく徐々に力を失っている。そしてその手が弱々しく下へ垂れたとき、待機していた俺の手をゆっくりと動かし始めた。
磯風「んっ………………ふあっ……」
磯風「も、もう少しゆっくり…………」
提督「これよりゆっくりとか止まってるのと変わらなそう」
磯風「む……ではそのままでいい」
意地を張っているにも似たような態度を取る磯風。しかし先ほどのような可愛い反応を見せられてしまうと病み付きになってしまうのだ。撫でる手の早さを段階的に上げていく。
磯風「あ、あぅ…………」
磯風「司令!少し強くなってはいないか……っ?」
作戦は成功、案の定な反応が返ってきた。
艶のある黒髪が乱れるようなことにはなっていないか。そこだけ気を付けて続けていると見る見るうちに意地を張った表情が緩んでいく。
そうして強弱を付けたような撫で方をしばらく続け五分弱、俺は漸く手を離した。離したのだが──────
磯風「ん…………終わりか?」
提督「そろそろな」
磯風「………………司令、忘れたか?今日の立役者はこの磯風だぞ」
最初に同じくまたも白手袋によって確保される手。だが今回は動きを阻むものではないようで、徐に"所定の位置"へと乗せられた。彼女はそのままこちらを睨みつけるような視線で急かしている。
やれやれ、と言いつつも磯風の気が済むまで望み通りに行動してしまう自分がいる。鋭い視線に気圧されてしまったのだ。
そう言い聞かせていたが、手を動かし始めて視線を感じなくなっても続けてしまっているということは、こんな言い訳など通用するはずもない。
497: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/13(金) 00:08:38.97 ID:5CzurKNt0
気が付いたら初潮ちゃん以来の「カッコ内だけ読むと意味深に見える」というやつになっていました。地の文がなかったら完全にアウトっぽく見えますね……
それではまた
それではまた
500: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/13(金) 23:58:39.18 ID:5CzurKNt0
ギリギリでセーフ
地の文は怪しく書いたつもりはないんですけどねー、おっかしいなぁ……
ということで鈴谷投下。ホワイトデーボイスかわいい
地の文は怪しく書いたつもりはないんですけどねー、おっかしいなぁ……
ということで鈴谷投下。ホワイトデーボイスかわいい
501: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/13(金) 23:59:08.39 ID:5CzurKNt0
鈴谷を放置
502: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/13(金) 23:59:36.56 ID:5CzurKNt0
鈴谷「あがー」
提督「…………何やってんだ?」
鈴谷「見ての通りゴロゴロしてるしかないじゃん?」
そう言われてしまうと仕方がない。鈴谷は見たまんまベッドの上で寛いでいた。
連日の出撃でさすがに疲れたのか休暇を求めてきたので、それに応えて今日一日は休暇を与え、好きなところで好きなことをしてもいいと言った結果がこれだ。
無防備な姿をさらけて自室のベッドでのんびりと過ごすこと…………
べつにそれ自体はおかしくもないし素晴らしいことだとは思うのだが、暇つぶしの話し相手ということでなぜか俺も連れ出されてきていた。
鈴谷「てぇーとくぅー、なーんかマジ退屈なんだけどぉ……」
提督「どこ行っても咎めないんだから遊びに出ればいいだろう」
鈴谷「そうなんだけどさぁ……」
鈴谷「そもそも提督って話し相手ってことで連れて来たんじゃん、なんか話題ないのー」
提督「わりと無理があるよなそれ」
連れてこられたのであって、特に話題があるわけではない。
それは恐らく鈴谷も理解はしている筈なのだがどうも気に入らないらしく、ふくれっ面で時には右へ、時には左へと忙しなく転がっている。
鈴谷「じゃあ出撃しないのー?しゅーつーげーきー!」
提督「………………顔、近い」
鈴谷「………………えっ!?」
まさか自分からベッドを降りてぐっと接近してきたことに気が付いていないとでも言うのだろうか?それとも無意識だったなどと言うのだろうか?
何はともあれ現在の鈴谷はベッドから少し距離を置いて床に座っている俺に対し、息もかかるような間近まで接近しては出撃をせがんでいる。出撃に疲れたから休暇を求めてきたのは誰だ──────
そんな在り来たりな感想すら述べられない程にこちらとしても気が動転してしまった。
だがそれは当の本人も大差ないようで、遠のくことも忘れてその場で真っ赤に染めあがり、ブツブツと独り言を言いながら慌てふためいている様子だった。
提督「とりあえず落ち着け」
鈴谷「無理無理無理無理!この状況で落ち着けとか無理難題だってば!」
提督「きっかけ作って引き金も引いた本人が何を言ってんだ……」
鈴谷「だってぇ…………」
提督「────────鈴谷」
鈴谷「ひ、ひゃいっ!?」
返事をしているようなしていないような、どっちともつかずな変な声で反応してくれた鈴谷だが、俺が起こしたアクションはいたって単純。
とりあえず動きを止めようと彼女の両肩を掴んだだけ。
それがどういうわけか逆効果になってしまったらしく、一瞬動きを止めた鈴谷が逆上せあがって再び慌てふためくまでそこまで時間は要さなかった。
鈴谷「もう、なんなの今日は…………」
突然飛び出して元居たベッドの上に舞い戻る鈴谷。状況が掴めずに戸惑う俺。
どうやら今日は一日中、背中を向けて頭から布団を被ってしまった彼女を眺めるだけの日になりそうだ。しかしそれも悪くない──────
時折振り返っては顔を覗かせる鈴谷を見るたびにそう思ってしまうのだった。
503: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 00:00:51.74 ID:hUlKgGbb0
投下終了
鈴谷は気づかないところで勘違いさせておきながら本人はウブ
そしてバレンタインから早くも一ヶ月、ホワイトデーも書かなきゃ……という使命感に駆られたため唐突ですが安価。バレンタインと同じく脱線の番外です
ホワイトデー限定ボイスがある子はそれをベースに、ない子でもどうにかしてお返しするという体でいきます。番外なのでバレンタイン同様に榛名でも、続きの続きまで書いてしまってる春雨ちゃんなどをリクしてもらっても構いません
バレンタインの反対という捉え方で今度は「コンマの最小」の方1名とさせていただきます。連投などは禁止で1名につき艦娘1人までです。
時間は朝の10時までで
長くなりましたが失礼します。時雨は天使
529: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 10:16:42.34 ID:hUlKgGbb0
これまた随分と多くの数……
ありがたき幸せ
最小なので>>522の初風ちゃんで書かせていただきます。
それでは後ほど
ありがたき幸せ
最小なので>>522の初風ちゃんで書かせていただきます。
それでは後ほど
530: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 23:18:37.81 ID:hUlKgGbb0
初風とホワイトデー
531: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 23:19:12.28 ID:hUlKgGbb0
提督「──────初風。ちょうど良かった」
廊下を歩いていると後ろから呼び止める声。いつも聞いている、もう聞き慣れた声だった。
反応して振り返ると予想通り提督が突っ立っている。そして何故だか小さな箱を両手で大事そうに抱えている。
初風「あら提督。提督が私に用なんて珍しいのね」
提督「いや、ひと月前のお返しをしようと思って」
初風「…………ひと月前?」
今日は3月の14日。ひと月前というと丁度2月14日だろうか?その日は紛れもなくバレンタインデー。
他の艦娘が直接手渡しで、十人十色の台詞を言いながらも渡すなか、私はというとなんだか恥ずかしくなってただ机に置いただけ。それと近くに名前だけ書いた紙を置き、ものすごく間接的に渡したことが記憶に新しい。一応手作りではあるのだが……
あの日からもう一ヶ月が経ったというのだから早いものである。
ふと回想に耽っている間目を離していた提督の方へ向き直ると、両手に抱えた箱をこちらへ向けて差し出しているようだった。
初風「なーに?これを私に?」
提督「今日はそういう日だしな」
初風「そういう日…………」
初風「あっ──────」
今日は3月14日。バレンタインからちょうどひと月が経ったこの日はホワイトデーだ、すっかり忘れていた。まさかお返しをもらえるなんて思ってもいなかった。
状況からして提督の手に抱えられているそれは紛れもなく私へのお返しと言ったところだろう。ましてや差し出されてまでいるのだから。
初風(でもバレンタインは他にもたくさんの艦娘がいたから、その分お返しも……)
提督「初風?」
初風「でも……提督はこれを、何人にあげているのかしら?」
返答に詰まっているあたり読み通り。提督は恐らくチョコを貰った艦娘全員にこのお返しをしている筈だ。私の提督というのはそういう人物だった。
わざとらしくジトっとした目で睨みを利かせただけで後ずさりしそうな提督。実に単純だ。
それでもなお差し出すことをやめようとしない彼の手を見て、私もぶっきらぼうに手を差し出す。
初風「…………いいけど。早く寄越しなさいよ」
提督「お、おう……。受け取ってくれるのか?」
初風「まあ、別に何人目だって私の分には変わりないわ」
提督「……実はまだ他にあげた子はいないんだ。予定は随分とあるが」
初風「……つまり、どういうこと?」
提督「要はお前に一番最初に渡しに来たっていうか」
……きっと今私は睨むような視線は送っていないだろう。いや、むしろ目元も口元も緩んでしまっていると思う。一番最初に私のところへ来てくれた────
理由はそれだけ、実に単純だ。ただの偶然かもしれない。むしろその可能性のほうが高い。
ついさっき提督のことを「単純だ」と思ったはずだった。が、それは自分も同じ。もしかしたら提督よりも重症なのかもしれない。
なぜ笑っているのか怪しまれる…………
そう考えて無理にでも目元口元を直そうとするのだが、提督と同じと思うだけでもっと緩んでしまうので収拾がつかないのだ。
532: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 23:19:50.06 ID:hUlKgGbb0
初風(そういえばこれ市販の物……よね、たぶん)
初風(でもこれは特別。だって)
初風(──────私のためにわざわざ買ってくれたんだし)
初風「提督。今年は直で渡せなかったけど……来年は手渡ししてあげる」
初風「それも絶対に一番乗りするから!」
初風「覚悟して待ってること、ね…………♪」
533: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 23:22:00.81 ID:hUlKgGbb0
投下終了
日付が変わる前に間に合って一安心
明日からはまた本編に戻ります。三日月からですね
悲しいことに放置ボイスがないみたいなので日常系かほのぼので書こうと思ってます。
それでは今日はこのあたりで
日付が変わる前に間に合って一安心
明日からはまた本編に戻ります。三日月からですね
悲しいことに放置ボイスがないみたいなので日常系かほのぼので書こうと思ってます。
それでは今日はこのあたりで
536: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/14(土) 23:45:11.55 ID:hUlKgGbb0
言い忘れました。おわかりかと思いますが久々に艦娘視点です
それでは今度こそ失礼します
それでは今度こそ失礼します
539: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/15(日) 23:17:20.93 ID:IWQ7MJpf0
三日月と日常
540: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/15(日) 23:18:05.74 ID:IWQ7MJpf0
三日月「遅れてすみません司令官!」
時刻は午前6時。
勢いよく開け放たれたドアから姿を現したのは、今日の秘書をお願いした三日月だった。
提督「遅れたって、三日月はいつもかなり早く来てくれるからな」
三日月「すみません……」
提督「いや、お前がいつも早いからこの時間は遅れたうちに入らないと思うぞ」
提督「一応聞くけど原因は?」
三日月「…………寝坊、です」
そう呟いた彼女は申し訳なさそうに目を逸らす。
寝坊というと三日月にしては非常に珍しいことなのだが、べつにそれを責めようとも思わない。遅れた時間としては『三日月がいつも来る時間』から1時間。だが『既定の時間』でいうとぴったりの時間だ、まさにドンピシャだろう。
生真面目な彼女はそれに気づいていないのかいまだ自分を責めているようだが、そのままいても埒が明かないのでひとまず呼び寄せると意外とすんなり従った。
提督「まあそんな考え込むな。遅れたもんはしゃーない」
三日月「そう……ですよね」
提督「そうそう、じゃあ今日も始めますか」
三日月「……頑張りますっ!」
気合を入れ直して机を挟んだ向こう側で作業を始めた三日月の髪が揺らめく。彼女の黒髪はいつも「髪の乱れは心の乱れ」という言葉通りに整えられていた。
そのはずが、間近に来てようやく予てから覚えていた違和感に気づいた。
…………上下に不規則に渦を巻く、もみあげ付近の横髪。
わざわざセットしたとは思えないそれは明らかに寝癖。入ってきたときからの様子を考えると、恐らく寝坊したと焦って手が回らなかったのだろう。
三日月「あの、司令官……?さっきから私のほう見てますけど、どうかされましたか?」
提督「え……あ、ごめん特にないんだ」
三日月「そうですか……。ならいいですけど」
どうやら本人は寝癖に気が付いていない。教えてあげるか否か──────
本能が咄嗟に「もっと眺めていたい」との判断を下した瞬間である。
眺めているうちに連想は膨らみ、ふと寝坊したと焦る三日月のことを考えてみたとき、ギャップもあるはずなのにそれを感じさせないような三日月の慌てっぷりが目に浮かんだ。
今現在の彼女は黙々と作業中。
しかし数分前の彼女は寝坊に焦って右往左往としていたはず…………
提督「……………………ふっ」
三日月「や、やっぱり何かあるのですか!?」
意識せずに零れてしまった笑みに反応する三日月。他から見ればなぜ笑ったのかわからずに不気味に思われるかもしれない、というか思われるだろう。
それでも三日月は不気味に思う前にその理由を知りたいらしく執拗に聞いてくる。
想像に過ぎなかった取り乱す姿が目の前に──────
その姿と想像のなかの寝坊に焦る姿を重ねてみたところ、またも無意識に笑ってしまうのだった。今度の想像はより鮮明に映し出されていく。
三日月「さっきからなんなんですか、教えてください!顔とかどこかおかしいのですか?」
提督「いや、顔じゃなくてさ、その………………ふふっ」
三日月「──────!?」
三日月「もうっ!」
541: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/15(日) 23:20:16.86 ID:IWQ7MJpf0
投下終了
三日月ちゃんの頭の中央にあるアホ毛とも癖毛ともつかないあれをクルクル弄って困惑させたい
三日月ちゃんの頭の中央にあるアホ毛とも癖毛ともつかないあれをクルクル弄って困惑させたい
543: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/16(月) 23:16:57.02 ID:lirGFxlg0
北上を放置(続き)
544: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/16(月) 23:17:31.99 ID:lirGFxlg0
提督「………………北上」
北上「今度はなにさ」
提督「そろそろ離れてくれ」
北上「好きにしろって言ったのは提督じゃん」
提督「いやまあそうだけどさ……」
北上に抱き枕にされてから早くも30分。ちらほらと睡眠を取る艦娘も出てくる時間に差し掛かっていた。
それもお構いなしに北上による『好き放題』は依然として続いていて、スキンシップだと称してはやけにくっ付いたり擦り寄ってきたりする。スキンシップにしては度が過ぎているような気がしないでもない……
提督「そろそろ戻らないと寝れないぞ。てか大井が心配した挙句俺が疑われるから……」
北上「平気平気、あたしが風呂出てから遅いってことは大井っちもよーく知ってるし」
北上「そ・れ・に!戻らなくたって寝れるし?」
提督「…………何が言いたい」
北上「…………ご想像にお任せしまーす」
バツの悪そうな、妙に空いた間隔ののちそう答えると、彼女はより一層猫のように擦り付いてくる。
ご想像に任せるも何も、北上の考えそうなことなど見当はついている。きっと彼女はここで寝るとか言い出すに違いないだろう。
それを裏付けるかのように、背後の彼女からは一向に動くような気配を感じ取ることができない。それどころか完全に顔を埋めてしまい電気の明かりが目に入らないようにしているあたり、すでに睡眠体制に入っているとも取れるのだ。
提督「お前なぁ……。風邪引くから部屋に戻って寝なさい」
北上「大丈夫だって、こうしてりゃ暖かいんだし」
提督「この前布団も掛けずに寝て思いっきり体調崩してたのを忘れたのか」
北上「え、あ、あれは…………………」
北上「はぁ……。わかりましたよー」
提督「わかればよし。素直で助かる」
案外速やかに離れていくものである。
ようやく解放された自分の身体を確かめるように立ち上がって伸びをし、布団を敷くべく準備に取り掛かった。
北上はというとやたらゆっくりではあるがドアのほうへと歩き出している。きっとそのまま部屋へと戻るはずだ。
北上「よっ、と」
思わぬ奇襲を受けたのはそんな彼女から目を離したまま布団を敷き終わったときだった。
ドア付近で不敵な笑みを浮かべ急に反転した北上は敷いた布団に潜り込み、俺よりも早くに掛布団を被ってしまった。
提督「おい、わかったって何だったんだ」
北上「わかってるって、布団を掛ければいいよね?」
…………してやられた。北上は部屋には戻る気はなさそうだ。彼女の言う「わかった」とは、あくまで「布団を掛けなかった」ことに対してだったというのだろう。
出し抜かれた俺とは対照的に、一本取った北上はさっきよりも機嫌がいい。
寝床を作り終わったところを見計らって横取りするとは卑怯な──────
北上「あ、もちろん提督も一緒だよ?そっちのが暖かいし」
北上「さあさ、早く寝ないと風邪ひきますよー」
そんな反撃の言葉も、北上の前ではどうしてか喉まで来ては引っ込んでしまうのだった。
547: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/17(火) 23:10:46.55 ID:pNgtghEM0
如月を放置(続き)
548: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/17(火) 23:11:27.79 ID:pNgtghEM0
この時期にしては暑いくらいの感覚で目が覚めた。見れば朝特有の光が頬に照り付け熱を放射している。
昨夜は如月が敷いてくれた布団で寝たわけだがさすがにその面影は残っておらず、彼女の残したしわのような窪みも一晩のうちに俺が掻き消してしまった。当たり前と言えばそれはもっともではある。が、それでもどこか名残惜しい。
如月「司令官、起きてる?」
叩かれたドアの向こうからはよく聞き慣れている声。四回もノックする子が多い鎮守府において、軽く三回のノックということも相まってすぐに如月だと見当を付けられた。
「いま起きたばかりだ」と返事をすると、ドアの外の手はノブに手をかけ何の躊躇いもなくそれを回す。突然のことに急いで飛び起きるこの光景、きっと如月が見たら笑われることだろう。
そうして開けられた廊下との間に隔たる板の向こうから、やはり昨晩も見たような姿が目に飛び込んできた。
如月「おはようございます、司令官」
提督「おはよう。随分と早いけど何か用か?」
如月「用というか……ちゃんと寝られたかなーって、聞きに来たの」
提督「それなら平気だ、よく眠れたよ。ありがとうな」
如月「そう……。安心したわ」
微かな笑みを浮かべてそう呟き、見慣れたはずの室内を見渡している。もう用件は済んだので部屋に戻るんじゃないのか────
そうも思ったが、考えてみれば如月が「ちゃんと寝られたか」を聞くためだけにここに来るなどあり得ないのだ。
次に起こすアクションに注意しつつ昨晩の如月と同様にして布団の上に正座をすると、それを見るなりゆっくりと歩み寄ってきて、さも当然かのように隣へふわりと腰が下りる。
如月「このお布団、何か変わったことはあった?」
提督「変わったこと?特にはないけど」
提督「…………強いて言えばなんかいい匂いがした」
如月「…………いい匂い、ね」
如月「それってなんの匂いかわかるかしら?」
提督「さあ?見当も付かん」
如月「それは困ったわね……」
やれやれ、というような態度の意図がわからない。
わからないまま、力が抜けたように横に倒れた如月の頭が膝へと飛び込む。いつの間に横たわる体勢になったのか……。
ただその後は何か行動を起こすでもなく動きもないまま時間が過ぎていく。朝の日差しは次第に強くなり、さらに強烈に頬を照り付けてくる。
そんな時、不意に彼女が口を開いた。
如月「でも大丈夫、如月が教えてあげるわ」
如月「──────ただ単に少しお布団を借りただけ」
如月「だから、ここにもちゃんと残さないと……ねっ♪」
飛び出した言葉はまさかのカミングアウト。
加えて匂いを練り込むかのように頭を、顔を動かすのでもうどうしようもない。きっと今は謎の罪悪感や恥ずかしさに動揺を隠しきれていないだろう。
そんな俺を横目に、如月は静かに笑った。
549: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/17(火) 23:13:54.64 ID:pNgtghEM0
投下終了
数えたら切りがいい数になりそうなので、明日あたりまた安価を取ります。
恐らくそれが最後になると思うのでご了承ください
それでは失礼します
552: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/18(水) 23:12:08.66 ID:5R8JHfJg0
飛龍とほのぼの
553: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/18(水) 23:12:43.76 ID:5R8JHfJg0
提督「春だなぁ」
飛龍「春ですねー」
和室の縁側、足を放り出して座ると視界に飛び込むのは梅の花。つい数日前までは吹くことのなかった生暖かい風が肌を掠めていく。
飛龍「提督って、よく私を使ってくれるよね」
提督「それがどうかしたか?」
飛龍「……やっぱり、改二になったから?」
自分で言うのもなんだがおかしな気分になるが改二になってからというもの全空母中最高の回避、そして何よりも火力を手に入れた私は、攻撃というものにおいて絶対の自信を感じるようになった。それに伴ってか提督はよく難関な海域でも私に任せてくれることが増えたのだ。
提督はしばらく無言のまま、穏やかな表情で小さく咲き誇る梅の花を見つめている。
提督「──────レベリングって、した覚えある?」
飛龍「…………え?」
少し意外な返答をした提督が発した言葉は、レベリングの覚えがあるかというもの。特にそういうことをした覚えはない。
改二になった日のことはよく覚えている。
突然提督がよくわからない紙を持って飛んできて、状況を把握できないまま工廠へ連れていかれ、気が付いたらこの姿。それが意味することは『練度が十分に足りていた』ということ────────
そこでやっと気が付いた私に、提督が静かに微笑みかける。
飛龍「改二の前から使ってくれてたっけ。でもどうして強くもない私を?」
提督「そうだなぁ…………」
提督「別に弱いとは思ってなかったし」
飛龍「…………そっか」
提督「…………率直に言うと気に入ったから」
飛龍「…………ふふっ」
気に入った
人として、艦娘として、そもそも艦艇として、または──────
その言葉が意味するところはわからない。でも悪い気はしない。むしろ嬉しい部分が大きいだろう。
立ち上がってその大きな背中をわざと強めに叩くと、彼は振り返って目を丸くしている。
飛龍「お茶とか持ってきてあげよっか?」
提督「どういう風の吹き回しだ、春になるってのに雪でも降らせる気か?」
飛龍「今日はそういう気分なの!」
確かにいつもは持ってきてもらうほうの立場であることは事実だ。提督を使ってしまうことが多々あるのも否定するつもりはない。
提督は「気に入った」と言ってくれた。そして私も同様に、提督を「気に入っている」からつい使ってしまうのだ。私の「気に入った」は、決して上官としてだけではない。
飛龍「たまにはいつもの恩返し、させてよね」
提督「……じゃあお言葉に甘えて」
飛龍「それでよしっ」
554: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/18(水) 23:17:54.39 ID:5R8JHfJg0
二航戦にボイス追加が来ないのは訴訟もの
ということで予告通りの安価タイム。残り分を含めてこれが最後となる予定です
方法は0時直前の3名で、一名につき一人まで
続きを書いた子は含めずに連投は禁止でお願います
それではまた後ほど
556: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/18(水) 23:20:42.44 ID:5R8JHfJg0
>>555
直前というか直近というか……
とりあえず>>289に同じく、時間に近い方のを取らせていただきます
直前というか直近というか……
とりあえず>>289に同じく、時間に近い方のを取らせていただきます
558: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/18(水) 23:23:24.50 ID:5R8JHfJg0
>>557
0時直近で3名なので、過ぎた方はそうなります。ご了承ください
0時直近で3名なので、過ぎた方はそうなります。ご了承ください
566: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/19(木) 00:04:08.46 ID:vPMz56Y+0
恐るべしスナイパーの方々。勢いが素晴らしすぎやしませんかね……
直近なので>>560加賀さん、>>561大井っち、>>562足柄さんで了解です!
それでは失礼します
569: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/19(木) 23:51:37.11 ID:vPMz56Y+0
瑞鳳を放置(続き)
570: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/19(木) 23:53:12.82 ID:vPMz56Y+0
提督「お疲れさま。今日は多くて疲れただろ?」
瑞鳳「ほんとほんと、もっと早く始めればこんな時間にならなかったのに」
言葉に黙り込んでしまう提督。
時間は既に日付が変わったことを表している。いくら仕事量が多かったとはいえ、この時間まで長引いてしまうのはほとんどなかったことだ。それもこれも長いこと背中合わせで座り込んで怠けていたこと無しには語れないだろう。今になって「もっと強く言って動いていれば」と後悔するが、それこそ後の祭りというものだ。
もっともきっかけを作ってしまったのは私であるが
提督「もう遅いし、早いとこ戻って寝るといい」
瑞鳳「そうさせてもらうね」
瑞鳳「でもこの床も卑怯よね……」
提督「何が?」
瑞鳳「だって、こんなに座り込みたくなる床なんだもん」
桜の季節だからというだけの理由でいつものフローリングに花弁をばら撒いただけの単純な床。ただそれだけの床なのだが、個人的にこれがとても気に入っているのだ。落ちている桜を屈んで手に取って眺めているうちにいつの間にか座ってしまう。
そして今この瞬間も相変わらず、再び私に腰を下ろさせている。
提督「なるほど、よくわかった」
そう声が聞こえた後、反応するような間もなくして昼と同程度の重みが背中へ掛かる。今の今まで私の様子を眺めていた提督は目の前にはいない。
瑞鳳「またそうやって寄り掛かる!」
提督「瑞鳳の背中見てるとこうしたくなるから仕方ない」
瑞鳳「うぅ…………」
全く理解不能な理由の典型だ。しかしここで反論しても押し通すことはできない。客観的に見ると『座り込みたくなる床』というのもだいぶ理由になっていないのだから。
それに正直に言ってしまえばこの状況は嫌いじゃない。
提督「でもまた変に長引いても寝れないし、今はやめておくか」
瑞鳳「────────だめ」
…………もう少し正直に言うとむしろ好きな部類に入ると思う。立ち上がろうとした提督の袖を、無意識に掴んでは引き留めてしまった自分が怖い。
提督「床に散らばった花弁で夜桜見物とは斬新だな」
瑞鳳「いいんじゃない?外は寒いし」
提督「それもそうか」
瑞鳳「うん。それに私はこっちのほうが好きかな」
瑞鳳「………………状況的にもね」
571: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/19(木) 23:54:52.83 ID:vPMz56Y+0
投下終了
なぜだか二日連続の艦娘視点
失礼します
574: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/20(金) 23:32:38.01 ID:/HvGcytd0
朧ちゃん投下します。が……
続きを期待されている方がいたらごめんなさい、放置ボイス眺めたり聞いたりしてたら別のシチュエーションが思い浮かんできてしまったのでそっちを書かせていただきました。しかも2パターンも浮かんでしまったのでどっちも書きました
ということで朧ちゃん二つとも投下
575: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/20(金) 23:33:08.40 ID:/HvGcytd0
朧を放置 2
576: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/20(金) 23:34:08.66 ID:/HvGcytd0
朧「…………提督」
視線を動かすことなくこちらの様子を眺めていた朧が不意に動く。様子と言っても特に面白いようなことはなく、ただいつも通りに執務をしていただけである。
体は動くのだが視線はじっと動かず、相変わらずこちらへと真っ直ぐ向けられたまま、彼女は迷いもなくすぐ隣へと小さな体躯を落ち着かせた。
朧「朧、ここに待機しています」
提督「お、おう?」
朧「だからその…………」
ふと視線を落とした朧。
待機しているなどということは言われなくてもわかっているのだが、敢えて言葉にするということは何か言いたかったのだろうか?
その時は口ごもる朧を気にすることもなく再び机上へと視線を移した。
朧「──────提督!」
移したのだが、今度は机を叩く手の音と強めの口調によってまたも呼び止められたのだ。体を乗り出している朧の表情は少し怒っているようにも見える。
提督「どうした?」
朧「待機しています、よ?…………はい」
一転、言葉を発するごとに先細っていく口調。やはり何かを伝えたいのだろう。
少し手を止め考えてはみるが見当も付かず。何かヒントはないものかと隣に待機する秘書へ視線をやると、どこかもどかしそうに山積みの書類を見つめていた。
もしかすると────────
提督「そうだなぁ、じゃあ秘書の朧に手伝いを頼みたい」
朧「………………!」
提督「頼まれてくれるか?」
朧「がんばる……!」
その一言で顔に活気が戻る。やはり朧はこうあるべきだと思った瞬間である。人一倍に責任感の強い秘書と共に行う作業は実に捗るものだった。
提督「でもいいのか?」
朧「朧、今日は秘書ですから」
朧「提督の秘書、そんなには嫌いじゃない……です」
577: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/20(金) 23:34:57.99 ID:/HvGcytd0
提督「…………誰だ?」
閉ざされた個室に外の光が差し込む。
朧「……提督が体調崩したって」
提督「朧か。ただ風邪引いただけだ、それよりうつるぞ」
朧「平気。それよりも提督が心配」
提督「寝てりゃほっといても治るさ」
朧「看病すれば、もっと早く治るもん」
気怠さを感じ体温を測ったら微熱と言ったところ。それでも大事を取って、主に明石の勧めでこうして休んでしまっている。鎮守府内の情報網というのも恐ろしいものだ。
咎めるこちらには見向きもせずにそそくさと替えのタオルを持って来たり、食べやすいようにと粥を持って来たり、何か飲み物はいらないかと聞いて来たり……。すべて数えていたら頭がパンクしそうなほど。至れり尽くせりという言葉がぴったりだろう
が、その間であっても真面目な表情は一切崩さずにいるあたり朧らしい。もはや罪悪感を感じるほどだ。
提督「ごめんな……」
朧「あたしが自分でやってるから、謝らなくていい」
提督「でも……。もう戻るといい」
朧「………………」
どういうわけかムッとした目でいる朧と、無言のまま距離が縮まっていく。俺が寝るベッドの淵まで来たところでそこに腰を下ろし、布団の中に手を入れては何かを探すように弄っている。
やがて背中を向けたまま彼女は小さく呟いた。
朧「提督。朧、ここに待機しています。待機しています、よ?」
朧「…………はい」
提督「いや、無理しなくても」
朧「もし『待機していたい』って言っても、ダメですか?」
探し物を弄っていた手がその在処に辿り着いたとき、同時に口から出たのは『待機していたい』というもの。色々と心配は残ったが拒否することもできない。
隠れていた俺の右手は、潜り込ませた朧の右手によってしっかりと捕捉されていた。
提督「ところでさ、なんで絆創膏持ってるんだ?」
朧「提督が風邪引いたって言うから持ってきた」
提督「…………なかなか面白い発想をするのな」
朧「いいの!」
朧「…………間違っただけだけど、提督が笑ってくれたからそれでいい」
578: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/20(金) 23:37:23.89 ID:/HvGcytd0
おっと
>>577は「朧を放置 3」です、訂正
風邪を引いたからこそ思い浮かんできたシチュ。風邪引いて良かった(血反吐)
ということで朧ちゃんに看病されて来ます。
580: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 20:31:26.62 ID:s5bPzEDb0
>>579
お心遣いありがとうございます。なんとか大丈夫です
今日は少し時間があったので二人ほど書けそうです。恐らくどちらも微糖……の予定
加賀さんのは「五航戦の子が~」って言う現在のより、夏イベ前のやつのほうが好きだし書きやすいのでそっちにしようと思いますがよろしいですか?
582: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 21:49:51.91 ID:s5bPzEDb0
>>581
了解です。個人的に書きやすい以前の放置ボイスでやらせていただきます
ではまた後ほど
584: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 23:48:21.30 ID:s5bPzEDb0
朧ちゃんに看病されるんなら風邪くらい年がら年中引いててやりますよ、ええ。むしろそうでありたい
大井っちと加賀さん投下します。予告通り微糖のはず
585: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 23:48:59.29 ID:s5bPzEDb0
大井を放置
586: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 23:49:55.97 ID:s5bPzEDb0
大井「北上さん、大丈夫かなぁ」
険しい顔で頬杖をついて呟く大井。止まることを知らない秒針と睨めっこしていた。
大井「私がいないと心配だなぁ……うん……心配…………」
大井「きっと、そう。何か起きてる……!」
大井「私、行かなきゃ!」
提督「北上なら部屋で漫画読んでるって言ってたから安心しろ」
大井「で、でも」
提督「…………秘書艦」
大井「…………なんて狡い単語」
提督「秘書なんだから仕方ないだろう」
深いところでの根っこは真面目な彼女は「はいはい」と仕方なく返事をしてから作業に戻る。真剣な面持ちで黙々と打ち込む姿は、北上を執拗に心配するさっきの大井とは別人にすら見えるものだ。
一つ一つ小さく声に出して確実に、手際良くこなしていく様はまるで主婦のように目に映った。
そんなことを考えながら眺めていると、ふとあることを思い出す──────
提督「そういえばさ」
一旦作業の手を止め振り返る。そして不思議そうに俺の言葉を待っている。
提督「最近『提督も愛してます』とか聞かなくなったな」
大井「それが、どうかしました?」
提督「いや、どうしてかなーって」
大井「まさか本気にしたんですか?冗談なんだけど」
提督「冗談なんてわかってるよ、気になっただけ」
大井「……気にしなくていいですから。それより提督も作業手伝ってくださいね」
特に理由を答えることもなく持ち場へ就いた大井を見て、心残りではあるが極力気にしないように自分も戻っていく。思えば大井のことだ、その『冗談』を言うことに飽きただけというのが落としどころだろう。
そのまま特に雑談をするようなこともなく、必要最低限の会話だけで時間が過ぎていく。耳に入るのは時計の針が回る音、書類を整理する音、そして継続される彼女の小さな声出し確認。先ほど比べて少しだけテンポが悪くなっただろうか?
次の作業に取り掛かるべく大井が目の前を横切ったとき、わずかに顔を上げたところでちらっと視線が交差する。
大井「……………………」
大井「えーっと、次は…………」
それに気づくや否や慌てて目を逸らすような動作で回避してしまうのはお互い様。このような状況だと仕方のないことだと思いたい。
一瞬だけ見ることのできた頬は淡い紅色に染め上がり、その表情はどこはかとなく恥じらっているようである。
果たしてどこにそんな要素があっただろう、と覗きこんで考察するのだが──────
大井「あ、あの、顔に何か付いてますか?」
どうしてかやけにタイミング良く遮られてしまうのであった。
587: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 23:50:25.81 ID:s5bPzEDb0
加賀を放置
588: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 23:52:08.91 ID:s5bPzEDb0
加賀「提督。お茶、淹れてきたわ」
提督「ん、気が利くな。ありがとう」
加賀「…………いいけれど」
加賀「今日の仕事はもう終わったのかしら?」
提督「おかげさまで。手伝ってくれてありがとな」
今日の秘書は加賀。彼女が手伝ってくれたときはなぜか集中できるので早く終わるのだ。いつもなら日を跨いでしまうような仕事も、このように夕方には終わることができる。
出撃時につけているような艤装はほとんど外されて、今は『カ』の字の入った甲板後部が腰に付けられているだけである。
手には弓の代わりに、持ってきてくれたお茶が置かれていた盆が抱えられていた。
お茶を置いてからはすぐ真横に立ち、顔を少しばかり下に向けて目を瞑っている。この日のように早く仕事が終わったときは、いつもならすぐに戻っていくのが当たり前だった。
だが今日は違うようだ。何か用でも残っているのだろうか?
提督「……どうした、もう戻ってもいいぞ」
加賀「……いえ、もう少し居ます。気に障ってしまうかしら?」
提督「……いや、気にしないけどさ」
加賀「そう。それはそれで…………少し寂しいわね」
提督「──────────」
普段はこんなことを言わない加賀が『寂しい』などと言ってくる時点で大ニュースだ。突然のことにだいぶ戸惑っているということは、きっと彼女にも伝わってしまっているのだろう。
相も変わらずピクリともせず、表情一つすら変えずに黙っている加賀。そんな彼女が少々不気味にすら思える。
加賀「…………あの」
提督「………………」
加賀「…………いえ、なんでもないわ」
加賀「ふふ……………………」
どうも引っかかる言葉だが、それもまた加賀の笑い声によって掻き消される。最近やっと感情を表すようになってくれて、こちらとしては大変に嬉しいものだ。
しかしそれを指摘したりすると────────
加賀「笑った?」
加賀「……記憶にないわね。なんのことかしら」
決まってとぼけられるのだった。
589: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/21(土) 23:53:53.12 ID:s5bPzEDb0
投下終了
実は加賀さんも大井っちも以前の放置ボイスのほうが好きだったりするので思いっきり表れてしまいました。仕方ないね
593: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/23(月) 00:03:53.94 ID:Dv7NnIhm0
大井っちとかケッコンしたらデレデレってかヤンデレですからね。レズじゃない大井っちもっと増えろ
ということで最後の投下足柄さん、行きます!
594: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/23(月) 00:04:23.33 ID:Dv7NnIhm0
足柄を放置
595: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/23(月) 00:04:58.24 ID:Dv7NnIhm0
時計の針は12と4を指す。つい先ほどまで漆黒に消えかけていたような窓の向こう側も、いつの間にか薄ら明るくなってくる時間だ。
飲み疲れて寝入ってしまった足柄は、そのまま座っていても居心地いいものではないと思うでソファに移動させてからは、起きるような様子は一切なくなっている。まだ少し残っている一升瓶の首元をしっかりと握って、戦闘任務中では見られないような穏やかな表情で居座っていた。
そんな貴重な表情を堪能していたところ、気づいたら朝方になっていたというとんでもないオチである。
しかしそんな状況で気になることがひとつ。
…………ストレートに言うと寝言が凄まじいのだ。
足柄「まだまだぁ……まだ飲むわよ…………」
提督「飲み潰れたのに何を言ってんだか」
提督「てかさっきは俺が危ないって設定だったよな。なんと早い切り替わり」
足柄「……次の作戦は!ねえ、次の作戦海域はどこ!?」
提督「……今度は戦闘か」
足柄「勝利が、戦闘が……!戦いが私を呼んでいるの!」
彼女の見る夢はどうもとんでもない早さで切り替わるらしい。ここ数十分の間、数えただけでも実に3つの展開が演出された。『提督が危ない』という設定、『飲み潰れてなお飲もうとする』設定、そして現在は足柄の象徴でありお家芸とすら言える『戦闘』の設定。
言葉に合わせるかのように両手が自在に宙を行き来する姿はまるでどこかの劇団にでもいそうな感じを醸し出していた。忘れてはいけないのが、彼女は睡眠中であること。無意識とは思えない演技力だ。
動きに動いた手はやがて止まり、一升瓶の持たれていない左手のみが宙に残る。そして指のみが、掴めるはずもない空気でも掴むかのような柔らかい運動を繰り広げている。
足柄「お前たちなぞ……私一人で十分よー…………」
足柄「口ほどにもないぃ…………」
握る動作、開く動作
開いたときに自分の手を持って行ったのはほんの出来心。握る動作と共に案の定掴まれてしまった。
足柄「提督っ……!よかった、無事だったのね」
足柄「まあ私、足柄がいるんですもの。無事でとう……ぜん…………」
いくら夢とは言え死にかけの設定というのは如何なものなのか。言ったところで熟睡中の彼女の耳に入ることはないだろう。
そもそも起きてたとしてもこちらに発言の隙を与えないような、かなり短い間隔で言葉を発している。寝言なので一種の独り言、当然と言えば当然であるが
それを境にパタリと寝言を発しなくなったものなので、部屋に聞こえるのは時計の乾ききった音だけ。少々寂れた雰囲気になったが嫌いではない。出来心で掴まれた手も解放される気配はなく、もちろんその予定もなさそうだった。
それどころか重力に逆らわず引き寄せられた結果一段と強く拘束されている。
提督「どうすっかなーこれ……」
足柄「うにゃぁ…………んん……」
提督「……まあいっか」
強く握られてしまった手。
いっそこれを維持したまま放置して貴重な表情の堪能を続けるか、振りほどいて起こすかもしれないという綱渡りをするか……。放置された身の足柄はこの葛藤を知る由もなく、無防備に寝顔をこちらへ向けている。
提督「もう少し楽しむか」
提督「…………もう少しってか起きるまで」
提督「起きたときも反応が楽しみだな、これ」
提督「──────いい寝顔だ。おやすみ」
起きるであろう数時間後に期待して静かに呟き、放置してみるのだった。
596: ◆p5cDRlL7.w 2015/03/23(月) 00:08:01.32 ID:Dv7NnIhm0
これにて全投下終了です
気づけば約2ヶ月ですか。たくさんの艦娘を書かせていただきましたね
慣れない地の文だったので違和感などあったかもしれませんが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
後ほどHTML申請しておきます
またどこかで見かけていただけたら、その時はどうぞよろしくお願いいたします
P.S.
朝雲ちゃん、ごめん。初潮ちゃんのときなぜか最初に連想されちゃったから少しだけモデルになってもらったんだ
元スレ:https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422684306/
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